12、向かう先
「ん~。おはよ~ソル~」
「ピィ~………」
「起きて~」
「ピィピピ……」
昨日まで野生だった筈なのに寝起きが悪いどころか『もう少しだけ…』なんて人間のように言うソルを何とか起こす。
起きたソルが気ままに羽ばたいているのを見失わないように眺めながら移動を開始する。
それにしてもここは一体何処の森何だろう?近い街は何なのか、村とかはあるのか。今向かっている方向は果たして人里の方向なのか…。ソルが仲間になった事で今まで気にしてなかった、否。そんな余裕なんてなかった事が頭をグルグルと回る。
「ピィピピ!」
確か私のいたソーン村がウォラーレ王国の中にあって、教会の進んでいた方向が……何処だ?確かウォラーレ王国の西に教会の本部がある聖王国があったな。教会の馬車が進むならそっちかな。それならこの森の場所は………。
「ピィピピ!」
「…あ、ごめん。どうしたの?」
「
「下?…本当だ。木が生ってるね。それがどうかしたの?」
『ダメだ。やっぱり分からん』と考えが纏まった?ところで、ソルに話し掛けられている事に気が付いた。どうやら崖に木が生ってるのを見付けたらしい。言われるがまま崖の下を覗くと確かに崖の中腹辺りに一本の木が見えた。
そういえば、私がソルの言葉が解るようになったのと同じ恩恵がソルにもあったらしく、言葉の理解力が上昇したらしい。流暢に
「
「実が生ってる?…私からじゃ良く見えないなぁ…」
「
「採ってくる?わかった。気を付けるんだよー!無理しちゃダメだからねー!!」
「ピッピー!」
昨日透明な果実を与えた影響なのか、すっかり果実が美味しい物だと認識しているようで木の実を採りに崖の中腹にある木へと飛んで行った。
「
「わぁ!ありがとう!」
「ピピッ!」
あっという間に戻ってきたソルは小さな木の実が幾つか生った枝を咥えていた。自慢気に胸を張っているソルがくれた木の実を手に持つ。
「見た目はアンズっぽい?…毒は無さそう」
見た目は完全にアンズだった。枝の実の幾つかが食べられているところを見るに毒は無さそうだと安心する。
「!!美味しい!」
「ピッピッ!」
口に入れると酸味とほのかな甘味が広がる。見た目の通りアンズだった。
「採って来てくれてありがとう!」
「ピピィ~!」
「アンズかぁ…ふふっ懐かしいなぁ」
「ピィピ?」
アンズは前世から好きな食べ物だ。特にアンズジャムが好きだった。パンやヨーグルトに掛けて食べたっけ。
それにしても透明フルーツみたいに前世の世界にはなかった物もあるし、ベリーとかアンズみたいに前世と同じ見た目の物もある。不思議だ。
また1つ食べるとやっぱり懐かしい味がした。
「
「あっちだね!分かった!」
昨日と同じくソルに水辺探しを頼むと、目に見えて張り切っているソルの指示で森の中を進んでいた。
「ピッ!
「ありがとう、ソル」
時折ソルが進む先を確認してくれるお陰で楽に歩ける。褒められて照れたソルを肩に乗せて、ソルが聞こえたと言う水の音がする場所へと着いた。
「まさか滝があるなんて、流石ソル!」
「ピピィ~」
着いたのは澄んだ水が崖から流れ落ちている水場。つまり滝があった。
「ピピィピ~」
案内してくれたソルをナデナデして労り、気持ち良さそうに目を細めてリラックスしたソルが満足するまで私もモフモフを堪能する。
「
「あそこの滝だよ!ソルも行く?」
水魚のような生き物が水の中に何もいない事を確認してから入る。警戒を怠る事は出来ないけど束の間のゆったりタイムをソルと満喫する。
「
「ふっふっふ、行けば分かるよ」
ソルに向かって不敵(幻想)に笑う。あの小さな滝が見えた時、私の心には1つの事しか見えていなかった。いざ、それをやる時!
滝に着くといい感じにあった岩の上に立ち、手を合わせた。
「つめたーい!いたーい!」
滝行の真似である。見た時に思ったのが『滝って事は滝行出来るじゃん!』だった。折角の機会だやるしかないとやってみたが、全身が水に打ち付けられて中々痛い。後冷たい。凍えそうだ。
「……
「うん…大丈夫だよ…」
プルプル震えながら水から上がった後しばらく焚き火に当たっていた。
(何がしたかったんだろう?)
滝行を知るよしもないソルは謎の行動をした主の事について小首を傾げて考えていた。
「ん~」
滝のある水辺から移動している間、ソルを撫でながら歩きつつ考える。
やはりそろそろ人里に行きたい。森で快適に過ごせるような道具とかが欲しいんだよね。道具さえあれば態々人の街とかに行かなくても楽しくなりそうなのに。
「問題は人里のある場所が分からない事だよねぇ…」
いずれ何処かしらの村とかに着くでしょ。と思って当てもなく歩き続けていたが、方針転換をした方が良いかもしれない。
そんな私の呟きにソルが反応して顔を上げた。目が合った瞬間ソルって何かを見付けるの得意だよね、と思う。
「ソル、飛んで人里を探せたりしないかな?」
「
「人里に行けたら色々手に入るから、かな。ナイフ、テントに寝袋。あれば森で過ごすのに便利だと思うんだ」
「ピー
ソルの探索能力ならもしかしたら村とかを見付けられるかもしれないと思ったが、ソルの返事が明らかに乗り気じゃない。それもそうか。今言った物は全て野生だったソルには必要性が低い物に聞こえるだろう。
「…あっ!他にも美味しい食べ物とか、後は屋台の料理とか食べられるかもしれないし…」
お願いすれば聞いてくれるとは思うが、折角ならやる気のある方が良いとソルがやる気を出してくれそうなモノ・・・と出てきた食べ物の事を話してみるが、言っててこれじゃあ無理だよね。と苦笑する。
「
ソルは瞳をキラキラさせてやる気満々で飛び立って行った。
「…無理はしないでね~!」
「ピ~!」
思っているよりもチョロいソルにこれからが不安になる。
「
「えっ!もう?」
「
あっという間に見付けて戻って来たソルに驚く。しかも距離は近く、日が落ちる前には着けるそうだ。
「
「楽しみだね」
「ピィ!」
食欲旺盛なソルと共に久しぶりの人里に向かう事になった。
「…………!」
そんな中、肩に乗っていたソルが急に前を見たまま止まる。
「…どうかした?」
「
毛を逆立てて答えるソルの姿と声に何か危険な存在が近づいているのだと思い、慌てて茂みに身を隠した。
────ガサッ!ガサガサッ!!
「………来た」
隠れてすぐにソルが警告してくれた方向の草が揺れた。私1人だったら気付くのが遅れて隠れられなかっただろう。足下にいるソルに感謝する。
───ガサッ!
息を潜めて何が出てくるのかと草を見詰めた。
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