第4話

「ねえルーク、あなた私に何か隠してる?」



サリアとルークがいつも通り夕食を取っている際、サリアはそう口走った。



ルークは突然の彼女の言葉に口元まで運んでいたフォークをとめる。

当然どうしたのだろう、とルークは思った。



隠し事をしていることは事実である。

浮気したことを隠し、記憶喪失になった本当の理由も隠しているのだから。



しかし記憶が戻っていないサリアが、それらについて疑うことはしないはずだ。

ならば日常生活における別の事についてだな、とルークは頭の中で思考する。



「ほら、また固まった。あなた隠し事をしているときいつもそう」



「あはは、ビックリしただけだよ」



「ウソ。何か隠してる」



今日のサリアはやけに積極的だった。



普段あらば何か疑問に思ったとしても、気のせいだよなどと返しておけば納得してくれるのに。

面倒くさいなとルークは内心イラつきつつ、顔には出さないように必死にこらえる。



「気のせいだよ。ほら、冷めないうちにたべちゃおう」


「・・・そう」



サリアに再び告げると、彼女は少し不服そうな顔をしながら、食事に戻った。

納得などしていないことはすぐに分かった。



これは後で何かプレゼントでもあげて、機嫌をとらなければまずそうだ。



食事後、ルークは久しぶり一人で外出してくるとサリアに伝え、家を出た。

彼女の機嫌を取るためのプレゼントを探し、購入するためだ。



まだサリアには利用価値がある。



彼女と一緒にいれば、自分は記憶喪失で大変な人間を賢明に介護する夫でいられるのだ。

それに漫画いち記憶が戻ってしまった際の保険にもなる。



あれだけ優しくしたのに仇で返すのか?とでも言えば彼女は何もできないだろう。



その利益に比べれば、この程度の手間は、惜しむまでもない。

ルークはそう考えながら、サリアがお気に入りのお菓子を売るお店へと入る。



一方、家では、


「・・・・・・残念よ、ルーク」


と机に座ったまま、サリアがつぶやいていた。



彼はウソをついた、何か隠し事をしてる?という私の問いを

はっきり否定したのだ。



浮気の事も、私が記憶喪失になった理由も、

すべて自分から言う気など一切なさそうだ。



すでに浮気の告発の準備は始めている。



ルーク自体はとても防御が堅く、証拠のようなものは残っていなかった。



けれど浮気相手は違ったようだ。



住所を見つけて、何通か手紙を送ったらすぐに吐いてくれた。

ルークは少し人を見下すくせがある。



確かに彼は頭がいい。

でもだからといって完璧でもないのだ。



現に浮気の証拠も、こんな簡単に手には入ってしまっていた。



後は、この証拠をルークに突きつけ、婚約の破棄を告げればいいだけだった。



サリアにはまだルークに対しての感謝の気持ちが以前と残っている。

だから今回の返答には目をつぶり、もう一度だけ、チャンスを与えて上げようと思った。



もし、それでもダメならばもう躊躇などはしない。

これ以上ダラダラといびつな関係を続ける気はない。



罪を認め、反省すらするきのない男とは共にいたくないのだ。

そんな男はまた自身を傷付けるに決まっているから。



「どっちを選ぶのかしらね。あの人は・・・」



サリアは再び静かにつぶやいた。



そしてもしかしたら出て行くことになるかもしれにない、二人で立てたマイホームをジッと見つめるのであった。

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