11、太陽
「…さて、水浴びしたいし探さないと」
「ピピピ?」
「私も君も泥だらけだからね」
お腹が膨れたので、次は水浴びをしたい。さっきのデカい鳥の魔物から攻撃を凌いでいる時に服がドロドロになってしまった。黒い鳥も汚れているみたいだし、キレイさっぱりしたい。
「昨日行った川からは結構離れているし…どうしようか」
「ピッピ!」
「君が?う~ん……」
悩む私に黒い鳥が『自分が探して来るよ!』と言う。だが、今さっき襲われていたのだ。その心意気は嬉しいが素直に頷けない。
「………」
「ピィピィピ?」
『ダメなの?』と言わんばかりに鳴いて小首を傾げる。悩んでいるのがバカらしくなるほどに可愛い。
「~ッ!分かった!ただし、常に私が見える場所を飛ぶように!」
「ピピィ!」
根負けした私は条件付きで探して貰う事にした。この広い森で良さげな水辺なんて早々無いだろうし、きっと昨日と同じ川になるだろうと、そう高を括っていた。
「ピィ~!」
気持ち良さそうに空を羽ばたく黒い鳥。あの姿を見るにどうやら巣立ちはしているらしい。見失わないように追い掛けている私をチラッと見て約束通り離れすぎないようにしてくれている。
家の子頭良い上に可愛いとか!サイコー!
親バカな思考で脳内でデレデレしていた私の下に黒い鳥が戻ってきた。
「どうだった?」
「ピピッピィピィピピ!」
「えっ……本当に?」
「ピピィ!」
飛ぶのに満足したのか、疲れたのか、取り敢えず飛ぶのは楽しかったのかと思って聞いた私に黒い鳥は『左の方に水辺を見付けたよ!』と教えるのだった。
「本当にあった…」
黒い鳥の案内の下で水辺に向かって歩いていると、水が流れる音とひんやりした空気が伝わって来た。
木々が無くなり、視界が開けたかと思えば目の前には透明な水のある泉があった。
「ピピィピ!」
『凄いでしょ!』と胸を張った黒い鳥に半信半疑だった事を謝り、お詫びにナデナデする。
そして、黒い鳥と幼女は水に飛び込んだ。
「あ~」
「ピ~」
プカプカと水に浮かんでぼんやりと空を見上げる。水に浮いている所為か重力からも解放されたような気がする。
「ピピピピッ!」
祝福の日から私は独りになった。味方は1人もいなかった。親も兄弟も村の人達も、教会の者達にも敵意しか向けられなかった。
羽をどう使っているのか分からないが凄い速度で泳いでいる黒い鳥は、今世界で唯一ありのままの私を見てくれている。
「泳ぐの速ーい!待てー!」
「ピッピィ!」
そう思うと胸がジーンとして泣きそうになるけど、顔に水をかけて涙を誤魔化すと笑って先を泳ぐ黒い鳥を追い掛けた。
「はぁ、はぁ…疲れた」
「ピィ、ピィ、ピピィ……」
「君があんなに泳ぐからだよ…!」
「ピピッピィ…」
「確かに追い掛けたけど…」
楽しくなって泳ぎに泳いだ私と黒い鳥は、水から上がると疲れでグッタリする。のんびりしていると冷えてくるので、地面に転がっていたいと主張する体に気合いを込めて勢いよく起き上がる。
「ピッピィ?」
「早く乾かしてフワフワにしちゃおうか」
「ピィピピィ!」
焚き火の暖かい風を使って乾かす事数十分。
「ピィピ?」
小首を傾げて私を見上げるのは黒い鳥。だがその身体はフワフワの羽毛に包まれている。
「!フワフワ~。羽の汚れも落ちて綺麗な黒になったね」
「ピィピィ!」
「ん~!よしよし、ここかな?」
「ピ~、ピィ」
ピョンピョンして手にすり寄った黒い鳥の羽がフワフワで思わず撫で回した。黒い鳥も目を細めて気持ち良さそうにしている。
「この触り心地、たまらないー」
1つ1つの仕草があざとくて可愛い黒い鳥の羽の触り心地に魅力されて、撫で撫でタイムはしばらく続いた。
今日の夜ご飯は木の実だけになった。それでも黒い鳥が色々と見付けてくれたお陰で満足のいく量になった。本当は肉も食べたいけど解体方法を知らないので止めている。ワイルド食いはちょっと…。
日が落ちて暗くなった森、昨日と同じく木の上で寛ぎ黒い鳥を撫でていた私はふと思う。
「そういえば、君に名前無いね」
「ピピィ?」
「そうそう。名前が無いと不便だし、何か名前を付けても良いかな?」
「ピッピピィ!」
元気に名前を付ける事を了承してくれた黒い鳥。早速新たな名前を考える。
「どんな名前が良いかな…」
「ピピィ…ピッピ」
「うーん。ナッツ、ベリー、オレンジ…食べ物ばっかりだなぁ。イチゴとか?名前って感じしないなぁ」
「…ピッピピィ」
取り敢えず食べた物の名前を上げていくが、名前にするのに良さそうな物はない。
「葉っぱ、リーフ?木は…」
視線を動かして目につく物の名前を上げるがやはりピンとこない。
悩んで見上げるとキラキラと輝く星空が視界いっぱいに広がる。星かぁ、黒い鳥に近い星って何だろう?
「ピィ?」
そう思って黒い鳥を観察する。フワフワの黒い羽。夜闇みたいに深い黒だ。瞳は赤だけど少し金っぽい色も混じってる。金星?火星?いや、それよりもずっと明るくて眩しい……太陽……。
「…君の名前の候補を言ってもいいかな?」
「ピィピッ!」
「期待されてる…」
この名前が1番合う気がする。私としてはこの名前以外に候補はないくらい。後は黒い鳥が気に入ってくれるかどうかだけ。
緊張から深呼吸して名前を告げる。
「…ソル。貴女の名前はソル。太陽のような色の瞳から取った名前……どうかな?」
「…ピピ。………ピピッ、ピィピピピィ!」
噛み締めるように何度か名前を言った後、少し考えてソルは翼を広げて喜びを表した。
「気に入ってくれた?」
「
「良かった~!」
緊張して無意識の内に心臓に手を当てていたけどホッとしてソルをもふる。
「…ソル?」
「
「……………ソル」
「
「いや、何でも無いよ」
「
名前を呼んだ後に考え込む主を不思議そうにソルは見上げていた。
そんな可愛いソルの姿を見ながらどうして急にさっきまで何となく伝えたい事が分かる程度だったのが、直接何を言っているのか分かるようになったのか考えるが、前後の出来事から察するに恐らく間違いないだろう。
「名付けかなぁ…」
まぁ、問題があるどころか寧ろ助かるくらいだし?思考だけの抽象的な会話が言葉になって分かりやすくなったし、これからソルと話せると思うと嬉しいよね。うん。
「…
「なぁに?」
1人納得したタイミングでソルから話し掛けられた。当然のように聞き返すと心なしか楽し気なソルが、
「
と返した。
多分、人だったら満面の笑顔だっただろう。さっき私がやった事を返されてしまった。その事に何故か胸がジーンと来る。
「…そっか、何でも無いか~」
一瞬呆気にとられたがソルをしばらく撫で続けたのだった。
その間、私の顔が穏やかな微笑みだったことを知っているのはソルだけだった。
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