第8話 第二階層とランク
ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!
「ん〜…」
久し振りにアラームで起こされた私は、目を開けずにアラームを止めると、そのまま二度寝する。
どうせ私はニートだし、二度寝くらいしたって良いじゃないか。
ブランケットを頭まで掛け、また夢の世界へダイブした。
ピロロロ!ピロロロ!ピロロロ!
「は、はい!神林です!」
『は、はぁ…?』
「む?その困ったような生返事は…やっぱり、かずちゃんか」
『私を何だと思ってるんですか……というか、私を困らせてるのは神林さんですよね?』
スマホの着信音を聞き、脊髄反射で電話に出る。
すると、かずちゃんの声が聞こえてきた。
「どうしたの?こんな時間から」
『どうしたもこうしたも!こんな時間でもないです!もう11時ですよ!?何時間待たせるんですか!?』
「え?………あっ!」
そう言えば、今日は土曜日だ。
かずちゃんは高校がお休みだから、二人でダンジョンに行こうと約束してたんだった。
「ご、ごめん!すぐ着替えてそっち行くよ!!」
『大至急お願いしますよ?もちろん、お詫びの品を持って!』
「うん!分かってるよ!コンビニスイーツでいい?」
『カスタードシュークリームでお願いします』
「了解しました!!」
電話を切ると、ベランダの物干し竿に吊るされていた服をひっつかみ、大急ぎで着替えると、荷物を持って勢いよく部屋を飛び出した。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……お待たせ…」
「ええ。随分なお待たせですよ」
ダンジョン前に到着すると、腕を組んでご立腹な様子のかずちゃんが出迎えてくれた。
「はいこれ…シュークリーム」
「…まあ、これ以上怒るのはやめてあげます」
買ってきたシュークリームをかずちゃんにあげると、嬉しそうに受け取ってくれた。
「じゃあ行きましょう。今日は第2階層に行きませんか?」
「第2階層?別に良いけど…大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。モンスターの強さは、そこまで変化しません」
シュークリームを頬張りながら、改札を抜けて更衣室へ向かうかずちゃん。
小顔なかずちゃんには、このシュークリームは少し大きく、顔が半分近く隠れている。
「さあ、早く着替えて行きますよ!」
「それは良いけど……食べるの早いね?」
「そうですか?」
この小顔で、小さな口なのに、食べるのが早いかずちゃん。
あっという間に、顔の半分を埋めるほどのシュークリームを食べ切ったかずちゃんは、窓口で装備を借りると、私の隣で借りてきた装備に着替えるかずちゃん。
チラチラと、私の胸を見ているのが丸わかりだけど、気付かないフリをした。
ここで変に指摘すると、また怒られるかも知れないし。
「よし、私は準備オッケーよ。かずちゃん」
「私も出来ました。じゃあ、行きましょうか」
更衣室を出て先週も通った道を歩き、空間の歪みの前にやって来る。
列に並んで私達の番が来ると、二人で手を繋いでダンジョンの中に入った。
体の一部が触れ合っていないと、別々の場所に行ってしまうらしい。
視界が真っ白になり、浮遊感に包まれる。
少しして視界が戻ってくると、そこは森の中だった。
「さて。じゃあ、第2階層へのワープポイントを探しにいきましょう!」
「おー!」
何故かテンションが高いかずちゃんに続いて、私も森の中を歩く。
こういう森型のダンジョンは、ひたすら森の中を歩くんじゃなくて、辛うじて『道』と呼べる道を歩いて回る。
一応、道なき道を歩む事は出来るけど、足場が最悪なので、植物採取にでも来てない限り、基本的に『道』を歩く。
そんな、『道』を歩き続けること30分。
「あった。これが第2階層へのワープポイントです」
「なるほど…いかにも、ワープポイントっぽい見た目だね?」
着いたのは少し開けた場所で、その中央に明らかに何かありそうな、丸い石板があった。
石板の表面は光っていて、なんて書いてあるのかは読めないけど、謎の文字が大量に書かれている。
まさに、『ワープポイント』って感じの見た目だ。
「じゃあ、手を繋いで下さい」
「は〜い」
私はかずちゃんと手を繋ぐと、二人でワープポイントに飛び込んだ。
すると、ダンジョンに入った時と同じく、視界が真っ白になり、浮遊感に包まれた。
そして、視界が戻ってくると、そこはさっきまでと変化が見られない、森林が広がっていた。
「……ここが2層なの?」
「間違いないありません。ここが渋谷ダンジョン、第2階層です!」
かずちゃんが得意げにそう話すが、私には変化がよくわからない。
とりあえず、探索を再開したら第1階層とは違う世界が見えるはず。
かずちゃんと一緒に『道』を歩き、モンスターが現れるの待つ。
「……そう言えば、2層のモンスターはどんなのが出てくるの?」
「『アルクハナ』と『クラヤミイヌ』ですね。『アルクハナ』は、名前の通り歩く花です」
「…強いの?」
「雑魚中の雑魚ですよ。Gランクで、非覚醒者の一般人ですら殺せますからね」
……それって相当な雑魚では?
一般人でも殺せるって…もはや、モンスターと呼んでいいのか怪しいじゃん。
「ふ〜ん……そう言えば、そのGランクって何?」
「は?…モンスターの、強さ別ランクですけど」
「へ〜?そんなのあるんだ?」
知らなかった。
ランクが高いほど、強くて厄介なモンスターなのかな?
