第92話 裏戦争

翌日午前10時


「いきなり戦争に参加とか聞いてないんだけど!?」

「私だって聞いてないわよ!あのババア騙しやがって!!」


私達四人組は、いつの間にか裏社会の戦争に参加させられていた。


人気のない場所で、海外マフィアと昔からこの一帯を支配している暴力団の、血で血を洗う戦争が繰り広げられている。


「麻薬密売組織の殲滅って聞いたけど……これは話が違う!」

「ねえまな。これ本当に私達の仕事なの?」

「本当は違うよ。私達の仕事は暗殺が基本だから」


かずちゃんと町田さんの話を聞いている限り、これは本来私達の仕事ではないそうだ。


でも、ヤツに近畿支部を潰された影響か、私達にもこんな仕事をさせるハメになってるんだろう。


「とりあえず、今は暴力団側が押してるし、一旦は様子見かな?」

「やばくなったら参加?」

「まあね。町田と一葉ちゃんは、さっき逃げたヤツを捕まえてきてくれない?尋問して、拠点を割り出す」

「了解です、先輩。行くよ一葉」

「言われなくてもわかってる」


杏の指示で、町田さんとかずちゃんはさっき逃げた密売組織の人間の追跡をしに行った。


私と杏は引き続き様子見をして、戦局が動くのを待つ。


命の取り合いを影から見ていると、探知でこちらへ向かってくる者たちの気配を感じ取った。


「組織の援軍か。紫、アレを潰す」

「わかったわ。行きましょう」


気配のする方へ走り、ものの数秒でそこへ到達する。


そして、走る男達の背後を取ると、私は素早く首をへし折る。


杏はとんでもない速さの剣舞で、私がやった以外の全ての援軍の首を刎ねる。


「……私いる?」

「まあ、一応居てもらう。正直私一人で十分だけだ……研修みたいなものだと思っておいて」

「一般人相手にレベル80超えの冒険者4人って、改めて考えれば過剰戦力も良いところね」


これなら様子見なんてせず、私達が始末してしまった方が良いかも知れない。


あっちで戦ってるやつも、私達が潰すか?


「あっちも私達で片付ける?」

「いや、あっちはあくまで彼らに任せるわ。先に戦闘をしていたのは彼らだもの。横槍を入れられ、成果を掻っ攫われるのは癪でしょう?」


私達が助太刀に入れば一瞬で片が付くが、それは彼らの成果を奪うことに繋がる。


彼らにもメンツがあるのだから、これ以上私達がなにかするのはよろしくないという考えらしい。


死体をアイテムボックスへ回収した杏は、電話で支部にクレームを入れる。


その様子を横で見守っていると、怒りの表情が急に真剣なものに変わり、声色も変化した。


「……つまり、それを私達が始末しろと?―――――そう、許可は取ってるのなら、問題ないわね。今日中に終わらせるわ。これ以上日本で好きにはさせない」


そう言って、杏は電話を切ると、今度は町田さんへ電話をかけた。


「町田?逃げたヤツは確保できた?……それは良かった。一応、生かして情報を引き出しておいて。ソイツが拠点の情報を吐いたら、そこに襲撃を仕掛けて。私達は、協力者からもらった拠点の情報を頼りに、そこを潰す…うん。うん、よろしくね」

「協力者って?」

「さっき奴らと戦ってた極道。私達が動いてる事を知って、集めた情報を渡して始末を依頼してきたそうよ」

「…余計な被害を出さないため?」

「そうね。『花冠』が動いているのに、わざわざ自分達が血を流す必要はない。メンツを汚されたわけでもないだろうし、私達に始末してもらおうって魂胆でしょうね」


戦争をしても儲かることはない。


なら、『敵の敵は味方』の理論で、そいつ等に任せてしまえば良い。


双方を弱らせるチャンスであり、自分たちは余計な出費をせずに済む。


……まあ、『花冠』は全員が一騎当千の強者だから、双方が弱るなんてことはない。


一方的な蹂躙が起こるだけだ。


「拠点はここか…行くよ。日本に汚れを持ち込む不法滞在者を潰しに」

「了解」


少し離れた所に停めていた車に乗り、送られてきた住所へ向かう。


ここから車で1時間ほどの場所に拠点があるらしく、簡単な昼食を取りながら車を走らせた。









「ここか……面倒ね」

「流石に人通りが多すぎる。昼間に襲撃する場所じゃないよ」


ナビに従って拠点があるという場所へやって来ると、そこは普通に大通りに面した建物で、人通りが多い。


とても今から襲撃出来るような場所では無かった。


「とりあえず、私が《隠密》を使って偵察してくる。それが終わったら、夜まで待機だ」

「かずちゃんや町田さんは?」

「後で合流。まあ、多分奴が吐くであろう拠点はここだろうし、来たら交代で見張りましょう」


そう言って、杏は一般人を装って建物へ侵入し、《隠密》の影響か探知にもその気配が引っかからない。


15分ほどで車へ戻って来た杏は、敵の拠点の情報を丸裸にしてきた。


「建物の3階にあって、入口は1つだけ。人数は今居るだけで30人ほどかな?」

「あっちのスーパーで見張る?」

「いや。構成員は全員外国人だ。見たらわかる。建物自体の入口も1つだけだし、ここで見張ればいいわ」


杏はあの15分の偵察で、やるべきことを全てしていた。


夜の襲撃に備え、交代で見張りをしていると、必要な情報を全て吐き出した男を始末したかずちゃんと町田さんが合流。


そして、夜になるまで交代で見張りを続けるのだった。




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