第51話 暴走狂気
マカは、自身の瘴気の剣でラファエルの首を切る。しかし、立ち所にその傷は塞がっていき、首がそれによって切り落とされる前に再生されてしまった。
『くっ……なんて再生能力……!』
殺そうにも、殺せない。これが、四大天使の能力か。
「マフェットちゃん、堕天使は殺そうね。
……そうだね、ラファエルくん。早くしないとね。」
ラファエルは自身の右手のマペットと会話を繰り広げる。だが突然、その会話をピタリと止めると、前のめりに構え始めた。
「擬似固有神器・解放。
シュウウウウウ……と彼の体から瘴気でできた煙が出る。マカは剣を構え、彼を睨みつけた。さあ、どう来る。と構えたその瞬間だった。上空に大きく飛び上がったラファエルは、地面に向けて拳を振り下ろした。咄嗟にマカは後ろに飛んで避ける。その直後、地面に叩きつけられたその拳は、凄まじい衝撃波を巻き起こし、地面に巨大な穴を形成した。
「まずい……!」
マカは後ろに下がりながら、次々と繰り出される拳をかわしていく。そして彼の隙を見計らい、体を回転させると、連続でラファエルの体を切りつけた。だが、やはりその攻撃は立ち所に再生してしまう。
「くっ……こうなれば……」
マカは、アテナとの会話を回想した。
『驚いた……貴方の天使の潜在能力は、どうやら四大天使並みの強さがあるようね。だけど、力を解放する時は覚悟なさい。その時は……』
力を解放した時のリスク。それを想像し、マカはギリ、と歯を食いしばった。恐れているのか、私は?何故、この期に及んで恐怖を覚えている。その程度の事、関係ない。今すぐに力を……彼女がそれを解放させようとしたその時だった。
ドゴォォォォォン、と言う音と共に倉庫が破壊され、ラファエルとマカ、両者の間に何か巨大なものが乱入したのだ。なんだ、と2人はその方向を見る。そこにいたのは、巨大な白い虎だった。その口には、天使が咥えられている。
「が……は……!」
その天使は嗚咽を漏らすと、虎の口から離れ、ドサ、とその場に倒れ込んだ。
「ミカエル……?!どうして……」
ラファエルは困惑した。まさか、彼がやられたのか。マカは思わず、虎に向けて剣を構える。だが、直後に超音速で繰り出された虎の右手に、彼女は吹き飛ばされてしまった。
「あっ……」
壁に叩きつけられたマカの全身が、悲鳴をあげるのがわかる。なんて威力。生きている事さえ奇跡なレベルだ。この虎は、一体なんなんだ。
「くそ……!ミカエル!ミカエル大丈夫か!
ラファエルはその場に倒れるミカエルをゆする。だが、彼は一向に目を覚ます気配がない。そしてその隙を狙い、虎は攻撃する。それになすすべなくラファエルは吹き飛ばされてしまった。即座に彼は体を再生させ、ブレーキを踏むと、虎に向けて飛びかかる。虎は彼に対して、超音速の突進を繰り出す。どちらが勝利するか……それは言うまでもなかった。数秒の拮抗の後、ラファエルは後ろに大きく吹き飛ばされてしまった。
「こ……の……!」
マカは壁を大きく蹴ると、体を回転させ、剣を虎に向けて振り下ろした。だが、その剣はあっけなく砕けてしまう。なんとなく予想はしていたが、本当に砕けてしまうとは。次に来る反撃の為に、マカはガードをとった。だが次の瞬間、彼女は気がついた。虎が何か言っている事に。
「マ……カ……」
この声。いやそもそもこの虎の毛並み。まさか……
「まさか……美琴さん?」
そんな筈は、ない。だって彼は猫又の筈だ。そんな彼が虎になるなど……。
「マカさん!!」
混乱するマカに、何者かが叫んだ。見ると、それは納言だった。後ろには、牛頭と馬頭を引き連れている。
「それ、美琴!殺しちゃ、ダメ!」
馬頭は、必死で彼女に向かって叫ぶ。マカは咄嗟に虎から距離を取ると、3人の元に駆け寄る。
「どういう事ですか?」
「遠くから見ていたんです……彼が白い虎になるところを。……直前に私たちを離れさせたのは、きっとこう言う事情があったからです。……彼は今理性を失ってる。なんとか元に戻さないと。」
牛頭は、遠方で暴れる虎……美琴を眺めながら言う。元に戻す、方法。マカは考えた。だが、アレほどの強さだ。そもそも止めようとする前にやられてしまうのではないか?マカだけでなく、3人もその疑念を抱いていた。
「ねえ。」
突然、4人の後ろから何者かが話しかけ、彼らは肩を跳ね上げて驚いた。マカは咄嗟にそこに剣を向ける。
「あー、待って待って。僕だよ、ラファエル。」
その剣から若干の距離をとりつつ、ラファエルは宥めるような姿勢をとる。マカは剣を納めると、彼の話を聞いた。
「一旦休戦にしよう。あいつを倒すために、ね。あのまま無秩序に破壊を続けたら、君らも困るだろう?」
「倒すんじゃない、止めるんだ。そこを履き違えるな。」
険しい表情で、マカはラファエルに言い放つ。その口調の豹変ぶりに、彼は思わず顔を歪ませた。
「私にも協力させてください。」
彼らの前に、更に新たな協力者が加わる。それは、ミカエルとウリエルだった。
「話は聞きました……彼は私の理解者となり得るかも知れません。だから……協力させてください。」
ミカエルは和やかな笑みを浮かべながら言う。
「さて……私たちはこう言っていますが、皆さんどうですか?」
ウリエルは4人に問いかける。納言は
「……やりましょうよ。協力者は多ければ多いほど良い。」
と決意に満ちた目つきでマカに言う。彼女は
「……わかりました、やりましょう。美琴さんを、ここで救出します!」
と言うと、未だ暴れ続ける美琴の方を向く。
「それじゃあ……行きましょう!救出作戦、開始です!」
ウリエルが呼びかけると同時に、一同は動き始めた。
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