episodium:2 『Heretic ―魔獣と少女―』
リディは、いつものように川から小魚を捕まえて、たき火で焼き、魔獣から食べられる木の実を教えてもらい、それらを食べながら、森の奥でひっそりと暮らしていた。
それでも、空腹が満たされないことに変わらないが、他者との関わりがあるのは嬉しく思えた。
「こんな風に、誰かと一緒に過ごせるなんて。まるで夢のようね」
リディは小さく微笑んで、初めて触れた他者との温もりに、僅かながらも幸せを感じて。
魔獣もまた、こうして話し相手がいてくれることが嬉しくて。
二人は共に過ごす中で、それぞれの知識を教え合ったりして、互いを認め合っていた。
そんな或る日、ふと、リディはあるコトを考えていた。
『どうかしたのかい?』と、魔獣が声を掛けると、リディはまっすぐに魔獣の目を見つめて、こう言った。
「あなたにも、何か名前があればいいかなと思ったんだけど………どうかな?」
そう、魔獣の呼び名を考えていたのだった。
普段は「魔獣さん」と呼んでいたが、もし、他の魔獣の群れに遭遇した場合、どう呼べばいいのか分からなくなりそうで、名前を決めようとしたのだ。
魔獣は『俺様は俺様だ、何と呼ばれようが、俺様は構わん』というが、個体識別のために呼び名があるならと、リディに任せることにした。
とはいえ、初めての名付けだ。
どう考えて、名付ければいいのか悩み、まずは外見から特徴がないかと、魔獣をよく観察してみた。
魔獣は一見、巨大な狼と言えばそうだが、色は黒く、牙も大きい。
その容姿から『黒狼-フェンリル・ワーグ-』とも呼べるが、それはあくまで単なる種族の名前であって、個体的な呼び名ではない。
そしてリディは考えに考え抜いた結果、試しにその名を呼んでみた。
「………『ルーグ』って、どうかしら?種族の言葉を捩っただけの、簡単な考えだけど………」
「ふむ、ルーグか………。ああ、悪くないね。では今日から俺様は、ルーグと名乗ろう」
「ふふ…、喜んでもらえて、光栄だわ。改めてこれからもよろしくね、ルーグ」
そう言って優しく身体を撫でると、ルーグもまた「よろしくな、リディ」と横顔を舐め、小さく鳴いた。
種族は違えど、仲睦まじく寄り添い合う二人。
しかし、端から見れば異端であることに変わりはない二人。
いつしか近隣の村には、その異端の二人が手を組み、何かを企てているのではないかと、不安の声を上げ、森へ近づく者はより一層いなくなった。
荒れ果てた森はやがて樹海へ姿を変え、村から距離を置いて生活する二人にとっては、都合が良かった。
ルーグはリディの空腹を満たすためにと、森に棲む生き物を捕らえては、その肉を焼いて食べさせ、リディはルーグが怪我をしたときのためにと、薬草を集めては薬を作った。
そうして、何とか二人での生活も様になってきて、互いの信頼も固く結ばれていくようになった。
そんな或る日のこと。
ルーグは何か獲物がいないかと、森を散策していると、偶然他の魔獣の群れに遭遇してしまう。
魔獣の群れは互いに吠え、何かを話している様子だ。
ルーグはそっと近づいてその会話を盗み聞きした。
『最近、森の上空に鳥以外の生き物の姿が見えるときがある』
『あの姿は人だ。しかもその翼は真っ白だ』
『翼が真っ白なのは、天界の生き物ではないか。なぜ、ここに天界の者がいる?』
『理由は分からんが、何をしてくるか分からぬ。充分に警戒した方が良いぞ』
グルル………と、また一鳴きして、魔獣達はリーダーが呼んでいる声を聞き、その場を離れた。
ルーグはその話を聞いて、ふと、そう言えば最近やたらと鳥たちが騒いでいる感じがしたが、こういうことだったのかと知り、念のためにとリディへ教えることにした。
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