第11話 第三階層

「よし!やっちゃって、かずちゃん」

「はい!ふぅ〜……せいっ!!」


昨日と同じようにアルクハナを捕まえて、かずちゃんに倒してもらうという方法を繰り返す。


ようやく、かずちゃんは生き物を殺す感覚に慣れてきたようで、今では覚悟するのに深呼吸をする必要があるものの、手足が震えることはなくなった。


「コイツで8体目。うん、確実に慣れてきてるね、かずちゃん」

「良かった…これで、足手まといを卒業できます!」

「お?じゃあ次は一人でやってみる?」

「はい!」


ようやくか…

やっと、かずちゃんが一人でモンスターを狩れるようになる。

私嬉しいよ、ここまで成長してくれて。


かずちゃんが大きくなった(身長は変わってない)事を喜んでいると、何やら笑い声が聞こえてきた。


「おい御島ぁ。お前、ギフターのくせに一人でモンスター殺れないのかよ!」

「………」

「…誰?」


いきなり声をかけてきた、高校生らしき男を見て、かずちゃんは元気を無くしてしまった。


そして、なんとも言えない表情を見せる。


「お姉さんよぉ。そんな雑魚置いといて、俺らと一緒に行かね?モンスターを殺せない冒険者とか、邪魔でしかないだろ」


…何コイツ?

すっごいムカつく。

びっくりするくらいバカで、見るからにクソ野郎っぽい。


「雑魚、ねぇ…あなたのレベルがいくつで、どんなスキルがあるか知らないけど、私まだレベル2よ?」

「いいっていいって!俺らが強くしてやるよ」


……察しろよ。

遠回しに断ってるのが分からない?


……いや、分かんないか。

流石に遠回し過ぎた。

直球に言っちゃう方が良いね、面倒くさい事になりそうだけど。


「遠慮しておくわ。かずちゃんの事を悪く言うような男性、信用ならないもの」

「かずちゃん?アンタ、御島の親戚か?」

「パーティーメンバーよ。あんまり私の仲間を悪く言うようなら、名誉毀損で出るところに出るけど?」


なんとなく、コイツが何なのか分かった気がする。


名誉毀損があーだこーだ言った所で、コイツには響かないだろうけど…こっちは本気だって伝えるにはそれくらい言うべき。


「ケッ!やれるもんならやってみろよ。レベル2の雑魚が粋がってるんじゃねぇよ!」

「……あっそ」


私はかずちゃんの手を握ると、少年を軽く睨んでその場を去った。


かずちゃんも私のあとを付いてきて、心なしか強く手を握っている。


後ろから、少年とその仲間の笑い声が聞こえてきたが、聞かなかったことにしてその場を離れた。








            ◇◇◇







「お?かずちゃん、出番だよ」

「………」


あの少年とその仲間から、それなりに離れたところまでやって来ると、そこにはちょうど良くアルクハナがいた。


「…かずちゃん?」


しかし、かずちゃんは一向に刀を抜こうとしない。


私達に気付いたアルクハナが襲ってきたが、そっちを見ようともせず、戦意も感じられない。


仕方なく私が倒すことにし、アルクハナを掴むと、そのまま頭(花の部分)を引き千切った。


「これで倒せる辺り、Gランクって感じ」


そんな事を言いながら魔石をカバンに入れ、後ろで俯いているかずちゃんを抱きしめる。


そして、『よしよし』と言いながら頭を撫でてあげると、かずちゃんの鼻をすする音が、聞こえてきた。

―――それも、何回も。


「……我慢しなくて、良いんだよ?」

「………」

「私は部外者だから、学校までは行けないけど…相談に乗ったり、学校外で助けてあげたりは出来るからね」


私がそう言うと、かずちゃんは自分から抱き着いてきて、顔を私の胸に擦り付けてくる。

耳は真っ赤で、呼吸も荒い。


泣いてるんだね、かずちゃん。


……多分というか、ほぼ確実にかずちゃんはイジメられている。

理由は……まあ、一つじゃないね。


『ギフター』で、『美少女』で、『努力家』。

私とは仲良く話してるけど、多分友達は少ないと思う。

内向的というか、人付き合いが苦手というか……まあ、少なくともコミュ力は高くないと思う。


何と言うか…これでイジメられてなかったら不思議なほどだ。

残念な話、かずちゃんはそういうタイプ何だと思う。


「私が、守ってあげるからね」


……そうは言っても、学校へは行けないけどね?