「一般的には、『モンスターランク』と呼ばれていますね。G〜SSランクまであって、確認されているモンスターは全てランク分けされてます」
「チャイロウサギやクラヤミイヌは何ランクなの?」
「チャイロウサギはG。クラヤミイヌはFです。まあ、所詮ウサギと犬なので、妥当なランクですね」
ふ〜ん?
その、妥当なランクってのは私には分からないけど、まあそういうモノなんだろう。
…そう言えば、私の冒険者カードにも、何かアルファベットが書いてあったような?
「……じゃあさ?このカードに書いてあるアルファベットは何なの?」
「冒険者ランクですね。冒険者ランクはF〜Aまであります。冒険者ランクは、討伐可能なモンスターのモンスターランクと同じになるように設定されていて、冒険者ランクがFなら、Fランクのモンスターは倒せるって事になります」
……はあ?
つまり、私はギルドの判断としては、チャイロウサギも、クラヤミイヌも倒せるって判断されてるけど、Eランクのモンスターは倒せないって思われてる。
そういう事でいいのかな?
「まあ、今の神林さんはFランクなので、クラヤミイヌまで倒せるって思ってくれればオッケーです。ただ、間違えてもEランクのモンスターには、手を出さないで下さいね?」
「それくらい分かるわよ。……そう言えば、冒険者ランクにGランクやSランクは無かったわよね?アレはどういう事なの?」
冒険者ランクはFからAまでだ。
なら、GやSはどうなんだろう?
「Gランクは、『非覚醒者でも倒せる』という意味です。要は雑魚って事ですよ」
「じゃあ、Sは?」
「Sランクは、『討伐困難』。或いは、『現状討伐不可』という意味です。個人や少数のAランク冒険者では討伐できず、大人数で戦う必要がある。或いは、今の冒険者の練度では、人数を集めても勝てないと判断されたモンスターに付けられるランクです」
『討伐困難』『現状討伐不可』
今の人類じゃ、どうしようもない強さを持った化け物に、Sランクの称号が与えられると…
なんか、ヤバイドラゴンとかがSランクになってるのかな?
「……じゃあ、SSは?」
「SSですか…?それは……」
急にかずちゃんが口を閉ざし、無駄に引き伸ばす。
そして、深く息を吸ってから教えてくれた。
「『討伐不可』です」
「……倒せない、ってこと?」
「まあ、そういう事です。勝てるビジョンが一切浮かばないモンスターに付与されるランクで、今のところ、一体しか確認されていません」
SSランクは、本当に正真正銘の化け物と…
勝てるビジョンが一切浮かばないって…相当じゃない?
本当に勝てないの?
「本当に、どうしても勝てないの?」
「勝てません。なにせ、核攻撃すら効かないのでは?と言われる程ですから」
「核攻撃が効かないって…」
「まあ、あくまで噂ですけど……実際、核攻撃を耐えてもおかしくないくらい強いんです」
核攻撃が効かないとなると…確かに、勝てるビジョンが一切浮かばないね。
人類の叡智の結晶たる、核兵器が通用しないのなら…少なくとも現代科学ではどうしょうもなくて、覚醒者の力でもどうにもならない。
そんな化け物に与えるに相応しいランクだね、SSランク。
「そいつ、何者なの?」
「分かりません。鑑定が機能せず、名前しか分からなかったらしいので」
「へぇ〜?なんて名前のモンスターなの?」
「……『アラブルカミ』、だそうです」
『アラブルカミ』…ね?
漢字に直すと、『荒ぶる神』か……
名前からして強そうだね、『アラブルカミ』。
「コイツは正真正銘の化け物で、遭遇した冒険者曰く、『概念か何かが輪郭を持ったかのような存在』『強大なエネルギーが破壊の意志を持って生れた化け物』『破壊を司る地上の神』だそうです」
「概念が輪郭を持った存在……もしかして、触れないの?」
「分かりません。現状判明していることは、名前と並外れた破壊力を持った攻撃を出来るということです。複数のSランクのモンスターを拳を振っただけで、塵も残さず消滅させたと報告されています。触れられない、と言うとは無いと思います」
……化け物ね。
拳を振っただけで、複数のSランクモンスターを消滅させるって…
アラブルカミは、本当に化け物だわ…
「まあ、少なくともアラブルカミがここに現れる事はないので、気にすることはないですよ」
「そうかしら?……こういう話をしてると、急に空気が変わって目の前に現れたりして―――」
「止めてくださいよ怖いこと言うの…本当に現れたらどうするんですか?」
「その時は、仲良く死にましょう」
「死ぬなら神林さんじゃなくて、お母さんとお父さんの腕の中で死にたいです
「親を道連れにする気…?」
かずちゃんと冗談を言い合って、楽しく2層を歩いていると、前方から枝が折れる音がして、私達は戦闘態勢を取る。
注意深く音のした方を眺めていると、バラとヒマワリを足したような、見たこと無いような植物が『歩いてきた』。
「出ました。アルクハナです」
「……本当に名前の通りね」
「まあ、歩く花ですから…」
想像以上に歩く花だったアルクハナを見て、私はかずちゃんに確認を取る。
「…いけそう?」
「大丈夫です…相手は…植物…ですから」
「……無理そうなら私に言って。ほんの少し切ってくれたら、後は私が殺るから」
「はい…」
刀を構え、前に出たかずちゃんの背中は、とても小さく見える。
肩に手を置いて、少しでも安心させようとしていると、アルクハナが襲い掛かってきた。
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