第2話 外寸とサイズ
事務机の引き出しからメジャーを取り出した船岡は、作業台にある、60サイズの梱包箱の外寸を計測した。
長さ・28cm。幅・20cm。深さ・13cm。合計61cm。
外寸61cm!
これは60サイズの梱包箱ではなかったのだ。
60サイズの基準を1cmオーバーしているため、この梱包箱は、80サイズに区分される。
さらに船岡は、80サイズと思っていた梱包箱を計測した。
長さ・32cm。幅・25cm。深さ24cm。合計81cm。
これも80サイズの基準を1cmオーバーしているため、80ではなく、100サイズに区分される。
つまり佐木沢は、購入者には、外寸80cmの梱包箱いっぱいの鮮魚を売ると勘違いさせ、一回り小さな外寸61cmの梱包箱を使えと言っているのだ。
100サイズも同じである。
外寸100cmの梱包箱いっぱいの鮮魚を売るとみせかけ、一回り小さな外寸81cmの梱包箱を使って発送する。
「あんた、それは詐欺じゃないか」
「いえいえ、違います。
商品説明に、『外寸100cmの梱包箱いっぱいの鮮魚』と記載していれば詐欺ですが、『100サイズの梱包箱いっぱいの鮮魚』と記載していれば、外寸81cmの梱包箱に詰めて発送しても、なんら問題はありません」
佐木沢はシレッとした顔で答える。
「梱包箱を一回り小さくすることで、入る魚の分量も少なくなります。
原価が抑えられ、その分、利益があがります。
どうでしょうか?
直近の利益はグッとあがること、間違いありませんよ。
迷いがあるなら、とりあえず、試してみると言う形でもいいのではないでしょうか?」
「そ、そうだな……、とりあえずか」
船岡は卑しい笑みを浮かべた。
「うん。とりあえず、一度試してみるか」
増えるであろう利益を想像し、卑しい笑いが、さらに卑しくなる。
◆◇◆◇◆◇◆
佐木沢から、80サイズ・外寸61cmの梱包箱、100サイズ・外寸81cmの梱包箱を仕入れた船岡は、『特別セール』として売り出した。
『鮮魚詰め合わせA・1キロ以上 2300円(税込み)+送料』【休止中】
『鮮魚詰め合わせB・80サイズに入るだけ 4200円(税込み)+送料』
『鮮魚詰め合わせC・100サイズに入るだけ 8500円(税込み)+送料』
良心の呵責に耐え兼ね、ほんの少しだけ値下げする。
商品は次々と売れた。
そして、発送した商品が購入者に届き始めると、次々とクレームのメールが来た。
『サイズが違う!
80サイズを頼んだのに、60サイズで送られてきました』
『サイズが小さいですよ!』
『100サイズの代金を払ったのに、届いたのは80サイズです。
どういうことですか!』
『詐欺かよ!』
そんなとき、また事務所に佐木沢が現れた。
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