第68話 残りの合格者はオレが決める

「……アルフィス、やるな」


 さっきまで超落ち込んでたのにリンリンはもう立ち直っていた。

 スッと立ち上がってまるで自分が勝ったかのような振る舞いだ。

 まぁオレとしてもあれで勝ったつもりはないし、実力さえあればもっと接戦したかった。


 闇属性らしい戦い方といえばらしいけどな。

 それを言えばリンリンも芯があるからこそ立ち上がれたんだろう。


「まさか生徒のお前に負けるとは思ってなかった。油断していたとはいえ、あれが実戦なら私は死んでいた」

「相手が生徒だから油断しただけだろ。でもこれで少しは見直してもらえたか?」

「元々侮っていたつもりはない。が……やはり生徒ということで心の隙が生まれたのかもしれんな。私もまだまだということか」

「オレも早く先生クラスの強さに至りたいもんだよ」


 教師とライバル関係のごとく話し合っているもんだから、クラスメイト達は置いてきぼりだ。

 レティシアがささっとやってきてオレ達の顔をジッと見つめる。


「お、お二人とも! とても素敵でした! わ、私も強くなれるでしょうか!」

「レティシア、お前は守りもいいが攻めることも考えないとな。なぁアルフィス?」

「そうだな。完全に攻めに特化した戦いよりも、相手の攻撃を利用したほうがいいかもな」


 オレがさりげなくヒントを与えるとレティシアが気づきを得た。

 これはゲームでもレティシアが使っていた反則スキルのヒントだ。

 だけどオレが教えてしまうとそれはそれで身にならない。

 頑張って自分で答えに辿りついてほしい。


「アルフィス様! リンリンにも勝っちゃうなんてボクも鼻が高いです!」

「おい、バカ。先生をつけろ」

「あ……」


 一応、教師なんだからな。

 リンリンは意外とそういうところうるさいぞ。


「ルーシェル、私はアルフィスに負けたが劣っているとは思っていない。今からでもお前の身をもって証明しようか?」

「い、いえー、じゅーぶん目に焼き付いてますんで……」

「誰がランランだって?」

「それボクじゃないやつぅーーーーー!」


 まだ名前のことで怒ってるな。

 これはしばらく残り火がくすぶりそうだな。

 こういう時はすぐに火消ししたいが、今は時間がない。


「アルフィスとルーシェル、後で生活指導室に来るように」

「え、マジで?」

「ボクは関係ないぃーー!」


 おい、クソ天使のせいで変なことに巻き込まれたぞ。

 残り火がくすぶってるんだから言葉は慎重に選べよ。

 そんなことをしてる場合じゃないんだからな。


「リンリン先生、それより残り四人をオレに決めさせてくれる約束ですよね?」

「あぁ、そうだったな。不本意だが負けた以上、約束を守ろう」

「じゃあメンバーはレティシア、リリーシャ、ルーシェル。この三人は決定です」

「妥当だな。残り一人は?」

「そうだな……」


 オレは未だどよめいているクラスメイトを見渡した。

 自分が選ばれるかもしれないと期待する生徒、いや無理だろと思う生徒。

 そもそもなんでお前が決めるんだよカスと思う生徒。

 色々いるだろう。でも遠慮なく勝者の特権をフル活用させてもらう。


「名前が上がってない奴は全員フィールドへ上がってくれ。オレが戦って決める」

「はぁ!? ウソだろ!」

「またそれかよ!」

「でもアルフィス様はリンリン先生と戦って疲れているから……」


 誰かがそう言った時、文句がピタリと止んだ。

 ナイスだぞ。確かに疲れているけど問題ない。

 実戦じゃ連戦することのほうが多いし、ここで戦えないようなら話にならない。

 だからオレはあえてこう言う。


「問題ないぞ。オレに気を使う必要はないから、全員でかかってきてくれ。もちろん一発でも入れられたら合格にする」


 勝手にオレが疲弊していると思い込んだクラスメイト達がやる気になった。

 意気揚々とフィールドに上がってそれぞれが魔力を練り上げる。

 様々な属性が色鮮やかだ。


「じゃあ、アルフィス様! い……」

「ダークニードル」


 先制攻撃しようとしたクラスメイトの一人を一発でフィールドアウトさせた。

 これには皆、唖然とする。


「て、手を出すのかよ!」

「当たり前だろ。手を出さないなんて一言も言ってない」

「い、いや! リンリン先生に勝った相手に勝てるわけがない! せめて手を出さないでほしい!」

「同じクラスメイトになんてこと言うんだ。オレは教師じゃないんだぞ」


 オレが魔剣を構えてからクラスメイトに突撃した。

 横薙ぎして二人アウト、もう一振りで三人アウト。

 今頃になって魔法がオレに放たれるが遅いな。


「ブラックホール」

「やっぱり吸い込まれた!」

「やっぱり、じゃないんだよ。対策されるってわかってるなら頭で考えてしっかり動け」

「そんなムチャな!」


 やっぱり君を一刀両断してアウト。

 後ろから地と氷の魔法で奇襲をしかけてきた二人に対しては振り向き様に回転斬り。

 斬り飛ばしてアウトさせたところで、オレの足元に茨が這いよった。


「惜しい」

「うわっ!」


 茨を魔力で強化した足で踏みつぶしてから、ちゃんと本体の人間を魔剣で斬ってあげた。

 魔公花ディアバランと似ているけど、こっちは魔法だ。

 厳しいことを言うとあっちの劣化版だけど、たぶん地属性魔法から派生させて複合魔法を作りだしたんだろう。

 今のはいい線いってた。


「これで終わりか? このままだと合格者はゼロだな」

「だ、ダメだ! やってられない!」

「私も降りる! 勝てるわけがない!」


 残ったクラスメイト達がフィールドから逃げ出していく。

 あっという間にオレだけが取り残されてしまった。

 なんだかガッカリだな。


 ちょっと強い相手と対峙しただけでこれだもんな。

 まぁ実力差がありすぎる相手と戦っても何の訓練にもならないのはオレがよくわかっている。

 それを知ってるから家族とは訓練していなかった。

 このままじゃただのいじめだし合格者は四人で――


「えいっ!」

「ぶっ……」


 オレの頭に炎の球が命中した。

 軽く頭が揺さぶられたものの、ダメージはない。

 おそろしく貧弱な魔法だ。

 こんなものじゃ実戦だと――あれ? オレ、当てられた?


「……エスティか」

「あ! ああーーーあぁぁ! すみませんすみません! まさか当たるとは思わなくて!」


 エスティがあわあわしながら土下座をした。

 リンリンもクラスメイト達も誰もがコメントしない。

 それはそうだろう。オレもなんで当てられたのかわからない。


 エスティの存在を忘れていたわけじゃない。

 ただ倒す優先順位として低すぎるから放置してただけだ。

 だけどオレは当てられた。


「……アルフィス。合格者は決まったようだな」

「だよな……」


 これでいいのかとは思う。

 だけどオレが言い出したことだし何よりこのエスティ、明らかに何か変だ。

 いくら油断していたとはいえ、簡単にオレに当てられるとは。


「あの、あのあのあの、すすすすすみません……」


 不意打ちとはいえ、本来はこのくらいはかわせる。

 可能性があるとすれば一つ、オレはエスティの前で片手で波動をぼわりと放つ。

 エスティの視線は明らかにそれに釘付けだった。


 なるほど、これは逸材かもしれない。

 こいつ、オレの波動を捉えて攻撃を当てたな。

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