第17話 探索狂

 * * *


:リスナーを人類不適合者呼ばわりとか、マジで失礼な奴だな。


:死体回収人とか、雑魚の称号を堂々と宣言するなよ。


:噂で聞いたウタってこいつのこと? 弱そうじゃん。


:Bランクがなんででしゃばるかね? 死体をさらすだけじゃ済まねぇぞ。


:たまにいるよな。めっちゃイキってるくせに、いざ死にそうになって泣きべそかく奴。


:どうせ何もできないんだから、他のSランクたちの仕事を増やすなよ。


:おい、俺たちのウタちゃんの実力も知らねぇでくだらんこと書き込むな。


:ウタちゃんは最強だぞ。すごいんだぞ。


:文句があるなら見るな。黙って鬼丸の配信でも見届けてろ。


:信者が出た! どこにでもいるよな、こういう連中。


:相手が若い女だったら誰でもいいんだろ? きめーんだよ。


:ウタが仮面を取ってブッサイクだったら、手のひら返しで意見が変わる連中な。


:うるせぇよ。マジでアンチ連中はいらん。見に来んな。


:ウタちゃん、アホな連中はブロックしてくれんかな……。いつもと違ってなんか雰囲気悪い。


:ウタちゃん、コメントほぼ見てないからな……。


:頑張れ、ウタちゃん。超応援してる!


:あ、猿がいっぱい出てきた!


:こいつら、鬼丸たちも苦戦してたよな。


:Bランクなんてここで死ぬだろ。


:案の定、猿に苦戦。


:あの剣術、なんだ? 斬撃が飛んでる?


:Bランクにしては動きがいいな。この階層の魔物にも負けてない。


:Bランクの適正階層ってせいぜい地下六十五階までだろ? なんで戦えてんの?


:善戦できても、勝てなきゃ意味ねーだろ。諦めて帰ればいいのに。


:馬鹿は痛い目見ないとわかんないんだって。


:馬鹿は痛い目見てもわかんないから馬鹿なんだよ。


:あれ? なんか動きが速くなった?


:なんかアイテムとか使った?


:ウタちゃん頑張れ! 行けるぞ!


:ウタちゃんはやっぱり強い! 最強!


:鬼丸さんパーティーが苦戦したところ、あっさりクリア!


:第一関門突破! そのままいけぇええええ!


:なんだこいつ。Bランクの強さじゃないぞ。


:実力を隠して弱いふりしてます、って? きっしょ。中学生かよ。


:マジうぜぇな、アンチども。素直にウタちゃんの実力を認めろよ。それができないなら消えろよ。



 * * *



「ウタ姫が頑張っているというのに、やれやれ、ですね。世の中って、どうしてこう、他人を見下したり馬鹿にしたりしかできない人がいるんでしょうね? 馬鹿は痛い目を見てもわからないと言いますか、馬鹿は自分が馬鹿であると気付けないから馬鹿なんですよ。ぷんぷんです」



 紅月のダンジョン、地下一階、転移陣の間。


 愛海まなみは自分のスマホで流歌の配信を眺めつつ、呆れて溜息をついてしまう。


 この階では救護班の者たちが待機している他、鬼丸パーティーのチカラもいる。


 チカラも流歌の配信を眺めているのだが、ずっと驚きっぱなしだ。



「な、なぁ、ヒカリ。ウタって、一体何者なんだ? あの猿どもを一人で蹴散らすなんて、並の実力じゃないぞ」



 チカラは実際にあの猿と対戦したことがある故に、流歌の実力を真っ先に認めたようだ。



「うーん……難しい質問ですが、強いていうと、探索狂ってところですかね」


「探索狂……? ダンジョン探索ばっかりしてるってことか?」


「そうですね。ウタ姫は、週に一度かニ度は地上に戻ってきますが、それ以外はずっとダンジョン内で生活しています」


「ダンジョン内で生活? 転移陣があるんだし、ダンジョン内で生活する必要なんてないだろ?」


「必要だからやるんじゃないんです。ウタ姫は、ただダンジョンが大好きだから、ダンジョンから離れたくないんです。もう小学校高学年くらいの頃からずっとそんな感じらしいですよ」


「小学校から? 学校はどうしてたんだ?」


「小中学生のときは欠席ばっかりしてたらしいです。それで、なんかごにょごにょやってどうにか卒業したのだとか。高校にはもう行っていません。大学はもちろん行っていません。けど、義務教育を完全にサボったわけでもなくて、ダンジョン内で勉強はしてたそうです」


「……ダンジョン内で勉強をする意味は?」


「意味なんてないです。ただ、ダンジョンから離れたくなかっただけです」


「……悪い、俺には理解できない」


「でしょうね。わたしにも理解できません」


「……別にダンジョンに長く潜ってたからって、何か恩恵があるわけじゃないだろう?」


「そうですねぇ。長く潜って戦っていれば当然レベルが上ったり技術が身についたりはします。でも、それ以外でスキルに現れる恩恵は何もないようです。ただ……ウタ姫曰く、感覚は鋭くなるらしいです。それが強さにも繋がるようですね」


「……感覚が鋭くなる、か。野生の獣みたいなもんか……?」


「かもしれませんね。まぁ、わたしにも実態はよくわかりません。詳しくはウタ姫に訊いてみてください」


「そうだな……」


「そして、ウタ姫は、地下八十八階程度ではやられません。大丈夫です。安心して見守りましょう」



 愛海は流歌の配信に集中する。


 愛海の愛しい人は、今日もダンジョン内で最高に輝いている。

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