第11話 サムール村への旅路

次の日、荷物を準備して1階に降り朝食を用意してくれているリリアさんに今日街を出ることを告げる。


「リリアさん、おはようございます」

「アキツグさん、おはようございます」

「急で申し訳ないのですが、仕事の関係で今日街を出ることになりました。短い間ですがお世話になりました」

「えぇ!?今日ですか?それはまた急な話ですが、仕事なら仕方ないですね。では、残りの宿代をお返ししますね。少々お待ちください」

「いや、それはチップとして取っておいてください。宿のサービスも良かったですし、リリアさんの歌にはそれ以上の価値がありましたから」

「まぁ!ほんとにお上手ですね。それではありがたく頂戴いたしますね」

「えぇ、なので最後の朝食にも期待してます」

「あらあら、それじゃ腕によりをかけて作らないと」


そうして特製の美味しい食事を頂いた俺はリリアさんに別れを告げて、冒険者ギルドに向かった。

冒険者ギルドに入ると昨日言われた通り受付で名前を告げ、お勧めの冒険者を紹介して貰う。


「俺の名はクロヴだ。よろしく頼む」

「旅商人のアキツグです。よろしくお願いします」


クロヴさんは24歳ぐらいで長めの黒髪を後ろで縛っている。

体格は中肉中背で、身長が170センチぐらいある俺より頭1つ分大きい。

一人だけというのが少し意外だったが、ハロルドさんには何か考えがあるのだろうと思い一先ず気にしないことにした。

簡単な自己紹介を終えて、今後の予定についても伝える。

クロヴさんも問題ないという話だったので、さっそく街の入り口近くにある馬車の待機場に向かうことにした。

待機場に着くと昨日見せて貰った馬車が確かに停まっている。荷台には荷物も積み込み済みのようだ。

馬車を受け取り予定通りサムール村へ出発する。街から出る際に検問もあったが特に疑われることもなくすんなり通ることができた。

しばらくは街道をまっすぐ進むだけで危険もなさそうなので、クロヴさんに話を振ってみた。


「クロヴさんは冒険者になってどのくらいなんですか?」

「7年ほどだな。といっても、まだCランクだが」


冒険者ランクは基本A~Fの6段階に分かれている。

Cランクは中堅どころだ。特例としてSランクも存在するが、未曽有の危機を救った英雄クラスへの名誉称号のようなものらしい。


「7年でCランクって早い方じゃないですか?」

「どうだろうな。全体平均でいえば早い方になるだろうが、才能のある奴らは3,4年で越えていくこともあるからな。ほんと羨ましいよ」

「それは確かに。ただありすぎて、危険なラインを踏み越えてしまうなんてこともありそうですけどね」

「まあな。実際有望な新人が格上の敵やダンジョンに挑んで死ぬこともあるみたいだ。ギルドもその辺を考慮して制限や忠告なんかに苦心しているらしい」

「ギルドにとっては死活問題ですからね。私達みたいな商人にとっても護衛してくれる冒険者さんが居なくなったら迂闊に旅なんてできなくなりますし」

「あぁ、アキツグは商人になってどれくらいなんだ?」


聞かれて少し答えに窮する。前の世界では8年ほどになるが、こちらで証明できるものが何もない。とはいえ、まさか数日という訳にもいかないだろう。ある程度正直に答えるしかないか。


「俺は8年ほどですね。実はつい最近まで個人で活動していて、商業ギルドに登録したのは数日前なんですが」

「へぇ、そいつは珍しいな。商業ギルドには詳しくないが、ギルドを通さないと不便なことも多かったんじゃないか?」

「今までは辺境での取引が多くてあまりに気にならなかったんですよ。ちょっとした事情から新しい地域で規模も広げてみようと考えるようになって、この辺に来た感じですね」

「なるほどな。村同士の生産物取引みたいな感じだろうか。俺の故郷でもそういうことしていたな」

「えぇ、そんな感じですね」


その後も野生動物をクロヴさんが追い払った程度で特に危険なこともなく、日が落ちてきたため野営の準備をしようということになった。

ちなみにサムール村へは2日程度で着く予定だ。昼頃に出発したのでもう1日は野営が必要になるだろう。

テントを立てたあとクロヴさんに薪になるものなどを探して貰い、こちらは夕食の準備をする。マジックバッグから材料を取り出し、適当に刻んで鍋に入れる。依頼内容的にすぐには戻れない予想で貰えたのだがこのマジックバッグはすごく便利だ。見た目以上に物が入るのはもちろんだが、取り出すときも取り出したいものを思い浮かべればそれが取り出せるのだ。

原理が全く想像できないが魔法とはそういうものなのだろうと納得しておく。

夕食が出来上がる頃にはクロヴさんも枯れ木などを持って戻ってきていた。


「なかなか旨そうだな。俺は料理は得意じゃないから助かる」

「いえいえ、俺も得意というほどじゃないですよ。まずくはないと思いますが、味が薄かったりしたら言ってください」


そう言って器によそって渡すと彼は早速一口、二口と食べ始めた。


「味付けもちょうど良い。普段は保存食とかで済ませることが多いからしっかりした食事はありがたい」

「他の護衛依頼の時には食事でなかったりするんですか?」

「そうだな。契約次第だが、出なくても不思議ではないな。依頼人が料理できなかったり、食い物に拘らない場合は各自で用意したりすることも多い」

「なるほど。まぁ、野営の時だけならそういう考えもありなんですかね。長旅でそれだと流石に栄養的にも精神的にも辛くなりそうですけど」

「あぁ。長旅ともなれば相応に荷物や人員も増えるから、誰かしら料理担当も居るだろう。戦闘要員の士気にも関わってくる問題だからな」

「それはそうですね」


そんなことを話しながら食事を終える。

あとは寝るだけというところでクロヴさんに気になっていたことを聞いてみる。


「あの、失礼な発言になってしまうと申し訳ないのですが、夜の番お任せしてしまって大丈夫ですか?」

「あぁ、昼に少し仮眠もとらせて貰ったしな。それに・・・」


そういうとクロヴさんはこちらに近づいて声を潜めて続けた。


「気になってるのは例の件についてだろう?詳しくは知らないが、実はもう一人秘密裏についてきている護衛が居る。この辺には夜盗なんかほとんど出ないからな。護衛が多いと怪しまれると考えたんだろう。それに普通の夜盗程度なら俺だけで十分対処できるしな」


そういうことか。確かにハロルドさんから馬車を買った客が無駄に護衛を連れて同じようなタイミングで出発したら、怪しまれるだろう。せっかくハロルドさんが囮になった意味がない。


「分かりました。それじゃ俺は休ませて貰います」

「あぁ、気にせず休んでくれ」


気になっていたことも聞けて安心した俺はテントに入って休むことにした。

その日は襲撃などもなく夜は静かに更けていった。

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