第21話ゲーム

 「今度は、僕の番だね。それならはじめは無難にいくね。おにーさんの出身地はどこの国?」


 一瞬ロフォンスの体が跳ねる。ロフォンスが警戒するように表情を向ける。


 「どうしてそんなことを聞くの?もし、良いなら答えてくれない?」


 「うーん。まっ、いいよ。理由はねー、おにーさんの喋り方だよ。明らかになまっているところがあったから気になってたんだ。もちろんそこ以外は完璧だったよ。おおかた、この国にきて結構たってるって感じかなー?」


 「…。そうだよ。俺はフィロニキアの出身。今までばれたこと無かったのにな、ものすごくショックだよ。訛りも無いって自信があったのになー。」


 今までとは打って変わり少し子供のような行動が目立つ。


 「まぁいいや、次は俺の番だね。君のお母様は何者?さっきから様子を見ていたけど君は今お母様と一緒にいないでしょ?それにゼストの出身らしいじゃないか。すごく気になる要素しかないよね。」


 「………。」


 シンは沈黙する。このピンチをどう乗り越えようかと思考する。ゲームを始める前に述べた通りだと噓はついてはいけないが相手にそれを感知する技量はない。だが、あからさまな噓を並べたところで後々苦しくなるのは自分だ。

 シンはやっと重い口を開けた。


 「僕のお母様はゼストの結構位が高い家のお嬢様だったそうだよ。僕も詳しくは知らないけど。」


 シンは嘘を着いた。前半はあながち間違っていないが後半は全くの噓である。シンは自分の母親についてはよく知っていた。たとえ5歳で捨てられていたとしてもシンには記憶があった。それだけではない。シンは産まれてからの見聞きしたものを全て覚えている。


 一瞬の沈黙を挟んだことでロフォンスの表情がシンを疑っている。ここは疑いをはらさなければ…。


 「予想外の質問でビックリだよ。てっきり僕について聞かれるかと思っていたけど、それは僕の思い違いだったみたいだね。補足的な意味で言っておくと、僕は5歳の時に捨てられたからあまりお母様ついて知らないんだ。世間一般では5歳時に自分の出身の細かいことなんて話さないだろうし、話しても理解できないだろうと大人は思っているからねー。大人は気付いてないよね、子供は思っている以上によく話を聞いているって。」


 シンがどこか寂しそうな顔を作る。頭の中では決して悲しいとは思ってもいないのに…。

 ロフォンスは申し訳なさそうな顔をする。うまく騙せたみたいだ。空気を一変してシンが話し始める。


 「今度は、僕の質問。おにーさんはどうしてアラゾキニに来たの?他国から来るってことはそれこそ身分が高いってことでしょ?」


 今度は、ロフォンスが沈黙する。


 「…。父と母の仕事の都合だよ。」


 ロフォンスの目線が左下に落ちる。他にも足を動かしたり呼吸が深くなったりしている。口も少し乾いているようだ。

 

 「おにーさん今、噓着いたでしょ。」


 シンがにらむとロフォンスはなにもないかのように取り繕った。だが、先程よりも汗をかいており拳を固く握っている。シンが発言してから眉が少し上がった。まず普通の人なら騙せたであろう噓。しかし相手はシンである。


 「僕ははじめに言ったよね?嘘を着いたらわかるよって。もしかしてだけど、噓だって思ってた?それともばれっこないって?僕はね噓をつく人が一番嫌いなんだよ。」


 自分は噓をついているのによく言える。とシンの噓に気付いていたら誰でも言えただろう。あいにくだが、シンの嘘に気付けるものなどいない。

 ロフォンスの挙動がおかしくなる。だが、まだ取り繕っているつもりらしい。声が若干震えているが、話し始める。シンに気圧されたのだろう。


 「俺はフィロニキアの子爵の家系に産まれた。いまは没落していて無いけどね。」


 今度は、噓ではないようだ。まだ怒りが収まらないシンは相手の状態を確認せず話を進めさせる。"次は、おまえの番だ"とでも言わんばかりの態度である。空気を読んだロフォンスは質問を始める。


 「俺と君の横の彼とが戦っていたとき君は言ったね?"僕の家族を殺すのを手伝って欲しい"って。どうしてなの?さっき君は自分の母親をあまり知らないと言ったばかりじゃないか。」


 「それなら聞いていたよね。僕は捨てられたって。それが理由じゃダメかなー?」


 「その言い方だと、他にも理由があるように聞こえるんだけどどうなの?」


 「…。ただただ殺したいだけだよ。これを言っても理由としては薄いって言われちゃうかなと思って。どっちでも一緒だったね。」


 「僕は最後の質問だよ。つまりこれでゲームは終り。最後の質問はこの国の王族のことをどう思う?かな。答えによってはおにーさんを殺しちゃうかもね。なーんてね、冗談だよ!アッハ騙された?」


 多少の怒りを覚えつつロフォンスは考える。


 「俺はこの国の王族に一度だけあったことがあるが、外面だけは良い奴らって感じだったよ。つまり、俺たちみたいなひねくれたものにとっては、信用なら無いってわけ。満足いただけた?」


 「もちろんだよ。僕の思ってた通りだ。おにーさんは良い感性してるよ!ほんと、僕の仲間にならない?というかなってよ!おにーさんが望むものは何でもあげるからさ。」


 フンッ ロフォンスが鼻で笑う。そしてニヤッと笑う。


 「そこまで言うなら仕方ないなー。それならこれを用意してよ。」


 そういってロフォンスが取り出したのは紅茶の茶葉の箱だった。中身は入っていないようだが大切にされていたらしい。箱はきれいである。


 「これはね。フィロニキアにしか売っていない茶葉なんだよね。俺はこれがとても好きなんだ。でも、手に入れるのは難しい。そこで、君たちにこれを買ってきて欲しい。そうすれば君たちの仲間になってあげるよ。」


 シンとバキュアは互いに顔を見合わせる。


 『そんなことで良いの か』2人の声が重なる。シンが箱の匂いをかぐ。


 「この匂い、ハイグロウンティーだよね?」


 「よく知ってるね。そうだよ、俺に仲間になって欲しいならこれが一番簡単で確実だよ。どうする?」


 バキュアがシンをうかがう。"おまえの意思に従う"といった具合に。

 

 「わかったよ。約束忘れないでね。」


 「期限を決めよう。そうだなー、明日から10日後でどうかな。手に入れたらまたここに持ってきて。それができたなら俺は晴れて君田にの仲間だよ。待ってるね。」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る