第23話・証人
「これは、これは……。皆さま、お揃いでどうなさいました?」
「な、ナーリック医師長?」
玄関先で、アヴェリーノ殿下一行を出迎えたナーリック医師を見て、殿下は目を剥いた。ナーリックは殿下の反応を気にすること無く、これはどういうことなのかと、怪訝そうにバーノを見る。
「爺さん。殿下がねえさんのことをお疑いでね」
ナーリックはバーノとジネベラが、意気揚々と今日のことを計画していたのを側で見ていたのだ。ふて腐れている様子の殿下と、暗い表情をしたアンジェリーヌを見て、失敗に終わったと悟ったらしい。
「殿下、中へどうぞ。年寄り一人ぐらいなのでたいしたお持てなしも出来ませんが」
「……お邪魔する」
アヴェリーノ殿下は、罰が悪そうだった。まさかバーノの祖父が元王宮医師長だったとは思わなかったようだ。
応接間に着くと、この屋敷の主人であるナーリックは、上座の席を王族である殿下に譲り、斜め前の一人掛け用の椅子に腰を下ろした。アンジェリーヌは「一緒に座って」と、ジネベラの手を引き、三人掛け用のソファーに腰を下ろす。ナーリックの隣の、一人掛け用の椅子に腰掛けるかと思われたバーノは、ジネベラ達の座ったソファーの後ろに護衛のように立ち控えた。このころにはモモは、大人しくポケットの中に潜んでいるのが飽きたようで、バーノの肩に乗ってキョロキョロ周囲を見回していた。それを警戒する者は無く、皆が微笑ましく見ていた。
その中で殿下は口を開いた。少し緊張している様子が窺えた。
「貴殿は元王宮医師長だったと、記憶しているが?」
「11年前のことを覚えておいでですか? 殿下は記憶力に優れておいでのようだ」
「母が感謝していた。私が流行病にかかった時に、すぐに治療してもらって助かったと」
「そのようなこともありましたね」
殿下と言葉を交わすナーリック医師は、ジネベラが知る、いつもの近所のお爺ちゃん先生ではなかった。毅然として対応していた。その変化にジネベラは驚かされたが、アンジェリーヌとバーノは驚く様子は無かった。王宮で働いていた時のナーリック医師は、今のような態度で皆に接していたのだろう。
殿下の座る椅子の後ろには近衛兵が二人立っている。後の近衛兵達は、公爵家の護衛達と共にこの部屋のドアの前や、屋敷の内外で待機していた。
「どうして医師長は王宮を去ったのだ? 母も父上も残念がっておいでだった。戻っては来ないのか?」
「殿下はご存じではないのですか?」
問いかけたアヴェリーノ殿下は、ナーリックに聞き返されて「ああ」と頷いたが、その顔には何か事情があるなら教えて欲しいと書いてあった。
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