第6話 本当の理由
総合スーパーの帰り道、バスの車内の事である。
『絡繰り人形』から直接メールが届く。
どうやら、『マスター・オブ・ザ・ペーパー』が探している事を聞きつけたらしい。私も有名人になったものだ。私は狭いバスの車内で三面ディスプレイを開く。
発信元はロシアの人口衛星からだ。
うぅぅぅぅ、これは厳しい、ロシアの諜報機関を介している。あそこを敵に回すと厄介だ。
流石、『絡繰り人形』だ。
関心してないでメールの文章を良く読もう。
『拝啓、私の名前は『絡繰り人形』です。貴方が私の事を追っていると聞きメールをする事にしました。私は私情により人々をネット依存にしている。さて、本題は貴方に私の手伝いをして欲しい。この世界はいずれ、皆、ネット依存に落ちる。私はそれを早めているだけです。是非、心良い返事をお待ちしています』
動機が私情によるモノだと!
増々、『絡繰り人形』の事がわからなくなった。普通はこの手のハッカーは自己肯定の為が多い。それは私情とは言えない理由である。
しかし、『絡繰り人形』は私情だと言う。
私は断りのメール返すと、三面ディスプレイをしまい、深く考え込むのであった。
それから数日後。花火大会の前日の事である。
雫さんは入院した。
結果、花火大会は一人で高校の校舎に忍び込み見る事にした。浴衣姿は止めてして制服である。私はスマホを取り出して舞い上がる花火を撮影する。
こんな事をしても意味がない……。
入院した雫さんに見せようと思ったが虚しくなった。
『彼女は死ぬ』
そんなカルテを病院にアクセスして見るのは簡単であった。
そして、数カ月後。私は雫さんの葬儀の帰り道をトボトボと歩いていた。不意に田んぼにあるカカシに目が止まる。季節は稲刈りのシーズン直前であった。
そこに有ったのは『絡繰り人形』からの紙に書かれた手紙であった。アナログだが一番痕跡が残らない。
私はその手紙を読むと、それは駅北児童公園への招待状であった。
少子化とデジタル化でその役目を終えた児童公園である。ホント、『絡繰り人形』らしい場所だ。
私が児童公園に着くと一人の青年がブランコに座っていた。あれは雫さんの葬儀で見かけた。弟の司さんだ。
「そう、僕が『絡繰り人形』だ」
私が青年に近づくと自分が『絡繰り人形』だと言い出す。
「人々をネット依存に落としているのは私情だと言ったな」
「はい、僕は雫姉さんをネットの海の世界で永遠の存在に出来る技術を開発した。そこで雫姉さんが独りで困らない様に人々をネット依存にした。でも、間違っていた、雫姉さんは貴方と出会って友達と生きる意味を知った。だから雫姉さんはネットの海ではなく天国に行かせる事にしたのだ」
……確かに私情だ、愉快犯でもなく金銭目的でもない。
……———。
私達の間に長い沈黙の時間が流れる。
「これから、どうするのだ?」
「ここに、ネット依存に落とした人々向けのワクチンソフトがある、貴方の力を借りれば簡単に元の世界に戻るだろう」
「わかった、手をかそう」
「よかった、本当に貴方は良い人だ。同じ人物を失った悲しみを共有できるのは奇跡だ」
「告白でもする気か?」
「あぁ、僕は『絡繰り人形』として貴方に興味がある」
「よかろう、先ずは友達からだ」
空にはイワシ雲が流れていて、死んだ雫さんの心の様に気持ちの良い青空であった。
マスター・オブ・ザ・ペーパーの名において 霜花 桔梗 @myosotis2
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