第12話 思わぬ出会い
次の日も特に問題など起きることもなくサムール村へ向けて順調に、旅路を進んでいた。
お昼頃になって、そろそろ昼食を取ろうと馬車を止めると、近くから動物の鳴き声の様なものが聞こえてきた。
念のためとクロヴさんが様子を見に行き、しばらくすると猫の様なものを抱えて戻ってきた。
「ハイドキャットだな。隠密性に優れていて見る機会なんてほとんどないんだが、どうやら怪我をしているらしい」
見てみると確かに後ろ足に切り傷の様なものができている。他にも細かな擦り傷があるところを見ると何かから逃げてきたのかもしれない。
こちらが診ている間もハイドキャットは逃げる様子もなく、大人しくこちらの様子を伺っていた。
危険もなさそうなので、傷薬を取り出して手当を行う。傷口に触れた時には少し痛そうにしたものの暴れることもなく無事に手当を終えることができた。
するとハイドキャットは感謝するかのように「ニャァ」と鳴いた。
そしてその声に反応するかのようにスキルレベルが上がったことが分かる。
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スキル:わらしべ超者Lv4
(解放条件:特定条件下で相手が提供に同意する)
自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。
自分の持ち物と各種サービスを交換してもらうことができる。
手持ちの商品を望む人に出会える。
条件を満たした相手と知識を交換できる。ただし相手からその知識は失われない。
※相手が同意したもののみが対象となる。
交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。
スキル効果により金銭での取引、交換はできない。
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知識の交換?情報を提供して貰えるとかそういうことだろうか?確かに商品の流通状況とか危険な地域の情報とかを知ることができれば便利かもしれない。にしてもこの解放条件の特定条件下ってなんだ?さらに相手が提供に同意するって、どうやって同意して貰うんだ?スキルのことを話せと?条件っていうのも書かれていないし。。
今回も書いていることが曖昧でまったく分からない。まぁ、有用そうな内容だし、どこかで試せる機会も来るかなどと考えていると・・・
『森の奥で見たことない獣に襲われて、何とか逃げてきたんだけど傷が酷くなってここで動けなくなっていたの。本当に助かったわ』
と知らない声が聞こえてきた。目の前ではハイドキャットがニャアニャアと鳴いている。と、そこで気づく。
ハイドキャットの鳴き声が言葉として理解できるようになっている。
「えぇ!?」
「な、なんだ!?何かあったか?」
思わず出た大声に火起こしをしていたクロヴが驚いてこちらを振り向く。
「あ、い、いや、すまない。ちょっと考え事をしていた時にこの子に舐められてビックリしただけなんだ」
「そうか。まぁ何事もないなら良かった」
そういうとクロヴは納得したようで、火おこしを再開した。
『舐めてなんかないけど。まぁ驚くのも仕方ないわね。私もあなたみたいな人に会ったの初めてだし。お礼として私達の言語の交換に同意したんだけどほんとに理解できてるみたいね』
どうやらこのハイドキャットと知識の交換で言語を貰ったらしい。ということは特定条件下というのは相手を助けることか?それとも一定以上の信用を得るとかだろうか。
「あ、あぁ。一応ありがとうでいいのかな。今後君の仲間に会う機会もほぼなさそうだけど」
『そうね。私達の種族は危険な存在には極力近づかないようにしているから。まぁ、私はヘマしちゃったわけだけど。でも、私と話すのには必要でしょう?』
「え?まぁ、そうだな。怪我が治って別れるまでは意思疎通できた方が便利だとは思うけど」
『ん~私としては怪我が治った後も一緒に居たいんだけどダメかしら?』
「怪我が治った後も?でも、君は人間を危険と思っているんだろう?」
『そうね。でも、今回のことであなたのような人が居ることも知ったし、認識を改めたのよ。人族のことを知れば危険な相手も見分けやすくなりそうだしね』
う~ん。俺としては旅の連れが居たほうが楽しそうだしさほど拒否する理由もないのだが、珍しいハイドキャットを捕まえようとする悪意ある人間はいくらでもいそうな気がする。彼女の安全を考えるとここで分かれた方がいいのではないかと思うのだが。
「やっぱり危険じゃないか?君のような珍しい種族を捕まえようとする人間が居るのも本当だし」
『心配してくれてるの?大丈夫よ、なんて今の私じゃ説得力ないかもだけど、身体能力には自信があるの余程の人間でもなければ捕まったりしないわ。それに私たち固有の能力もあるし、ほら』
そういった途端、彼女の存在が目の前から消える。また大声を上げそうになって思わず口元を抑えた俺の前にまたふっと彼女が姿を現す。
『どう?すごいでしょ?これを使っている間は人間に気づかれることなんてないはずよ』
「あぁ、驚いた。見つかるのが珍しいと言われるわけだ。目の前で見てたのに消えたようにしか見えなかったよ」
『ふふん。そうでしょ。だから私のことは心配する必要ないわ。危なそうなら逃げるか隠れるかするから。それでどうかしら?』
「そうだな。君さえ良ければこれからよろしく。俺はアキツグだ」
『えぇ。よろしくねアキツグ。私はロシェッテよ』
「火起こしできたぞっと、ずいぶん懐かれたみたいだな」
「そうみたいです。クロヴさん、しばらくこの子の面倒を見ようかと思うのですが、注意するべきこととかありますかね?」
「連れていくのか?その様子なら大丈夫そうだが・・・そうだな、変なのに目を付けられない様にっていうのは言うまでもないだろうが、街の中まで連れていくなら冒険者ギルドで従魔登録をしないとだな」
「従魔登録?」
「あぁ、自分が従えているという証明みたいなもんだ。それがない場合、殺されても野生の生物を殺したのと同じ扱いで文句も言えなくなる」
「それは確かに必要ですね。他には何かありますか?」
「ん~俺も従魔なんかもったことはないしな。詳しいことはギルドか魔物使いの冒険者に聞いたほうが良いだろうな」
「分かりました。ありがとうございます」
「気にするな。それよりそろそろ昼食を頼めるか。腹が減った」
「すみません。すぐ準備します」
流石にロシェッテと話せることは黙っておくことにした。もしかしたら魔物使いにはそういう能力があったりするのかもしれないが、よほど信頼できる相手でもなければ手の内は隠しておくべきだろう。
『私のことは気にしないで良いわ。適当に話しかけるかもしれないけど、普通の人間に私達の言葉が分からないのは理解しているから』
「分かった。話す必要がある時は言ってくれれば他の人から離れるようにするよ」
こうして思わぬ旅の同行者が1名増えることになった。
とはいえ、ロシェッテはまだ怪我も治っていないのでしばらくは荷台で安静に寝ているだけだ。その後の旅路も特に変わりなく次の野営地まで問題なく到着することができた。
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