宗教をテーマにした作品ですが、書き手の引き出しの多さ、人間を描き出す視点の鋭さには恐れ入ります。
神が実在する世界で、人間として生きることの困難さ、人間の度し難さをこれでもかと描き出した作品です。
それでいて作品が痛快さを損なわず、ある種の心地よさを覚えるのは主人公の果断な性質あればこそ。
しかし彼もまた人であり、決して迷わないが常に悩み苦しむ、それが素晴らしい。
彼が語る示唆に富んだ言葉の数々も説法としての説得力に満ちており、思わず唸らされます。
本作で神とされるアスクラピアはギリシャ神話におけるアスクレピオスにネメシスを足したような存在で、これもまた人間の二面性を反映しているかのよう。
主人公を取り巻くキャラクターも愛憎、禍福、恩讐の中でもがき苦しむ者たちです。
登場する者たちにこの作者様がどのような未来と結末を与えるのか、まだ未完ですがこの先も非常に楽しみにしています。
この作品は、小説家になろうで産声をあげ、なろうに住まう数多の読者を震え上がらせた怪作である。2023年のファンタジー作品の中でも傑出した作品の一つと言っても過言ではない。
主人公は勇者でも英雄でもなく、神官。しかも子供である。精神には日本で生きた男の人格を宿すが、周りはもちろん分からない。
その子供から紡がれる苛烈な言葉は、時に人の心を打ち、時に人の生を狂わせる。
その生き様に一切の妥協はなく、彼の目の前に立つ人間をことごとく、癒すか、救うか、殺す。それも全て彼が頂く神アスクラピアの思し召しであるが故に…。
読者はただ、その様を呆然と眺め、次に何をしでかすかと心音を高鳴らせ、見守るのみである。