第3話 とりあえず
「こんにちは。
梱包箱の追加注文はいかがですか?」
「おい、あんた!
どうしてくれるんだよ。
クレームのメールだらけじゃないか!」
佐木沢の顔を見た船岡は、思わず声を荒げた。
「どのようなクレームですか?」
話を聞いた佐木沢が、「ふんふん」と頷きながらアドバイスを始めた。
「とりあえず、わざと論点をずらし、のらりくらりとかわす対応は有効ですよ。
外寸81cmが100サイズになるのは、運送会社の決まり事で、こちらが決めたことではないと答えてはいかがでしょうか。
外寸81cmの梱包箱を使用すること自体についてのクレームに対しては、梱包店が外寸81cmの梱包箱を持ってきたと答えましょう。
それでも文句を言う客に対しては、そんなことでクレームをつけてくるのは、あなたしかいない。あなただけがおかしいと強気に出るのです」
「詐欺だと言ってくるヤツもいるんだぞ」
「それはラッキーですよ。
こちらは100サイズの梱包箱を使っていることに間違いは無いのですから、名誉棄損で訴えると、逆に脅しをかけましょう」
「お、脅すのか?」
「そうすれば、相手は引っ込みますよ」
「……分かった。
騒ぎが収まるなら、とりあえず、その対応をしてみるよ」
船岡は渋々頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆
『サギトリ水産』と書かれた小さな事務所。
佐木沢はパソコンの画面を見て、笑い声をあげていた。
「馬鹿じゃねーのか。
そんな頭の悪い対応をして、収まる訳が無いだろ。
SNSに返信メールや商品をさらされて、大炎上してるじゃねぇか。
そもそも、外寸81cmの梱包箱に入る量の魚なら、外寸80cmの梱包箱にだって入るだろ。
わざわざ100サイズにあげて、客に送料を負担させて、送る分量が80サイズとか、苦情が入らない方がおかしいだろ」
「ちょっと、あんた」
そこに佐木沢の妻が現れた。
「あんたさあ、同業者をからかって潰すのはいいけど、客はちゃんと、こっちに流れて来てるの?」
「ん~~」と言いながら、佐木沢は、通販サイトに掲載している自社の販売ページを開いた。
「……少しは増えたかな。
我が『サギトリ水産』の商品は、嘘偽りなく、外寸80、100の梱包箱に、魚をしっかりと詰めて発送しておりますって、大きく宣伝しているからな」
「で、利益は出てるの?」
妻が横から、パソコンの画面を覗き込んだ。
「赤字じゃないが、なかなか厳しいよな。
なにか良い方法はないもんかな」
「こんにちは」
と、そこにスーツ姿の男が現れた。
「ん? 誰だい?」
佐木沢が顔を向ける。
「わたくし『アゲゾコ保冷剤』の立原と申します。
通販サイトで、御社のページを拝見し、利益アップのお手伝いができると思い、うかがわせて頂きました」
「利益アップ?」
佐木沢が興味を持った顔になると、立原と名乗る男は、バッグから保冷剤を取り出した。
「わが社の保冷剤は、冷却効果はイマイチですが、ご覧の通り、やたらと大きくて場所を取ります。
100サイズの梱包箱に入れていただくと、その後、商品の入るスペースは80サイズの梱包箱と同程度になるでしょうか」
「なるほど。
詰める魚の分量を少なくし、原価を抑えられるってところか」
「どうでしょうか、とりあえず……」
「そうだな、とりあえず、使ってみるか……」
とりあえず通販詐欺 七倉イルカ @nuts05
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