Faraway
みゅ
東京
星の数だけある灯りは、賑やかな街を静かに照らしている。
時刻など気にもせず、いつまでたっても寝静まらない人々。
そんな奴らのことなど見飽きた私は布団の中で丸くなっている。
眠れない。
今日は寝付きが悪い。
這うようにベッドから出て、そのまま隣の部屋まで。
その部屋で寝ている男を叩き起こす。
「……なんだ、まだ夜中じゃねぇかよ」
一言、寝れないと伝える。
彼は、知らねぇよ、と言い捨て、また眠ってしまった。
勘違いをしないでほしいのだが、この男は彼氏ではない。ただの友達だ。
訳あって一緒に生活しているだけだ。
結局一睡もできずに朝を迎えてしまった。
疲れた様子の私に、彼の方から話しかけてきた。
「…お前あれホントだったのか」
何。寝れないの嘘だと思ってたの?
そんなわけないでしょ、嘘なんかでいちいち叩き起こさないから。
「なんか言えよ…怒らせた?」
少々焦った様子の彼を横目に、好物のイチゴジャムパンを口にする。
これを食べているだけで、気持ちが晴れ晴れしてくる気がした。
今日は久しぶりに"自分"に会いに行く。
どういうことかって?
ここは東京であり日本だけれど、こことは別の、もう一つの世界線が存在する。
そこは「
江都那には、姿や性格は全くの別人であるものの、もう一人の自分がいる。
世界線の渡航は普通に手間がかかるし、正規の方法でやらないと、世界の創造主「
結構大変なんだけど、定期的に会いに行ってやらないと向こうの自分も寂しいだろうと思ってね。
新宿駅。
いつ行っても人が多すぎて暑苦しいこの場所で、一枚の紙切れを取り出す。
よくわからない呪文を唱えなければならないのだけれど、本当によくわからない文章なので暗記だと不安。だから一応メモを見て唱える。
「Iubilate tibi et tuae potentiae.
Aperi viam quam nemo vidit ante.
Deus aspicit me.
Ardua uincunt et ad sidera perveniunt.」
どこの言語か知らないけど、ルビのおかげでなんとか読める。
私が呪文を言い終えたら、駅の景色は歪み始め、あっという間に一面何もない、白い世界へと変化した。
何もせずそのまま待っていると、光と共に線路が現れて、その上を電車が通っていく。
電車が私の目の前で停車する。私は特に驚くこともなく乗車する。
慣れすぎた。面白くない。なんならちょっとダサい。この仕組みを作ったのは由縁様だから立場的に文句は言えないけど。
この後の流れも知っている。そのうちにだんだん…眠く…なっ…て……
気づくと江都那ってね。怖い。
なんならいつの間にか下車してて、立った状態で目が覚めるんだもん。ほんとに怖い。
江都那は東京より治安が悪い。変な奴らに絡まれないように注意しながら"自分"の家まで向かう。
家についても"自分"は出なかった。代わりに自分の妹が出た。私に妹はいないけれど、江都那ではいるらしい。
「星花ちゃん、いないの?」
「うん…あいにく丁度外出しちゃってね…ごめんね…」
私の名前は皆徒、
じゃあこれから星花ちゃんを探しに行こうかな。待ってたらいつ帰ってくるかわからない。
思い当たる場所を片っ端からあたりに行こう。私は走り出した。
Faraway みゅ @mutantstory
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