どっちが好きなの!?
鳥尾巻
素麺vsパスタ
わたし、
名古屋出身の先輩は、スタイルが良くてお洒落で優しくて、とにかくもう最高なの。
先輩と同じ麺類同好会に入って、毎日一緒だし、バレンタインデーには気合を入れたキシメンチョコを渡したから、ホワイトデーの今日は返事を聞かせてもらうの。
私は念入りにお手入れした髪を名古屋巻きにして、最高に可愛い自分を演出する。自分で言うのもなんだけど、けっこう美少女だと思うのよね。
髪はつやつや、唇はぷるぷる、お目目ぱっちりだし、お肌のお手入れだって欠かさない。先輩に振り向いてもらうために、他の男子なんて目もくれずに頑張ったんだから。大学生にしてはちょっと童顔なのが微妙だけど、そこは勢いで押し切る!
「岸面先輩!」
バーン、と部室のドアを開けると、そこには先輩と、もう1人の会員がいた。
サークルなんて先輩目当てのミーハーしかいないから、ガチトーンで麺の話をする先輩にドン引きして、みんな幽霊会員。それはそれでライバルが減って結構なことよ。
問題は、この女。
私はアンジェラを無視して、先輩に近づいた。
「先輩!今日、ホワイトデーですよね」
「ああ、そうやね。チョコありがとうな」
「はい」
何かを期待する眼差しで見つめても、先輩は鈍いのか、ただ、ニッコリと笑い返してくれるのみ。もう!そんなとこも可愛くて好き!
「お返しせなかんな~って、今、知八尾にも話してたとこなんやけど」
「そうですか」
チラッとアンジェラを見ると、真っ赤なグロスを塗った唇をツヤツヤさせて、余裕の笑みを見せつけてくる。何よ!手羽先食べた後みたいな口しちゃってさ!
先輩も腕組まれてるのに、されるがままだし、こうなったら直球でいくしかない。
「先輩、あれ本命チョコだったんです。先輩とお付き合いしたいので今日は返事聞かせてください」
「なっ……私も本命です。私のことどう思ってます?」
手羽先女は、私をキッと睨んだ後、風が送れそうなくらい盛った睫毛をバサバサさせて、先輩に媚び媚びの笑顔を向けた。
先輩は困ったように笑っているけど、これは女の闘い。負ける訳にはいかない。
「うーん……2人とも素敵やけどねえ」
「先輩の好みはどうなんですか?可愛い系?セクシー系?」
「そうですよ。いつもはぐらかしますよね」
「私は目も睫毛も天然素材です」
「何よ。私は大人の女性なの。化粧の仕方も知らないおこちゃまは黙ってなさい」
「これはナチュラルメイクですぅ~」
「手抜きじゃないの?ものは言いようよね」
「2人とも落ち着いて……」
私とアンジェラは、既に先輩そっちのけで睨み合っている。
「その眉毛、角度つけすぎて滑り台になるんじゃない?」
「ナチュラルって毛虫みたいな眉毛のこと言うんだ」
「目だって盛り過ぎでしょ。芭蕉扇?瞬きしたら嵐でも起こすんじゃないの?」
「あざとい顔してウルウルすれば男は騙せると思ってるんでしょうけど、勝手に震えてろって感じよね」
「口も大きくてテカテカしすぎ。手羽先食べたらちゃんと拭いて?」
「あらあら、小さいお口で何か言ってるけど、聞こえないわねえ」
「むかつくー!!ハーフのくせに鼻低いんじゃない?そこはパパに似なかったんだ」
「私のパパは世界一可愛いって言ってくれるわよ。和と洋の良いとこ取りだって。ねえ、先輩もそう思うでしょ?」
アンジェラの言葉で、私は先輩の存在を思い出した。慌てて笑顔を作って、先輩の方に向き直る。先輩は私たちを見比べ、のんびりと言った。
「あー、うん。そうやな……きみらの鼻、差ないで?」
「はな、さないで?」
「うん。鼻差ないで」
そうじゃない!そこじゃない!天然にも程があります、先輩!鼻の差ではなくて、私を好きと言ってはなさないでほしいの!
なおも詰め寄ろうとすると、先輩の携帯がマヌケな着信音を奏で始める。
『ちゅ、る、ちゅ、る、うまうまぁ♪ (いらっしゃいませ~)かれぇうどぉんちゅるちゅるぅ♪』
「あ、彼女から電話。ごめんね、きみたち。これからカレーうどん食べに行くんだ。これ、お返しの味噌カツクッキーね。ではご無礼します~」
先輩は私たちに友情クッキーを手渡すと、申し訳なさそうに片手で拝みながら部室から出て行った。
残された私とアンジェラは見つめ合って放心する。
「負けた……カレーうどんに負けた……」
「あの野郎。思わせぶりな事しやがって」
「アンジェラ、お口悪い」
「チッ」
「舌打ちだめ」
「……ラーメンでも食いに行くか」
「いいね」
急にセクシー系をやめたアンジェラが頼もしい。さっきの敵は今の友。私はアンジェラと腕を組み、先輩の悪口で盛り上がりながら部室を後にした。
終
【引用】
名古屋「若鯱屋」(うどんの店)CMソング
ごめんなさい。名古屋愛してます。
どっちが好きなの!? 鳥尾巻 @toriokan
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