第6話 墓地

「はぁー……今日は休日のつもりでのんびりしてたんですけど、急に呼び出されて、また消息不明者の捜索をすることになりました。ああ、開始そうそう愚痴をこぼしてすみません。人類不適合者の皆さん、こんばんは。万年Bランク探索者にして死体回収人、ウタです。五月二十五日水曜日。消息不明者は三名で、今回は地下六十六階です」



 地下六十六階の転移陣の間にて、流歌は配信用のフェアリーに向かって話しかける。


 現在、流歌はいつもの如く狐の仮面を付けて、髪を黒に戻している。地上での雰囲気とはだいぶ変わっているため、多少は身バレ防止の効果が期待できる。


 ちなみに、流歌はあまり視聴者数を気にしていないが、現在は八十人程度が見にきている。人気のある配信者だと数十万人が同時視聴することもあるため、流歌の視聴者は少ない方。ただ、内容がかなりグロテスクなので、視聴者の少なさに流歌は安心する。



:待ってたよ! またいい映像見せてね! もうウタちゃんの配信だけが生きがい!


:今日はお疲れムードだね。まぁ、消息不明者は急に出てくるものだから仕方ない。


:キャー! ウタ姫最高! そこにいるだけで絵になる女! 今日も素晴らしい活躍を期待してます!


:ねぇ、今日、ダンジョン近くの繁華街でチンピラ探索者をぶっ飛ばしてなかった?



 身バレ防止効果を期待して仮面を付けているわけだが、残念ながらバレるときはバレる。



「……えー、ダンジョン以外で私を見かけたとしても、気づかなかったことにしてください。この配信で、私の地上での様子を書くのも禁止です。即出禁にしますよ」



:失礼しました! 僕は何も見ていません!



「宜しい。では、早速行方不明者の捜索に向かいます。……向かうんですが、地下六十六階なんですよね。憂鬱です」



 流歌はひっそりと溜息をつきながら、外に出る扉を開け放つ。


 扉の向こうには、不気味な夜の世界が広がっている。空は暗く、赤い月が辛うじて地上を照らしている。そして、地上には見渡す限り無数の墓石が並んでいる。まだ流歌の視界には入っていないが、地平線の向こう側には廃墟となった町があるはず。



:出たねー。通称、暗闇の墓地。幻陽のダンジョンって、荒野とか墓地とか、ちょい暗めのフィールド多いよね。


:ここで出てくるのはアンデッド系ばっかり。ゾンビとかミイラとかヴァンパイアとか。


:皆ぼっこぼこにしちゃってくださーい! 死霊払い師ウタ姫!


:ここで死んだ奴、アンデッド化するからグロいよな。もう一度殺せば死体になるんだけど。



「……解説ありがとうございます。私、ホラーとか得意じゃないんで、この階層嫌いなんですよ」



 また溜息をこぼしながら、墓地フィールドに足を踏み入れる。


 途端に、墓から無数の腕が飛び出していくる。誰もいないとただ墓石が並んでいるだけだが、人が入るとゾンビが地上に出てくるのだ。



(こんなホラー演出いらないってのに……。私、ダンジョンは大好きだけど、アンデッド系の階層は嫌い……)



 とりあえず、流歌は腰に帯びた赤い剣を抜く。


 先日も使った、真っ赤な剣身が禍々しい血戦鬼の剣だ。非常に頑丈で切れ味が鋭く、火属性の魔法を付与できる。


 なお、流歌は本来双剣使いで、もう一本腰に帯びているのは、蒼竜の牙という剣。剣身は不安を掻き立てる蒼色で、こちらも丈夫で切れ味が鋭く、氷属性の魔法を付与できる。


 剣の力を使う機会は実のところ多くないのだが、流歌は魔法を使えないため、時折重宝する場面がある。


 今もまさにそう。ゾンビは火属性が苦手なので、今回は血戦鬼の剣に活躍してもらうつもりだ。



「とりあえず、ゾンビを適当に一掃しますね」



 流歌は剣に炎を灯しつつ、剣を横薙ぎに一閃。炎を纏う斬撃が半円状に飛び、ゾンビたちを上下に両断しつつ、灰にしていく。これだけで、周囲にいた数百のゾンビが死に絶える。



:炎の斬撃は男の子の憧れ! 清々しいほどに強力!


:普通の探索者だと入口からつまずくのに、ウタちゃんは強すぎる。


:素敵です! 痺れます! ウタ姫、結婚してください!


詮索せんさくは良くないけど、どんなステータスしてるのか気になるな。



「ステータスとかスキルについては秘密ですよ。普通に公表している探索者もいますけど、私はしません」



 ダンジョン発生以来、人は自身のステータスを確認できるようになった。かなり大雑把なものだが、何もわからないよりは良い。


 流歌のステータスはというと。



 名前:恋泉流歌こいずみるか

 年齢:19

 レベル:87

 戦闘力:91,200

 魔力量:235,000

 スキル:魔力操作、魔力硬質化、身体強化、気配察知

 ユニークスキル:幻想剣術

 装備:血戦鬼の剣、蒼竜の牙、銀幻狐の衣、天駆鳥の靴



 ステータスは、ダンジョン内であればいつでも確認できる。知りたいと思うと勝手に頭に浮かぶのだ。ダンジョン外だと見られないのは不思議だが、そういうものらしい。


 戦闘力はそのまま強さの意味だが、千で割ると、その人が探索できる階層になると言われている。つまり、流歌の場合は、地下九十一階までは行ける、ということ。


 ただ、ギリギリを攻めると死んでしまう可能性も高い。地下九十一階ともなると死体を回収してくれる人もいないので、流歌にとって非常に危険な探索になる。まず間違いなく死なずに帰ってこられる階層としては、地下八十六階辺りになる。


 ユニークスキルというのは、非常に珍しくて強力なスキル、という感じだ。ユニークと言いながら、一人だけが持つものではないらしい。


 そして、幻想剣術は、剣術から想像できる様々な技を実現できる強力なスキルだ。

 

 斬撃を飛ばすことも、剣を巨大化することも、簡単にできる。他にも、魔法を斬ったり、防具を無視して中身だけを斬ったりすることもできてしまう。


 最初にこのユニークスキルを獲得したからこそ、流歌は今のように強くなれた。非常に運が良かったと思っている。


 さておき、炎の剣を振るいながら、流歌は次々とゾンビを屠っていく。



「ある程度片付きましたね。進みましょう」



 周りにはまだゾンビがうじゃうじゃいるが、進行方向のゾンビは少なくなった。


 流歌は駆け出し、あとは必要に応じてゾンビを屠っていく。

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