私は親でもなければ、親戚でもない。

言ってしまえばただの知り合いで、『部外者が口を挟むな』って言われてしまうくらいの関係の人。


守ることは、出来ないかな。


「……じゃあ、お父さんとお母さんには言わないで下さい」

「なんで?」

「心配させたくないんです。私の家は、そんなに裕福じゃないから」


……家計に余裕がないと。


そんな状況で、学校の事で迷惑はかけられない。

自分が耐えていれば、親には迷惑をかけないで済む。

そう思って、ずっと親に黙って、誰にも相談せず、一人で抱え込んできたのかな?


「……じゃあ、言わない。その代わり、何かあったらすぐに私を頼って。本当はこの対応は良くないんだけど…かずちゃんは、こうして欲しいんでしょ?」

「うん…」

「だよね。私は、かずちゃんの味方だよ」


……どの口が言ってるんだか。


初対面で脅してたのに、『味方だよ』とか……都合がいいってレベルじゃないね。

洗脳しようとしてるとしか思えない。


後で、学生証の写真は消してあげよう。


「味方……ですよね。……仲間…ですもんね」

「そうだよ。かずちゃんは私の大切な仲間で、私はかずちゃんの味方だよ」

「えへへ……私の仲間」


さっき、『仲間』って言ってあげたのが嬉しかったのかな?


それだけでこんなに喜ぶなんて……これ、人が人なら不味いんじゃない?


