第28話 エピローグ
その後、世間は大騒ぎだった。
まあそれはそうだろう。
世界中にダンジョンが出現するという前代未聞の大災害が起きていたはずなのに気付いたらそれが無かったことになっていて、しかも災害発生前に時間が巻き戻っている。
混乱するなというのが無理な話だ。
マスメディアやSNSでは連日のようにダンジョンに関する話題が上がっていた。
しかし、皆はっきりと覚えているのにいくら探してもその形跡は見当たらない。
次第に人々はあれは本当の出来事だったのだろうかと自信を失い始め、また記憶も曖昧になっていった。
ある人は「あれは夢だったんじゃないか」と言い、またある人は「某国の新兵器による精神攻撃に違いない」という陰謀論を唱えた。
「神による試練だったに違いない」と正解に近い説を唱えた人もいたが、その人はその説を利用した詐欺を働いて後に逮捕された。
他にも様々な憶測が飛び交ったが、大多数の人は日々の生活に追われる内に今回の件に対する興味を失っていった。
そして半年もすると、あの騒動を口にする人はほとんどいなくなった。
その間、俺は特に何もしなかった。
強いて上げるなら事の顛末を金沢に話して聞かせたくらいか。
元々目立つのは得意じゃないので世界を救ったのは俺だとか名乗り出るつもりはない。
それにあの冒険の思い出は出来る限り自分の中だけに留めておきたかった。
なので、大騒ぎする世間を尻目に俺は以前と何ら変わらない日常を過ごしていた。
変わったことといえば一つだけ。
実家から、新しく犬を飼い始めたと連絡があったことくらいだ。
遠い親戚から譲り受けたとかで、ロクエモンと名付けたらしい。
写真を送ってもらったところ、ゴエモンが小さかった頃に瓜二つの柴の子犬だった。
その写真を見た時、ふとある考えが浮かんだ。
あの時エマは、ゴエモンが望んだ通りの来世を与えると約束してくれた。
この子、ひょっとして……。
しかし俺はすぐにその考えを振り払った。
どうせ確かめようが無いし、どちらにしろやる事は変わらないのだから。
俺はカレンダーに目をやった。
次の連休には実家に帰ろう。
ロクエモンに会うのが今から楽しみだ。
うちの押し入れに出現したダンジョンにいたミミックがどうも昔飼っていた犬の転生体っぽいんだがそれはそれとして世界がヤバい 鈴木空論 @sample_kaku
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