54-合格祝い

予約をして来たことは無いので落ち着かないライアだったがテーブルの上にマオに黒鉄、グロッキー状態の白銀を降ろしてやれば一息つく。

思い返してみれば試験でボロボロの身体で来てしまった事を思い出してはインベントリから回復薬を取り出し飲み下す。

苦味が口の中に残る物の頬などの痛みが引いていけばラルクが来る間、白銀の背を優しく撫でてやる。


『うぇっぷ…酷い目にあった…』


『鍛錬が足りませぬなぁ、姉上』


『黒はしがみ付ける足があるけどわてはツルッツルなんやからな!?』


『パパー、今日は何食べるのー?』


「何食べるかな…と言っても、メニューがまだ来ないしラルクが来てからになるだろうが」


「おぅ、待たせたな」


「ラルク、何してたんだ?」


「ちっと野暮用を済ませてたんだ。今日の飯は全部ソアラに任せてあるから飲み物だけ考えとけよ?」


何か長い物を入れた袋を持って歩いてくるラルクを見て手を上げるとライアに気付いたのかこちらへと歩いてきて席に座る。

今日の食事は全てソアラにおまかせと聞いては珍しいなと思いつつマオが歯を鳴らしながらラルクを見るので頭を指で小突けば不満そうにテーブルを尾で叩く。

グロッキー状態の白銀はテーブルに寝そべりながらラルクへ視線を向けた後に目を閉じる。


「どうしたんだ、コイツ。何時もなら威嚇してくるのに」


「あー…足がどれだけ速くなったか試したら酔ったみたいでな」


「…それだけでここまでなるもんか?」


「………まぁ、俺がかなり配慮しなかったせいだな」


「あんまり虐めてやるなよ?嫌われっぞ?」


『ボク達がパパを嫌いになんてなるわけないよーだ!』


『小さな兄殿…あのゴリラには聞こえぬでござるよ…』


『聞こえないから言ってるんだもん!ばーかばーか、ヒゲゴリラー!』


「お前ら、その呼び方はやめろって…」


「なーんか、腹立つこと言われた気がすんな」


マオと黒鉄を見ながらラルクは眉間に皺を寄せながら二匹を見ると指を構えては頭を素早く小突く。

怒ったマオと黒鉄がやり返そうとラルクの指に噛み付こうとして奮闘する姿を横目に見つつ、白銀がゆっくりと頭を上げたのを見てライアは視線を追うようにそちらを見ると料理を持ったミーナがこちらへ歩いてくる。


『えぇ匂い!!今日はなんの酒が合うやろか!』


「もう気分は大丈夫なのか?」


『飯を前にして気分悪いなんて言ってられるわけないやろ!はぁぁぁ、腹が鳴るわぁぁ』


ミーナの手にある料理を視線で追いながら尾の先を揺らしている白銀に食の事をこの三匹の中で一番大事にしているかもしれないと思いつつテーブルに置かれていく。

いつも頼むマッシュサラダを筆頭に茸を沢山使った肉料理と香草や沢山の野菜と一緒に煮込まれた魚介系のスープが並べられる。

ミーナがスープを見つめ食べたそうな顔をしていたのを見て見ぬ振りをしつつ使い魔用に頼んでいる取り分け用の小皿なども貰いライアは礼を言うとウィンクをしながら他の料理もありますよーと告げて去る後ろ姿を見送る。


「いてっ!」


『ふふーんだ!ボクが噛めないと思って油断するからいけないんだもーん!』


『小さな兄殿!流石でござる!』


「なんだかんだ…お前らもラルクが好きだなぁ?」


『べっ別に好きじゃないもーん!ボクの事、ネズミって言ったのまだ覚えてるもん!』


『旦那はん、そういうのは言ったらアカンのや………イターーーッ!!』


『妹生意気ー!』


「コイツらは見てて飽きねぇなぁ。ここまで表情豊かなのもなかなか居ねぇぞ?」


「ははは…やんちゃなのが玉に瑕なんだがな」


マオが白銀の尾に噛み付いている様子を見ながらラルクが呆れたように言いつつなんだかんだと黒鉄の頭を撫でたりしている。

ライアが食事を取り分けながらラルクの言葉に苦笑混じりの言葉を返すも三匹が居て良かったと思う事も多い。

店からソアラが出てくると手を振りながらまだ頼んでいない人数分の飲み物を持って席に合流する。


「後は盛り付けるだけになったから中の事は皆に押付けて来ちゃった」


「いいのかぁ?んな事して」


「いいのよ!今日はライアくんの卒業のお祝いでしょ?アイツは絶対合格するからってわざわざこの席も予約してたんだから」


「ばっ!それは言わねぇ約束だろうが!」


「いいじゃない!明日からは私の店で念願の料理の修行よ?と言っても基礎はあるらしいからレシピを渡して作ってもらう感じになると思うけど」


「ラルク、予約してたのか?」


「あーー…そうだよ。お前さんなら諦めねぇし絶対その日の内に合格すると思ってな」


頬を書きながらバツが悪そうに呟くラルクを見ながらライアは嬉しさに頬が緩む。

試験の内容は勝手に変えてしまったがそれだけ自分の事を買ってくれていたという証拠だろう。

ソアラがエールをライアとラルクに渡し、マオには度数の低い果実酒、黒鉄には上物のウィスキー、白銀には水を配る。


『えっ!?なんで!?なんでわてが水!?』


『わーい!初めてのお酒ー!』


『良かったでござるな!小さな兄殿!』


「マオには少し早い気がするんだが…?」


「度数が低い甘めのにしておいたから大丈夫よ!ほらほら、乾杯するんでしょ?」


「んじゃ、ライアの試験合格を祝って…乾杯」


『わてだけ水なのなんでー!?』


それぞれ配られた飲み物を軽く掲げてから一口飲む。

ライアはソアラ用の料理を取り分けながら落ち込む白銀にちゃんとした酒を頼んでいるとラルクに声を掛けられる。


「ライア、合格祝いだ。持ってけ」


「これ…いいのか、ラルク?」


「お前さんが合格する時に渡そうと思ってたヤツだからな。大事に扱えよ」


照れくさそうに手渡される先程少しだけ見えた長めの何かが入っている袋をラルクからライアは手渡される。

戸惑いながらも貰ってばかりだと思いつつ嬉しさに僅かだが目が潤むのが分かりライアは顔を隠す。

その後も沢山の料理が運ばれてきて寝る事さえ惜しんでしまう程に楽しいひと時を過ごすのだった。

後からちゃんと白銀にも酒は配られたらしい。

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