第67話 VS 鋼乙女リンリン
「私はな、もっとかっこいい名前がよかったのだ。シスメリアルとかフォーティレシアとかな」
リンリンの全身から迸る魔力が訓練場内を満たしつつある。
魔力の総量だけならミレイ姉ちゃんほどとは言わないけど、オレより上かもしれない。
あの強固な武装は単なる技術だけで練り上げられたわけではなくて、膨大な魔力によって生成されている。
例えば少量の魔力ならせいぜい岩石を生成するのがやっとだ。
リンリンの魔力なら複雑な成分で構成されている鉱石だって生成できる。
確かな才能と恵まれた魔力によって、魔術師の上澄みとして立つべくして立っている。
正直、ここまでとは思わなかったな。
「ディバインエッジ」
オレは反射的にしゃがむ。
その直後、髪の毛がふぁさりと床に落ちた。
(当たっていたら一発でフィールドアウトだったぞ)
鉱石の刃から繰り出されるその一撃は真空破を発生させた。
トガリの隙だらけの風の刃なんかとは比較にならない。
これは魔力による身体強化だけじゃない。
ヴァイド兄さんが肉体と技を鍛え上げたのと同じだ。
リンリンも魔力と肉体と技のすべてを融合させている。
天才が高い魔力に甘えず研磨してくるんだから嫌になるな。
「ブラックホール+シャドウサーヴァント+シャドウエントリ」
出し惜しみはなしだ。
複数のブラックホールでリンリンを牽制しつつ、ダークニードルで援護射撃。
オレ本体とシャドウサーヴァントはシャドウエントリで瞬時に入れ替わりつつ、ひたすら移動した。
更にダークニードルには破壊の波動を乗せてある。
つまりどれだけの装甲があろうとぶち抜ける。が――
「アースクレイドル」
リンリンが生成した鉱石人間はオレのシャドウサーヴァントと同じ数だ。
それぞれがシャドウサーヴァントと相対、あるいは本体のオレと交戦させられてしまう。
オレの手数による有利を一瞬で潰して来やがった。
しかも破壊の波動が乗ったダークニードルに対して、リンリンはいわゆる超再生で対応する。
いや、言い方が悪かった。正確には修復だ。
鎧を破壊した先から魔力で修復されるから、一向に本体まで届かない。
こんないたちごっこをしている間にも波動を長時間使用できないこっちが倒れることになる。
エンペラーワーム戦みたいにな。
「少し工夫したみたいで驚いたぞ」
波動を少しの工夫扱いかよ。心が折れるな。
オレは諦めてシャドウエントリでリンリンの背後から仕掛けようとするが――
「甘い」
「チッ!」
リンリンの影から奇襲をしかけたがあっさりと防がれてしまった。
鉱石の刃は魔法を無効化するから、下手に攻撃しても無効化される。
しかも例によって破壊の波動を乗せても修復されてしまう。
ブラックホールからのダークニードル発射で手数を増やしても無駄だった。
リンリンの武装の隙間にあわよくば当たればいいと思ったが、そう甘くない。
だけど鉱石人間がうまい感じで動いてわざとダークニードルに当たって無効化してくる。
オレの闇魔法は単純な物質なら貫通できるが、魔法無効化の鉱石となれば話は別だ。
物理的な衝突よりも魔力のほうが優先されてしまうらしくて、あの鉱石を素通りできない。
(魔法無効の敵が複数体って悪夢だろ)
オレはリンリンにディバインエッジを打たせないようにつかず離れず接近戦を挑む。
剣の腕ならやれなくもない。
いくらリンリンでも元は魔術師だから、魔剣メインで戦ってきたオレなら攻められる。
「いい腕だ! その歳で惚れ惚れする才能だよ!」
「リンリン先生もここまで強いなんてな」
オレが魔剣で首を狙った時、リンリンがわずかに身を引いた。
その隙を見逃さず、オレは魔剣を当てにいく。
「かかったな」
オレの足元から鍾乳石のような鋭い鉱石の槍が飛び出す。
オレは咄嗟に動くも、避けきれずに左半身を大きくかすった。
血がポタポタと垂れるが大したダメージじゃない。
「今のをかわすとはな」
「ダークスフィア」
レベル20戦で見せたダークスフィアでオレはリンリンごと闇に包まれた。
岩人間の相手はオレの分身に任せるとして、これで正真正銘の一対一だ。
「これは驚いた……。ここまで何も見えないとはな。しかも通常の闇とは違って暗闇に目が慣れることもない」
「じゃあ、フェアな勝負をしようか」
オレが嫌みったらしく言うと、リンリンが仕掛けてきた。
オレの声を頼りに動いているんだろうけど、それでもさっきよりは格段に動きに決断力がない。
一歩の遅さがオレを有利な状況に導いた。
暗闇の中、ひたすら魔剣で攻め立てるとリンリンもさすがに疲弊する。
元々闇ってのは生物が原始の時代より恐れてきた概念だ。
いくらリンリンが強かろうと、その本能に眠る恐怖は完全には消せない。
戦い続ければストレスが溜まっていくのは自明の理だ。
動きが鈍ったところでオレは今度こそ鎧の隙間を狙う。
「そこか」
オレの背後に何かがぶち当たった。
「がはッ……!」
ダークスフィアの外から何かを当てられた。
これはアースクレイドルで生成した岩人間の拳だ。
強烈な一撃でかすかにふらついてしまう。
こいつをシャドウサーヴァントで足止めしているという先入観があったとはいえ、なぜ当てられる?
