第31話・同性と異性では印象が違うらしい
「バーノってあだ名を付けるのが的確よね。殿下は顔だけ男で、オラースさまは口だけ男。じゃあ、ベヤールさまは?」
「見かけ倒し男」
「見かけ倒しって……。まさかベヤールさまは、剣術は得意では無いとか?」
「いや、本人は強いつもりなのだろうけど、彼と組む周囲が手を抜いているからね」
「手を抜くって?」
「下手に本気でやりあって彼を負かしてしまうと後が煩いのさ。自分は近衛隊長の息子だ。負けるはずが無い。きっと何かズルをしただろうと責めてくる」
「それは厄介ね。素直に負けを認めれば良いのにね」
「まあね」
「でも、それをあの三人組にお熱を上げている女子生徒達が知ったら興醒めかもね」
「殿下達って女子生徒に人気があるのかい?」
「ええ。わたしがいる淑女科ではそうよ」
ジネベラの発言に、バーノは目を丸くした。そんなに驚くようなことだったろうかと思ったジネベラだったが、彼の言葉で逆に驚かされた。
「へぇ。同性と異性では、彼らの印象がだいぶ違うんだな」
「男子生徒達には好かれてないの?」
「まあ、好意をもつ方が少ないかも。あいつらは僕達を常に見下していて、殿下は変にプライドが高いし、オラースは機嫌を損ねると嫌味が激しくなるし、ベヤールはさっき言ったけど、大した実力も無いのに剣術で負けると煩いから、あの三人組は厄介者に思われているよ」
女子生徒達は、彼らの中身を知らないから外見の良さに見惚れてお熱を上げているのかも知れないけど。と、バーノが苦笑した。異性と同性では、同性から見た姿の方が真相に近いと思われた。
──自分の場合は違ったけど。
自虐的な笑いを浮かべたジネベラに思う所があったのか、バーノが頭を撫でてきた。まるで子供相手にするような行為だけど、ジネベラは悪い気はしなかった。それでも同じ年頃の異性に、そんなことをされたのに気恥ずかしさを覚えて話題を変えることにした。先ほどから姿が見えない存在が気になっていたのだ。
「あら、今日はモモちゃんいないの?」
「これから向かうところには連れて行けないから、今日は家でお留守番している」
「そっか」
これから向かう先は洋菓子店だ。王都にあるお店ではペット同行不可の場所が多い。学園も本来はそうだけど、バーノが学園裏の林で瀕死状態に近いモモを見つけたことや、保護の目的で許されたと聞いた。
モモがいずれ独り立ちして学園裏の林に戻るまでの期間限定で、バーノが学園内にモモを連れて来るのを、学園長が特別に許可したらしかった。
「でも、大丈夫なの?」
モモはバーノから基本離れたがらない。いつもバーノの側にいる。それを見てきただけに、モモを他人に預けて来て大丈夫だろうか? と、ジネベラは思った。
「心配はいらないよ。今日はモモの扱いに非常に慣れた人に預けて来たから」
「そう。それならいいけど。モモちゃん、今頃バーノと離れて寂しがっているかも知れないわね」
「そうかなぁ。今日は下僕から離れられて清々しているかもしれないよ」
「まあ、下僕だなんて……。モモちゃんそんなこと考える?」
「あいつは結構腹黒いよ。可愛い顔して誰に媚びを売るべきかもう悟っているからね」
隣に並んだバーノは、ジネベラよりも頭二つ分だけ背が高い。見上げた先の彼の青い瞳は美しく透き通り、上部はうっすらと紫色を帯びている。よく見なければ分からない程度の色の変化。でも、この瞳は、オロール公爵家の血筋を引く者には現れるそうで、実はアンジェリーヌも同じ色を持っている。
気が付けば、宝石のように輝きを放つ瞳に魅入ってしまっていた。
「ベラ?」
呼びかけられて我に返ると、なぜか彼は口元に手を当てて、目を反らしていた。
「バーノ?」
「あ。迎えの馬車が来たよ。あの黒い馬車が僕の家のだよ。帰りは送っていくからね」
これからアンジェリーヌに教えてもらった洋菓子店には、バーノの家の馬車で向かう事になっていた。彼のエスコートで馬車に乗り込むと、早くもベラの頭の中は期待でいっぱいになっていた。
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