第11話「……弱くない?」

 アニエスさんに連れられて(雷竜は邸宅の敷地内で待機)、再び英雄女学園の中に入った。


 相変わらず女性しかいないし、いい匂いがする。


 昨日と同じ広いエリアに行くとなつかしい顔──プリシラ・ルーファンスがいた。


 さすが不老長寿のエルフ族だけあって、最後に会った800年前とまったく変わっていない。


 美人だらけの女学園の教職員たちの中でも、プリシラはさらに美しかった。

 そんなプリシラは取り巻きのように何人もの職員を従えている。


 そう言えば俺の前では可愛い子だったけど、わりと女王様気質なところがあったなあ。


「アニエス、久しぶりね」


 とプリシラがその青い瞳にアニエスさんを映す。


「知り合いですか?」


「わたしもここの卒業生だからね」

 

 小声での問いに小声で返される。

 なるほどなぁ。


「ご無沙汰しております、プリシラ様。お変わりないようで」


「まあね」


 プリシラはツンとした態度でうなずいて視線をこっちに向ける。

 おっ? 800年前よりもずいぶんと強くなったな。


 俺が死んだあとも研鑽をサボらなかったのは感心感心。


「なるほど、合格よ。うちの職員になりなさい。今日からか、明日からか。どっちでもいいから」


 とプリシラは言い放って、周囲の度肝を抜く。

 

「ぷ、プリシラ様? まだ何も試していませんが?」


 とひとりがおそるおそる問いかけると、他のメンツがこくこくとうなずいた。

 

「試さないとわからないのは二流。見てわかるのが一流。わが師トラディオの言葉よ」


 とプリシラが得意そうに話す。

 そう言えば1000年前にくらいにそんなことを言ったような気がするな……。


 相変わらず記憶力のいいやつだ。

 ひと目で俺が隠している能力をある程度見ぬいたのは、さほど驚きでもないが。


「お言葉ですが、プリシラ様。現場は我々です。彼が何をどの程度できるのか、把握しておかないと協力に支障が出ると愚考いたします」

 

 とひとりの女性が進み出てプリシラに言う。

 見たところプリシラとアニエスさんの次くらいに強いぞ、この人。


「まあ、エヴァの言うことも一理あるわね。それで、何がどの程度できるの?」


 プリシラが問いかけたのは俺だと思うが、職員の人が経緯を説明する。


「ふうん。十歳で剣と魔法と治癒魔法と錬金術をハイレベルに、ね」

 

 プリシラはこっちを探るような目を向けた。

 

「プリシラ様が見抜かれたのならウソではないのでしょうが……」


 と職員は言う。

 プリシラは彼女たちに信頼されてはいるらしい。


「この子、竜言語を話してましたよ。飛竜の卵どろぼうを捕まえるのを、魔法で協力してくれましたし」


 アニエスさんが口を出す。


「ええ!? 竜言語!?」


 これにはプリシラもぎょっとしている。


「この子、本当に十歳の人族?」


 みんなの視線に疑惑の色が濃くなった。

 だから当分の間は自重するつもりだったのに…。


 とりあえず職員たちと順番に手合わせ(?)をするけどみんな弱い。

 アーマーベアーに一対一で勝てそうな人がいなかった。


 アニエスさんとエヴァと呼ばれた女性だけじゃないか?


「こ、こんなすごい少年がいたなんて……」


「て、天才? いや、神童ね」


 と他の女性たちに畏怖されてしまう。

 まあ、男だからといじめられる可能性を消せたのはよかったのかな。


「ルネスだったわね。学園の件を話したいからわたしの部屋まで来てくれる?」


 とプリシラに言われる。

 その瞳が拒否は認めないという強い意志を放っていた。


 俺が中身も十歳の子どもだったなら「学園のトップ直々に教えてもらえるのか、わーい」 と喜んだのだろうか。


 アニエスさんも反対しなかったので、学園長室へ連行された。




「【音は漏れずサイレンス】」


 部屋に入ったとたん、プリシラは音を遮断する魔法を展開する。

 そして


「トラディオ様ですよね?」


 プリシラは即座に切り込んできた。

 こいつには「転生する」と伝えてたからなあ。


「トラディオ?」


 一応俺はとぼけてみる。

 プリシラは笑わなかった。


「おたわむれを。剣も魔法も錬金も神聖魔法を一流の水準で使いこなし、竜言語をも話せる十歳なんて、トラディオ様の転生体以外にあり得ないでしょう」


 彼女はその双眸に確信を宿している。

 ……こいつレベルをあざむくのは無理だろうな。


「久しぶりだな、プリシラ。俺だって最初は自重しようと思っていたんだよ」


 認めて深々とため息をついた。


「おお、やはり! お待ち申し上げておりました!」


 プリシラは目を輝かせて、少女のような歓喜の表情になって抱き着いて来る。


「おい、こら」


 プリシラの本職は魔法使いだが、他の要素もしっかりと鍛えておいた。

 おかげで戦士としても、俺がさっき倒した剣士教官よりも強い。


 引きはがすのはけっこう面倒だ。


「トラディオ様ぁあ」


 それに甘えるような声を出し、涙を流すのを見ると弱い。


「待たせてすまなかったな」


 と詫びる。

 プリシラは律儀な性格なので、俺が転生するのをずっと待っていてくれたのだろう。


「いえ、こうして再会できたので! 予想していたよりもずいぶんと可愛らしいお姿ですが」


 とプリシラは笑みをこぼす。

 

「いろいろと不本意なんだよな」


 こいつ相手なら本音を打ち明けてもかまわない。

 

「せっかくだから、俺が死んだあとのことについて教わってもいいか?」


 とたずねる。


 どうしてこんなに文明が後退し、生活水準が下がっているのか。

 俺が死んだあとにいったい何があったのか?


 プリシラなら知っているはずだろう。


「わたしも世俗から離れていた時期があるので、すべてを知っているわけではありません。それでもよろしければ」


 彼女は少し困った顔になる。

 ……いきなりあてが外れたな。


 英雄女学園なんてものを設立したくらいだから、世俗に染まっていると思っていたのだが、そうでもなかったのか。

 

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