第19話 鬼猿

 * * *


:吊り橋来た! 鬼丸たちはここでも結構苦戦してたよな。


:道幅が狭い、足場が揺れる、たまに足場が壊れる、単純に高くて怖い、大量の魔物に襲われる、で最悪だった。


:橋を渡るだけで時間かかってた。


:めっちゃ魔物が現れた! 相変わらず遠慮がない! せめて五匹以内とかにしてくれよ!


:この鳥もなかなかすばしっこいし、魔法も使うしで、戦うの大変そうだった。


:おお、高速で突進してくる敵、普通に斬ったな。こいつの動体視力ヤバい。


:は? しかもこいつ、なんか普通に魔法を斬ってない?


:魔法って剣で斬れるんだっけ?


:斬れるけど、超高レベルの奴じゃないと無理。


:これって本当に剣術スキル? 何かのユニークスキルか?


:しかも動きが超速い。なんだこれ。腕とか普通に消失して見える。


:Aランクの探索者の動きだって、常人にはもう視認はできんよ。


:なんか剣を投げた! 大量の剣が振ってきた! なんだこれ!?


:敵が一瞬で全滅! すごい!


:こいつ、なんかブツブツ呟きながら戦ってるけど、解説する気はないね。


:そこが残念! 結構余裕ありそうだし、解説しながら戦ってくれればいいのに。


:橋もすぐに渡りきったな。鬼丸さんでも苦戦したのに。


:むしろ、鬼丸が弱すぎたんじゃね?


:鬼丸さんを馬鹿にするな!


:次はゴーレムだ! どうやって倒すんだろ。


:普通の攻撃はあんま効いてないな。


:おお、なんか突進してゴーレムの拳を砕いた!


:なんで剣で突いてるのに、大砲の弾ぶち込んだみたいな大穴が空くんだよ。


:魔法が当たり前にある世界で、物理法則の話なんて意味ないだろ。


:この子、強いな。なんでまだBランクなん?


:昇格試験を受けてないとか?


:たまにいるよな。事務手続き面倒でランクを低いままにしてる奴。


:ウタの場合は、素行不良でBランクのままになってるっぽいな。ダンジョン内の犯罪者、結構殺してる。


:犯罪者を殺すのが素行不良ってのもどうかと思うけどな。まぁ、Bランク探索者ウタに興味出てきた。


:ふ。ようやくウタちゃんの凄さがわかってきたか。でも、ウタちゃんはまだまだ活躍するぜ?



 * * *



 流歌はダンジョン内を疾走し、神殿らしき建物がある浮島に到着。古びた石畳の道を進んでいくと、五百メートルほど先の広場に、鬼丸のパーティーメンバー五人の死体を発見。もう少し正確には、三人と半人分の死体だ。鬼丸の死体はなくなっているのと、上半身がなくなっている死体がある。


 その死体の側には、まだ食事を続けている黒い猿の魔物。



「ようやく見つけました。鬼丸さんは完全に食われてしまったようですが、まだあの魔物の腹の中でしょう。救出可能です」



 あの猿の身長はやはり三メートル以上あるだろう。額には大小四本の角が生えていて、猿なのか鬼なのかわからない。眼光の鋭さや肉体の強靭さはオーガキングを彷彿させるものもある。



(こいつは……黒の鬼猿おにさる、か。そのまんまだけど、たぶん、強いんだろうな)



 今更だが、ダンジョン内において、魔物の名前はすぐにわかる。知りたいと思うと勝手に浮かんでくるのだ。



(鬼猿がまだ残っていて良かった)



 あの鬼猿の魔物が立ち去っていたら、探し出すのは厄介だった。ダンジョンでは各階層が一つの県くらいの広さになっていることもよくあるので、そんな場所から一匹の魔物を探し出すのは難しい。


 流歌は瞬時に鬼猿に接近しつつ、まずは小手調べとして斬撃を飛ばす。


 鬼猿は流歌の攻撃に瞬時に対応。大剣を振り、飛ぶ斬撃を打ち砕いた。飛ぶ斬撃は硬質化した魔力を飛ばしているだけなので、特殊なスキルを使わずとも、力任せに破壊することは可能だ。


 そして、鬼猿が使用している大剣は、鬼丸の所有している武器。名前は屠竜遊戯とりゅうゆうぎ。刃渡りがニメートルを越え、強靭な竜の鱗も切り裂く破壊力抜群の剣だ。迫力のあるデザインで、鈍色にびいろの刃が物々しさに拍車をかけている。



「……こいつ、武器を奪って使うタイプですか。厄介です」



 人間の武器を奪って使う魔物は珍しくない。ただ、鬼丸の武器である屠竜遊戯はあまりにも強力すぎる武器だ。流歌の持つ血戦鬼の剣も、蒼竜の牙も、あの大剣の斬撃に何度も耐えれるほど頑丈ではない。


 流歌は鬼猿から二十メートルほどの距離を取って一旦停止。あの大剣の射程内には入りたくない。



(飛ぶ斬撃以外で、遠距離から攻撃……と、その前に)



 流歌は、小型の魔物が超高速で迫るのを察知。体を傾けて回避するが、その魔物は無数にいて、次々に流歌を襲う。



(こいつらが、鬼丸さんたちを苦しめたすばしっこい敵か。……角を持つトンボ?)



 流歌が強靭な動体視力で視認したところ、その魔物はトンボに似ていた。三十センチサイズの細長い体に、四対の透明な羽。さらに頭には鋭い角が生えていている。名前は一角蜻蛉いっかくとんぼ



(すばしっこくて戦いにくい。剣では攻撃を当てにくいけど、範囲攻撃の魔法なら簡単に倒せるかも?)



 鬼丸パーティーにも魔法使いはいた。しかし、範囲攻撃を仕掛ける前に、このトンボに致命傷を与えられ、倒れていた。魔法使いは比較的近接戦に弱いため、そういう事態にもなりうる。



(地下深くになると、本当に容赦がない……。まぁ、だからこそ面白い)



 流歌がトンボの攻撃の回避に専念していると、鬼猿が距離を詰めてくる。トンボほどではないが、こちらもやはり速い。


 鬼猿が、叩きつけるように大剣を振り下ろす。流歌はそれを回避したが、回避の途中でトンボの突進攻撃を受けてしまう。左腕に裂傷を負った。



(まずはトンボをさっさと倒さないと……。鬼猿からは一旦離れ……げ)



 鬼猿とトンボの相手をするだけでも骨が折れるのに、さらに赤い竜まで現れた。


 鬼丸と対戦していた、二十メートルを越える竜だ。ところどころに傷は残っているものの、大部分が回復しているように見受けられる。名前は灼炎しゃくえん赤竜せきりゅうらしい。


 その名の通り、赤竜は流歌に向けて巨大な火球を吐き出した。流歌はとっさに下がるが、鬼猿がその動きに合わせてついてきて、大剣を横薙ぎに一閃。流歌はどうにか剣で受け、真っ二つにされるのを防ぐ。しかし、流歌はその攻撃の勢いで弾き飛ばされ、その飛ばされる最中にトンボから突進されて怪我を追う。さらに、飛ばされる先に火球が迫っている。


 流歌は、致命傷となるだろうその火球を、魔法破壊の剣で破壊。丸焼きは避けたが、鬼猿とトンボの攻撃は続く。流歌はひとまず逃げに徹することに。



「流石に容赦なさすぎでしょ!? 難易度設定おかしいですよ!」



 流歌がどれだけ嘆いても、魔物たちは淡々と流歌を襲い続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る