第69話・これ以上、彼女が傷つくことはありませんように




「ねぇねぇ。さっきから二人で何を話しているの?」




 バーノとの会話に、アンジェリーヌが入り込んでくる。ジネベラらが何を話しているのか気になるらしい。




「トリーフ伯爵子息がお気の毒って話よ」


「二人とも仲が良いのは認めるけど、この場にはレッドさまもいるのだから、四人で話せる話題にしましょうよ」


「ごめんなさい。気をつけるわ」




 アンジェリーヌに、今はカナレッドに王都案内しているのだからと指摘され、素直にジネベラとバーノは謝った。




「そろそろお食事にしましょうか? レッドさまは何か希望あります?」


「そうだね、アンジェ。以前、キャトリンヌさまから聞いたことがあるけど、巨大噴水脇の屋台で売られているパニーニが、とても美味しいと聞いたことがあるよ」 


「じゃあ、パニーニに決まりね。皆で買ってそこのベンチで座ってランチにしましょう」




 二人はいつの間にか愛称で呼び合うほど仲が良くなっていたようだ。それを見てバーノが「早っ」と、呟いていた。




 パニーニとは、パンの表面を焼いたものにレタスやトマト、チーズやハムを挟んだものだ。それを屋台では紙に包んで渡される。それと飲み物も購入し、四人で噴水前広場のベンチに腰掛ける。ベンチには自然と、アンジェリーヌとカナレッド。ジネベラとバーノが肩を並べて座ることになった。




「さあ、王都名物のパニーニ。召し上がれ」


「では遠慮なく」




 紙に包まれたパニーニにかぶりつくカナレッド。その隣で勧めたアンジェリーヌが気恥ずかしそうに口を開けて頬張るのを見て、可愛く思えた。




「ベラ。よそ見してないで。ここにチーズ付いているよ」




 パニーニにかぶりついた時、パンから蕩けたチーズがはみ出していたらしい。バーノに指で拭われてジネベラは恥ずかしくなった。




「ありがとう」




 頬のほてりが感じられる。それを皆に見られるのが恥ずかしく思われて俯いていると、バーノはアンジェリーヌに冷やかされていた。




「バーノはベラのお母さんみたい」


「違うって」




 それを見てカナレッドがクスクス笑う。ジネベラも釣られて笑った。


 楽しい時間はあっという間に過ぎて、夕刻となった。






「今日はありがとう。きみたちのおかげで楽しかったよ」


「レッドさまは、明日には帰国してしまうのですよね? こちらにはまた来る予定はありますか?」


「仕事の関係で、ちょこちょこ顔を出すことになると思うよ」




 カナレッドの言葉に、アンジェリーヌは寂しそうな様子を見せた。




「ではその時、もしも、お時間があったら会ってもらえませんか?」


「もちろん構わないよ。僕はまだこのランメルト国についてあまり良く知らないから、きみが教えてくれたなら嬉しいな」


「はい」




 カナレッドの言葉に顔を輝かせたアンジェリーヌを見て、例のあのクズ王子のことはどうやら吹っ切れたようだとジネベラは感じた。






 アンジェリーヌはずっと、アヴェリーノ殿下に見切りを付けるまで彼の事を想い続けていたのだ。長いこと誤解されて傷ついてきた彼女がこれ以上、傷つくことはないようにと願った。








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