弱ってるところに漬け込んで、自分に依存させる。

そして、良いように使った上で捨てられてたかもしれないって考えると…私が拾って良かった。


私は、絶対にそんな事はしない。

こんな可愛い子を、自分の良いように使ったあと捨てるなんて、私にはできないからね。

私が、守ってあげないと…


「……その為にも、強くならないとね」

「え?」

「かずちゃんを守れるように、強くならないとって。まだ私はレベル2の雑魚だからさ。これから頑張ってレベルを上げるの」


あの反応的に、多分アイツは私よりもレベルが高い。


『ギフターのくせに』って言ってる辺り、多分普通の覚醒者だね。

となると、特別強いスキルは持ってないと見た。


レベルを上げれば、《鋼の体》の効果も相まってまず負けないはず。


「行こう、かずちゃん。『善は急げ』だよ」

「はい!」

「うん、いい返事!」


励ます事に成功し、元気になったかずちゃんを連れて2層を練り歩く。

すると、見覚えのある場所を見つけた。


「これって、ワープポイントだよね?」

「はい。多分、第3階層へのワープポイントですね」


3層…強いモンスターが居るなら、ここよりレベル上げはし易いはず。

一層変わったくらいでは、対処できないモンスターは現れたりしないだろうし、私が強くなる分には良いかも。


「どうする?行く?」

「第3階層に出てくるモンスターは、クラヤミイヌとオオカワズだけですし…行きましょう。私も、戦います」

「……苦しかったら言ってね?じゃあ、行くよ」


私は、かずちゃんと手を繋いだままワープポイントに入り、3層へ転移する。


どんな所かとワクワクしながら目を開けると…そこは薄暗い不気味な森だった。


「これが第3階層?」

「はい。第3階層は常に曇っていて、時折雨も降ります。そして、薄暗いので夜でなくても。クラヤミイヌが出てきます。気を付けてくださいね?」


クラヤミイヌか…未だに見たことないし、是非とも会ってみたいね。


少なくとも、アルクハナやチャイロウサギよりは、経験値が多く手に入るだろうし、積極的に狙っていこう。


気を張って、僅かな音も聞き逃さないように注意しながら、薄暗い森を歩いていると、背後から僅かな足音が聞こえた。


「出た…クラヤミイヌだ」


振り返ると、真っ黒な体毛で覆われた一匹の犬がおり、今にも噛み付いてきそうだ。


かずちゃんを私の後ろに隠し、《鋼の体》を発動すると、私の方から攻撃を仕掛けに行く。


初手で、いきなりクラヤミイヌの顎を蹴り上げ、思いっきり怯ませる。


「せあっ!!」


いきなり蹴られて、理解が追いついていないクラヤミイヌに対し、私は更に蹴りを入れる。


クラヤミイヌはサッカーボールのように飛び、勢い良く木にぶつかった。

そして、『キャインッ!』という情けない声を上げて地面に落ちる。


「ごめんね」


私は、ピクピクと地面で痙攣しているクラヤミイヌの所までやって来ると、その頭に拳を振り下ろした。


体重まで掛けた拳を受け、クラヤミイヌの頭蓋骨が砕けた。

クラヤミイヌはさっきまでより激しく痙攣すると、すぐに煙になって魔石を残して消えた。


「うん、この調子でどんどん倒していこう」

「そう…ですね。…ふぅ、行きましょう」


かずちゃんは、胸に手を当てて一度深呼吸をすると、私の隣までやって来た。


体が小刻みに震えている。

やっぱり、動物はハードルが高かったかな?


でも、慣れてもらわないと困るから、少し強引でも付いてきてもらうよ。


「次はかずちゃんも参加する?」

「じゃあ……魔法で」

「ん。分かった」


魔法を一発当てたくらいじゃ、クラヤミイヌは死なないだろうし、死んだとしても手に感触が残らない。


うん、かずちゃんへの負担がかなり小さくなるね。


「ん?かずちゃん、出番だよ」

「え?…ああ、アレですか」


ここから少し離れた所に、小型犬くらいの大きさのヒキガエルがいた。


「あれが、オオカワズ?」

「はい。毒持ちなので、気を付けてくださいね」


ヒキガエルは毒を持っていて、触ると炎症を起こすらしい。

それが、これだけ大きくてモンスターとなると……手が溶けるくらいの毒があるかもね。


「あれがヒキガエルと同じような構造をしてるなら、頭を焼いてくれたら毒は出ないんじゃないかな?」

「どうでしょう?素手で触りさえしなければ良いって、ネットには書いてあったので、素手じゃなければ……」

「なるほど…素手で触らなければいいのね?」


なら、踏み潰せば良いわけだ。


「じゃあ、私が踏み潰してくるから、かずちゃんは、先に魔法でアイツを焼いてくれない?」

「分かりました」


かずちゃんは手を突き出して、掌をオオカワズに向ける。


5秒くらい目をつむって魔法の準備を整えたかずちゃんは、掌から炎を放った。


「ゲエッ!?」


突然飛んできた炎に体を焼かれたオオカワズは、ビタンビタンとのたうち回って苦しんでいる。


こんなに暴れられたら、踏み潰せない。

仕方ない、蹴って大人しくさせるか。


「ふんっ!……あれ?」


簡単に踏み潰せるように蹴ったつもりが、想像以上に威力があったのか、そのまま倒してしまった。


やっぱりカエルだし、耐久力が紙なのかな?


そんな事を考えていると、かずちゃんが近付いてきて、魔石だけを残して消えたオオカワズの煙を見ながら口を開いた。


「オオカワズを一撃……あのカエル、肉厚で打撃には強い事で有名なんですよ?」

「そうなの?その割には一発で殺れたのよね…」

「さっきのクラヤミイヌで、レベルが上がってたんじゃないですか?」


なるほど、レベルアップか。


ちょっと確認してみよう。


―――――――――――――――――――――――――――


名前 神林紫

レベル4

スキル

  《鋼の体》

  《鋼の心》

  《不眠耐性Lv3》

  《格闘術Lv1》


―――――――――――――――――――――――――――


「「……なんか生えてる」」


鑑定で私のステータスを見たかずちゃんとハモった。


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