捻くれ大学生の恋愛観

 今から綴る言葉を未来の俺は嗤ってくれるだろうか。それとも未だにこの恋愛観だろうか。


 できれば前者であることを願っている。


 中学〜大学一回生五月の現在に至るまで、俺は恋と無縁な生活を送っていた。周りにいるのは男友達ばかり。大学の人間には未だに馴染めていない(授業や休み時間を一緒に過ごすだけの仲)ので、高校時代の話をしようと思う。


 その頃、俺の友達は恋を満喫していた。


 告白するorされて付き合ってるやつ、片思いしているやつ、撃沈してしまったやつ。


 そんな中で俺だけが恋をしていないように感じた。


「異性と関わる機会がないから、好きになる以前の問題なんだよな」


 なんて、恋愛話になる度に言い訳をする日々。実際、女子と話す機会なんて授業中や連絡事項の時だけだった。それでも、今の自分が異常だということはよく分かった。


 別に同性が好きというわけではない(俺が異性の話をしないせいで親には同性愛と疑われたことはあるが…)。かといって異性を意識しないわけでもない。性欲だってある。


 ただ、異性に対して「特別な感情」が生まれないだけ。


 この話を聞いて、俺が「異性全員を平等に見ている」と勘違いしないでほしい。俺だって人間なんだから、話しやすい人間と話しづらい人間はいる。


 無言だったり無視してくる相手には話しかけたくもない。逆に愛想が良ければ話しやすいし、優しくされたら喜んで、嫌われないように意識する。極力相手に好かれようと努力もする。


 ──それ、恋じゃね?


 なんて思うだろ?


 だが待ってほしい。それが恋だと言うのなら、嬉しいと同時に悲しくもある。


 だって、そんなもの「友達」と変わらないじゃないか。


 相手を楽しませるために会話を弾ませ、嫌われないように言葉は気をつけ、好かれるための努力をする。


 人間関係構築の基本のようなものだ。同性相手との違いを言えば、少し緊張が増すぐらい。


 俺の場合、その緊張だって『特定の誰か』に対してではなく『異性全般』で体験するものだった。


 先程の気持ちが恋だと言うのなら、俺は誰彼構わず恋をする『浮気者』や『節操なし』になってしまう。(その可能性は捨てきれないが)


 それに、俺が聞いた恋はそんな軽いものではなかった。暇な時には相手を考え、つい視線でその姿を追ってしまい、近付きたいと思う。


 そんな体験を俺はしたことがない。だから俺は今まで恋をしたことがないと言っているのだ。


 ここで今の俺が『恋』をどう考えているか発表しよう。


 それは『依存』である。


 タバコ、お酒、ポルノ、そういったものと同じ依存だと俺は考えた。


 恋をすることで人は快楽物質を手に入れ、より多くの快楽物質を得るために妄想、執着、及び行動する。


 快楽物質の減少で『寂しさ』が増幅し、性欲の増加とともにスキンシップも激しくなる。


 そうしたものを俺は『恋』と考えた。


 では、どうやって恋をするのか。そんなもの分かれば苦労しないが、一つだけ仮設がある。


 それは『緊張や喜びの気持ちを恋だと断定する』こと。


 ある人に対して緊張した、話していて楽しかった、もしかしてこの気持ちって……!


 などと考えるのである。そうして何度も自分の脳に言い聞かせることで、その気持ちを恋だと思う。


 そうすればパブロフの犬同様、その相手を考えて快楽物質をドバドバさせればいい。これで恋に夢中になる人間の完成だ。


 ……言っておいてなんだが、これは短期間だけ試したことがある。


 それは席が近くになった異性に積極的に話しかけるというもの。そうして俺はその子に対して恋をしてみようと思った。


 約一ヶ月ほど掛けた。その間は相手に恋をしているような思わせぶりな行動、発言までしてみた。


 極力その人の良いところを見つけようとした。


 けれどあまり効果は現れなかった。


 別にその相手が嫌いだったわけではないし、話しやすい相手でもあった。外見に関しても良かったと思う。(正直、良し悪しわからないけど)


 初めはすぐに恋できるだろ、なんて悠長に考えていたものの、現実は甘くなかった。三年生の登校日は非常に少ない。


 気付けば高校最後の冬休みになるまで残り八日ほどになっていた。それに席替えの影響で二日ほどその相手との会話の機会も減った。(ちなみに寂しさは感じなかった)


 だから焦った俺は告白をしてみることにした。仮に付き合うことに成功したら、気持ちなんて後で付いてくるだろ。なんて考えながら。


 運良く相手の誕生日が登校日中にあったので、その前日に「用があるから明日、時間を作れないか」とLINEした。


 そのLINEを送る際に強い緊張をしたのを今でも覚えている。「実はこれが恋なのか?」なんて思いながら重たい指を動かした。


 誕生日プレゼントは振られることも想定し、形に残らないものにしようという考えで、スタバカードにした。


 そうして迎えた当日の放課後。二人きりになれる廊下の奥に移動し、告白をした。なんて言ったか正確に覚えてないが、目を合わせて「気付けば好きになっていた」みたいなことを言ったと思う。


「えー、まって、どうしようかな」


 なんて言葉を聞いた瞬間、告白が失敗したことを悟った。前日の二十時頃には返信が来ていたし、放課後になるまで十分すぎるほど時間があった。


 それで告白に応じる選択肢以外が出た時点でお察しだ。そんな考えはおくびにも出さず、静かに返事を待った。


「時間をもらってもいい?」


 なんて言われた時には「キープするつもりか?」と真っ先に思った。それに対し、俺は「できれば今答えを聞きたい」と言った。


 キープされることに対する嫌悪感からの言葉だった。こんな俺にも多少プライドのようなものがあったらしい。


 そうして、あえなく告白は断られた。悲しさはなかった。あー、やっぱりな、なんて考えてた。その後プレゼントを渡し、別れ、それ以降その相手とは話していない。


 話せないと言う方が正しいか。


 告白以降、その相手は俺の視界にすら入らないように立ち回り、極力俺を避けるような行動をした。露骨過ぎる態度に内心苛ついたが、これも告白の代償かと思って受け入れた。


 失恋に対するショックは多分なかった。家に帰ったらいつも通りの日常に戻った。


 そうして残ったのは失恋のショックを感じられなかった事実だけ。そんな俺の恋愛体験(仮)で俺は恋を理解できなかった。


 時間が足りなかったのか、俺が自分を騙しきれなかったのか。


 そもそも、恋は「するもの」ではなく「なるもの」だからか。


 「なるもの」だったらこれまで恋をしたことない俺はどうすればいいんだろうな、なんて考える大学一回生の俺でした。


 未来の俺は嗤ってくれ。

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