「お前はあの影の分身をただの駒としか捉えていない。お前の手を離れた瞬間に恐ろしく戦いが雑になる。だから隙も大きい」
「な、なるほど。今後の課題とさせてもらうよ」
「だが勉強代としては高くつくぞ」
暗闇の四方八方から拳の連打が飛んできた。
居場所がわからなくてもダークスフィアの外側からやぶれかぶれに攻撃すれば、それだけで手数になる。
そう、ダークスフィアは多数相手にはあまり有効じゃない。
もっと範囲を広げられたらよかったんだが、今のオレにはせいぜい半径数メートルくらいが限界だ。
オレは急いで影の分身達を集めて応戦させた。
だけどここでオレはリンリンの狙いに気づく。
リンリンはすでに構えを取っていた。
「やっばッ……!」
「やはり一ヶ所に集まってくれたな……ディバインエッジ」
リンリンのディバインエッジがオレと影の分身達を一網打尽にした。
影の分身達が消えて、オレは寸前のところで回避行動をしたがあまり間に合わず。
左肩を大きく切断されてしまった。
フィールド内とはいえ、片腕を失った感覚はあまり気持ちのいいものじゃないな。
「う、クソッ……!」
「ほぉ、止めのつもりだったのだがやはりさすがだな。お前は本当に優秀だ。今まで見てきたどの生徒よりも強い」
「褒めてもらえて嬉しいよ……」
「だが、この程度では済まさんぞ。誰がランランだって?」
冷静にキレるな。
クソッタレ、かなりのピンチだ。
この場にあのクソ姉がいたら大興奮して鼻血でも出してたんだろうな。
しっかしこのリンリンは本当に強いな。
ここまで強い奴は国内に何人といないレベルだ。
それは単純な才能だけじゃなくて、不正を許さない正義の心という芯があったからこそ身につけられた強さと言える。
芯がない奴は風見鶏みたいに風が吹いた方向を向く。
自分の特性や目指す強さを見失って、とにかく力ばかりを求める。
今の三強、いや二強がまさにそれかもな。
「さて、あまり時間をかけないはずだったな。アルフィス、死ぬほど痛めつけられてフィールドアウトする覚悟はできたか?」
リンリンは自分の性格と特性を熟知している。
だからこそ、ここまで一本気のある実力を身につけられた。
その証拠に地属性の魔法以外をまったく使っていない。
ディバインエッジだってあくまで鍛錬の副産物だ。
多分これ以外の技を多く持っているだろう。
あの速度はヴァイド兄さんクラスかもな。
「ではたっぷりと痛めつけてやろう」
でも勝つのはオレなんだけどな。
何せこの瞬間を待っていた。
「ダークスフィア解除」
「うっ……! め、目が……!」
突然明るくなったことでリンリンが目を閉じてしまう。
オレは魔剣でリンリンの首を刺した。
「う、がっ……! がふっ……!」
「じゃあな」
オレはそのまま魔剣で首を裂いた。
リンリンの体が光の粒子となってフィールド外に飛んでいく。
ポンとフィールドに放り出されたリンリンは尻餅をついたまま呆然としていた。
「……バカな」
「せ、先生が、ま、負けた……」
観戦していたクラスメイト達が騒ぎ始めた。
オレはオレでフィールドから出たところで、どっかりと床に座る。
うん、勝った。
勝因はリンリンが極限まで油断する状況を作り出せたからだ。
いきなりダークスフィアを解除したところで多少の隙は作り出せても、首を狙わせてはくれなかっただろう。
そのためにはできるだけ追い詰められることで、無防備を誘った。
といってもオレが生徒ということもあって成功しただけかもしれないけどな。
これがガチの戦場だったらオレは殺されていたかもしれない。
それはそうと失った片腕はしっかり戻っているしフィールド様万歳だよ。
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