第8話 招かれる客
商業区では様々な人達で賑わっていた。
店の前で客引きをしている店員もいれば、露天を開いている一帯もある。そこへ市民や旅人と思われる人など客もそれぞれに興味を持つところへ向かっている。
客が少ない時は露天の店主同士での雑談も見られる。普段から付き合いのある知人なのかもしれないが、話し掛けるきっかけとしては使えるかもしれない。
そう考えて、比較的空いてそうな露天の店主に話しかけた。
「すみません。少し良いですか?」
「ん?なんだ。お客さんかい?」
「いえ。私は旅の商人なのですが、こちらで露店を開くにはどこかの許可など必要なのでしょうか?」
「あぁ、そういうことか。許可とかは必要ねえよ。この辺は自由に商売することが許されていてな、違法な場所取りや押し売りみたいなことをしない限りは捕まったりすることはねぇ」
「なるほど。そうなんですね。実は昨日この街へ来たばかりで、良ければお隣で色々聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「あ~まぁ、客が居ない時は構わねぇよ。うちはそんなに客も来ねぇしな」
店主は多少ばつが悪そうにそう答えた。
改めて見てみると、売り物は茶碗や壺など様々な陶器を扱っているようだ。
隣で適当に露店の準備をしながら聞いてみる。
「扱っているのは陶器のようですが、もしかしてご自身で作られているんですか?」
「あぁ、元は趣味みたいなもんだがな。せっかく作っても一人で使いきれるもんじゃねぇし、ここで適当に売ってるんだ」
「それはすごいですね。しっかりした品の様に見えるんですが、陶芸歴は結構長いんですか?」
「そうだなぁ、もう12年程度になるか。祖父が陶芸家でな。小さい頃から教えられてたんだが、亡くなった時にその工房を引き継いでな。それからはこうやって日用品をちょくちょく作ってるってわけだ。」
なるほど。元が趣味という割にしっかりして見えたのは祖父の影響と経験によるものだろうか。芸術的なものではないが一般家庭で使うには申し分ない品物だと思う。とはいえ、割れ物である陶器は私には扱いづらいな。。
「なるほど。道理で本格的な物だと思いました。良ければ私に合いそうな茶碗などないでしょうか。できれば旅使いできそうな耐久性があるものだとありがたいのですが」
「旅使いか~ならこの辺のは割れにくい作りにしているからおすすめだぜ」
「ふむ。良いですね。取引はうちの商品と交換でも構いませんか?」
「あぁ、構わねぇぜ」
「ありがとうございます。大切に使いますね」
「おうよ」
受け取った茶碗などをしまっていると、またスキルが上がったらしいことに気づいた。
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スキル:わらしべ超者Lv3
自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。
自分の持ち物と各種サービスを交換してもらうことができる。
手持ちの商品を望む人に出会える。
交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。
スキル効果により金銭での取引、交換はできない。
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商品を望む人に出会える?また曖昧な表現だな。招き猫の様に客を引き寄せてくれるんだろうか?などと考えていると・・・
「すみません。この木彫り細工、これと交換して貰えますか?」
「え?あ、はい。毎度あり」
あらかじめ物々交換希望と立て札を置いていたこともあり、うちの前はほとんどの人が通り過ぎていたのだが、急にお客さんが現れた。
その後もいくつか、商品が売れていき、資産的にはかなり余裕ができた。
木彫り細工もいくつか売れてしまい、慌てて売り先を探す必要もなくなってしまった。
招き猫っていう予想は当たっていたっぽいな。これは便利すぎる・・・が、状況によっては目立ち過ぎて目を付けられるかもしれない。今後店を開くときには気を付けるようにしよう。
「兄ちゃん、今日はありがとな。アンタのおかげでうちも儲かったよ」
「いえいえ、こちらこそ色々教えて頂いて助かりました」
実はうちに来る客が増えた結果、隣で店を開いていた店主の商品にも興味が集まり普段より売り上げが良かったようなのだ。
「おう。じゃ、またな」
「はい。また」
そうして店主さんと別れ、思いのほか商売が上手くいってしまったのもあって日が暮れてきていたので、今日のところはそのまま帰ることにした。
帰り道を歩いていると曲がり角から飛び出してきた少年に軽くぶつかった。
「っと、ごめん。ん?あれ?」
「どうした。大丈夫か?」
「あ、ううん。なんともないよ。それじゃ」
何だか挙動不審な態度だったが、怪我をしている様子でもなかったので、気にしないことにした。
「おかえりなさい。なんだか機嫌が良さそうですね」
宿に帰ると、受付をしていたリリアさんに声を掛けられた。
「えぇ、思いのほか商売が上手くいきまして」
「それは良かったですね。夕食はどうされますか?」
「そうですね。荷物の整理もしたいので1時間後ぐらいでお願いします」
「わかりました」
そうして部屋に戻って荷物の整理をしていたのだが・・・
「あれ?」
ある客との取引で手頃な大きさだった懐中時計をズボンのポケットにしまったはずなのだが、確認すると無くなっていた。
勘違いかと思って道具袋の中も一通り探してみたのだが、やはり無い。
「落としたのか?いや、そんな機会は・・・あっ!」
そこで帰り道に少年とぶつかったのを思い出す。
だが、あの時もよろめいたのは少年だけでこちらはバランスを崩したりもしなかったはず。となると・・・
「盗まれた?」
今朝リリアさんに忠告されたことを思い出す。あの辺にはスリが出ると。
そしてぶつかった時の少年の挙動不審な様子。あれは盗んだのが財布ではなかったことによる動揺ではないだろうか?
幸い?にもスキルの影響で財布を持つ意味がなかったので財布が盗まれることはなかったのだが、偶々ポケットに入れていた懐中時計が盗まれたかもしれない。
被害的には大したことはないのだが、商人として品物を盗まれて泣き寝入りはしたくない。明日はあの少年を探してみるか。
などと考え事をしていたせいで1時間を大分過ぎてしまっていた。
「すみません。遅くなりました」
「いえいえ、大丈夫ですよ。今ご用意しますね」
送れたことを詫びたがリリアさんは気にした様子もなく食事を用意してくれた。
食事を終え自室に戻って明日の予定を考える。闇雲に探しても見つけられる可能性は低いだろう。
そして今日俺が狙われたのは、露店での販売が目立っていたからではないだろうか。
見たこともない人間が急に露店で稼いでいたから狙い目だと思われたのかもしれない。恐らく人の集まりだけ見ていて物々交換の看板には気づいていなかったのだろう。
となれば明日も同様に商売をして稼げれば狙われる可能性もありそうだ。
連続で同じ人間を狙うのは相手も警戒するかもしれないが、こっちが気にもしていないような態度を取っていればカモだと思われるかもしれない。
他に当てもないため、この方法で試してみよう。
そう区切りをつけると今日はもう寝ることにした。
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