53-装飾品の謎

合格をもぎ取れた事により基礎ステータスが上がった事を喜んでいたライアだが、クエストの報酬に装飾品の情報があったのを思い出しインベントリから朝方見ていたネックレスを取り出す。

ラルクがまた何をしているのかと様子を伺っていたのがネックレスを見た瞬間に目を見張りライアの腕を掴む。


「ライア、その手に持ってるヤツ…どこで見つけたっ!」


「調査に行った時に不気味な闇を纏う戦士…というよりも騎士、か?ソイツが落としたんだ。」


「……まさか、いや…その騎士、何か特徴はなかったか?」


「特徴か…月の光を浴びると纏わりついていた闇が剥がれていたような…」


「ライア、ひとつ頼みがある。王都に行く予定があるならオレの知人にコイツを見せてくんねぇか?」


いつになく真剣な面持ちで告げるラルクにどうしたのかと思いながら目の前に表示されるメッセージウィンドウへと視線を向ける。


〈キークエスト

目標:王都に居るウェアリオルにネックレスを見せる

報酬:???、???

※このクエストは途中で放棄することはできません〉


内容は簡単なものだが報酬は完全に伏せられており一度受けてしまえば放棄することは出来ないという点にライアは目を細めるもラルクの頼みであれば断るという答えは持ち合わせていない。

よくよく考えてみると今日はクエストを受けてばかりだなと思いつつラルクを伺い見る。

どこか懐かしんでいるようにも見えるがその中にも後悔があるような複雑な表情をしているのを見てしまう。


「分かった。俺がラルクの頼みを断るわけないさ」


「すまねぇな…。通行証はオレの方で用意しておく」


安堵と申し訳なさの入り交じるような表情に変われば辛気臭いのは性にあわないので思わず一発ラルクの背中をライアは叩く。

痛そうな表情を浮かべながら時計を盗み見てからラルクは暫し考えた後に口を開いた。


「飯の時間にはちと遅くなっちまったが遊び場に行くか。この時間なら多少は潰れた客とかも帰って席空いてんだろ」


『美味しいご飯ー!』


『もうこんな時間なんかぁ。そらお腹空くわぁ』


『某は何を食べようか…この前の酒も中々に美味かったでござる』


「悪い、ラルク…。マオ達が何時もより沢山食べるかもしれない…」


「ガッハッハッ、野宿明けだからなぁ?オレも外で狩りやらしてた頃は食ったもんが味気なくてよォ…そうなるのも仕方ねぇさ。お前らも沢山食って早く大きくなりやがれ!」


酒場に行くと分かり小躍りするマオ達を見てライアが申し訳なさそうに告げると大笑いをしながらいつものラルクの様子に戻る。

気にはなるが深く話そうとしないという事は今はまだ語るべきではない内容である場合が多い。

今回ラルクから受けたのはキークエストだ。

何かしらの機能が解放される事もそうだが、それなりに難易度が高い可能性も視野に入れながら行動した方がいいだろう。

先に酒場で待ってろと言うのでマオ達がいつものポジションに収まるのを待ってから立ち上がると訓練所の外へと向かう。


『それにしても…旦那はんは腹立つと口調が変わるんやねぇ?』


『巷で言うわいるど?という感じになっていたでござるな?』


『パパはどんな口調でもカッコ良かったー!』


「あー…昔にな。友人達に巻き込まれて四六時中喧嘩をしていた事があってな…。多分その名残だと思う」


苦笑混じりに感想を口にするマオ達に頬を掻きながら答えつつ席を確保する為に訓練所を出ると足早に猫の遊び場へと足を向ける。

多少時間は経っているが満席に近い状態である事は変わりないだろうし急いで向かって損は無い。

ふといい事を思いついては上がったステータスの分、どれだけ早く動けるか確認の為に走る事にする。


「お前たち、ちゃんと掴まってろよ?」


『ん?何する気…なぁん!?』


『おぉ、若!足が速いでござるな!』


『んぐぐぐぐ!ちょっと息しづらいー』


「さっきの試験のお陰でステータスが強化されたからな…試しに走ってみてるんだ。すまないマオ。少しだけ我慢してくれ」


白銀が首を上げたところで走り始めたせいでもろに横殴りの風の影響を受け旗がなびくように揺れているのを見つつ、しっかりと肌に張り付いている黒鉄は楽しそうにしている。

マオが息苦しさを訴えて来たので手を壁にするように手を添えてやると顔を隠すように服の中に潜って避難する。


『ちょぉぉっ!!待ってぇぇぇ!目がまわるぅぅぅ!!一回止まってぇぇぇ!!』


『姉上、ふぁいと』


「普段よりも早く走れるな…もう少し速度上げてみるか?」


『うそっ!?勘弁してぇぇぇぇっ!!』


現実では叩き出せないような最高速度を出せた事を嬉しく思いながら猫の酒場に辿り着く頃には白銀は腕に巻き付いているものの頭から胴体の半分くらいまでは脱力状態となりぶら下がっている。

店の傍まで歩いていくとライアに気付いたミーナが空いている席を指で指してくれたのでそちらへ向かうと予約席の紙が貼られていた。

ここで問題ないのだろうかともう一度ミーナの方へ顔を向ければ後ろにソアラが立っていた。


「ふふっ、もう少し遅くなると思ってたけど意外と早くてお姉さんビックリよ!」


「ソアラさん。えっと、この席使って大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ!料理作ってくるから待っててね?」


席に座るようライアに促しながら予約席の貼り紙を剥がしてウィンクをしつつ店の中に戻るソアラを見送るのだった。

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