56-長蛇の列に予定変更

籠を片手に神殿へと続く道を歩いていたライアは並んでいる人々を見付け何かあるのだろうかと思いつつその列の横を通り過ぎ歩いて行く。

一人だったり複数人で纏まっている様子を見ながら進んでいけば、この列が神殿を利用する為に並んでいる列だと分かる。


「なっ!こんなに並ぶもんなのか…?」


リリースしてから約2週間ほど経っていると言うのに未だにスキルを得るのに並ぶ列があるという事はそれだけプレイしている人口が多くなってきているという事なのだろうが流石にこれは並び過ぎだと思う。

スキルに関する質問なども受け付けている可能性を視野に入れてもかなり時間を掛けながら行っているに違いない。

ふと元来た道を振り返ってみれば列は更に長くなっているのが分かる。


「こんな長い列に並んでいたら籠が目立つだろうし、マオ達が起きたとしても流石に待ち時間が長過ぎて嫌になるだろうな」


暫し悩んだ後に取り敢えず神殿の入口まで行くと仕える司祭の姿が見え開かれている時間を確認する。

朝の5時から夕方の18時まで開かれている事を教えてもらえば礼を述べてから足早にその場を去る。

その場を去った理由は列に並んでいるプレイヤー達が司祭に声を掛けている姿を見て何かあるのだろうかとライアを伺い見ていたからだ。


「…仕方がない。予定を変更して明日早く起きて行く事にするか。今が11時過ぎたくらいとなると、今日はソアラさんにも料理を教わるから16時には猫の遊び場に行かないとな…」


「おい、そこの兄ちゃん」


「ん?俺の事か…?」


「そうだよ。そこの籠持った兄ちゃん、お前さん」


籠を持っているのは自分しかいないなと思い振り返れば誰も居ない事に首を傾げるもいきなり手が目の前に翳されて目を見張る。

視線を下へと下げれば腰くらいの背丈のサンタクロースの様な長さの髭を三本の三つ編にしている如何にも鍛冶屋と呼べるような服装をしたドワーフが立っている。


「貴方は…?」


「わりぃわりぃ。ワシはそこの鍛冶屋の店主をしてるガルドルフっちゅうもんじゃ。何となくじゃがお前さんからレア素材の気配がしての…声を掛けさせてもらったわい」


「はぁ、鍛冶屋の。レア素材…ドワーフの方々はなにかそういった勘が鋭かったりするんですか?」


「ワシみたいな何十年も鍛治と向き合っておるもんならなんとなくビビッと来る感じじゃ。若いのは分からんと思うがなっ」


大きな声で笑いながら喋るガルドルフを見つつ、長年の勘が働くと言うやつかとライアは納得すると流石に道端では見せられないと説明すれば謝罪と共に店の中へと案内される。

鍛冶屋の中に入れば棚や壁に並べられた武器や盾、防具の数々を見て感嘆の息を漏らしつつ人目を気にするならと工房まで案内してくれたガルドルフが用意してくれた椅子に腰掛ける。

マオ達を起こさぬように籠をそっと地面に置いてはインベントリを開いてと素材を取り出すと爛々と瞳を輝かせるガルドルフが食い気味に近寄ってきた。


「おうおうおうおう!はぐれ焔尾鳥の落とし羽根じゃあねぇか!何処で手に入れたんだ、兄ちゃん!」


「ウチのマオが拾ってきてくれたんですよ…。後はこんなのとか…」


「おぉぉぉん!?ちいせぇが最高級の魔石に、竜の鱗やらなんやら…どんだけ幸運値の高いペット連れてんだ、お前さん」


「いやぁ…俺もこんなに幸運高いって知らなかったんですよね…」


頬を掻きながら足元にある籠の中へと視線をやると未だに痒そうに耳を寝ながら掻くマオの姿を見る。

暫く髭を弄りながら並べられた素材を見つめるガルドルフがライアを見て1つの提案をする。


「ふむ、どれも1つだが簡単なグローブや肘当てとかに加工が出来る位上等なもんだ。お前さん、ワシに頼んでみる気はねぇか?」


「良いんですか?いつかは鍛冶屋に頼もうと思っていたので有難いくらいです。どれぐらい掛かりますか?」


「素材は殆ど持ち込みだからな…。久々に腕が鳴る素材を見せてくれた事も加味して1500位だが出せそうか?」


「大丈夫です。後、出来れば少しだけ作業を見せてもらう事も可能だったりしますか?」


「いいぞ。グローブや肘当てなら短時間で出来るしドワーフの技術は中々見れんだろうから暇つぶしにもなるじゃろ」


作業を見たいと言われた事に驚いた素振りを見せるものの笑みを浮かべては早速というように窯に火を入れると一気に暑くなる工房内に慌ててマオ達が入った籠を避難させる。

カウンターの傍に隠すようにして置いてからライアは工房に戻ると素材を加工する姿を真剣に見ながら火を巧みに扱うガルドルフの手元を一瞬でも見逃さないように見つめる。


「焔尾鳥の羽根はちょっとやそっとの炎じゃ耐久性が高過ぎて加工が中々進まねぇ。そこでこの最高級の魔石を使うんだ」


「魔石から糸状の何かが…」


「これは魔力糸って言ってな。コレを使って丁寧に焔尾鳥の魔力を広げながらグローブを練っていくのよ」


魔石にガルドルフの持っている魔力を送っているのか綺麗な金色の細い糸が焔尾鳥の羽根に絡みついて行き見えなくなる程覆うと二つに分離し、指先の動きを邪魔しない為か第1関節ぐらいまでの長さに留められた手の甲部分は七色に見える緋色の指ぬき加工のされたグローブが一組完成する。

使用済みとなった魔石が崩れ落ちると先ずは一つ目だなとライアにグローブを手渡すと窯の温度を確かめてから竜の鱗とその他の素材を投げ入れ肘当ての加工へとガルドルフが作業に入る。

ゴーグルと槌を装備し窯の熱を一身に浴びながら作業をする姿をインベントリから水を取り出し時折水分補給をしながら食い入るようにライアは見ていた。

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