第6話 ロンデールの町
夜の番はミルドさんとエリネアさんが交代で行ってくれることになった。
自分もそのくらいは手伝いたいと提案はしてみたのだが、一晩くらいなら問題ないので休んでおいてくれとやんわり断られてしまった。
まぁ、二人からすれば急に増えた人間に任せられないというのは当然かもしれない。ハロルドさんは馬車の中で休むようだ。
俺も焚火の側に厚手の敷物を敷いて寝ることにした。
ミルドさんからテントを使っても良いと言われたがさすがにそこまで甘えるわけにはいかない。幸いにも夜でも寒いというほどにはならなかったので、寝るのに支障はなかった。
次の日、物音で目が覚めるとミルドさんがテントを片付けようとしているところだった。
「おはようございます」
「あぁ、起きたか。おはよう。朝食を食べたら早々に出発しよう」
「分かりました」
見るとハロルドさんも起きていて朝食と思われるパンと飲み物をもってきていた。
そして各自朝食を取るとロンデールに向けて出発する。
道中時間もあったので商業ギルドのことをハロルドさんに聞いてみることにした。
「そういえば、ロンデールには商業ギルドがあると聞いたのですが、ハロルドさんは所属されているんですよね?」
「えぇ、もちろん。ギルドの所属有無の差は大きいですからね。年会費は必要ですが、ギルド所属であれば入国、入町税の軽減やギルドで扱っている商品の融通など色々な恩恵がありますからね。まぁ、私の場合は他国まで仕入れに行くことはあまりありませんが」
「実は俺はまだ所属していないのですが、所属する際にはどのような手続きが必要なのでしょうか?」
「そうだったんですか。なに、難しいことはありませんよ。登録情報の記載と登録金を支払うだけです。年会費についても各町にあるギルドであればどこでも支払いが可能ですし」
ふむ。思ったより手続きは簡単なようだ。だが、まったく審査がないのは大丈夫なのだろうか?
「なるほど。ですが、それだと恩恵目当てに商人以外の人が登録したりもするんじゃないですか?」
「そうですね。ですので、年会費を払う際に実績の確認があるんです。商人ギルドからの依頼やギルドを介した取引など一定の実績がなかった場合は権利を剝奪されて、何らかの理由がないと再登録はできなくなります。
またそういう情報は他のギルドにも連携されるので本人の立場が厳しいものになりますね」
そういうことか。つまり入るのは簡単だけど商人でなければ継続は難しい仕組みになっているわけだ。
その辺は問題ないだろう。出身や経歴などを聞かれたら色々と困るのだが、その心配はしなくて良さそうだ。
「確かに、それなら商人でないと所属するのは難しそうですね。実は少し事情があって今までは所属していなかったのですが、最近その問題が解決しまして。機会があれば加入したいと考えていたんですよ」
「それはちょうど良かったですね。ロンデールに着いたら商人ギルドまでご案内しましょう。詳しいことは受付の方に聞くと良いですよ」
「ありがとうございます」
その後もギルドやハロルドさんの商売についてなど色々聞いているうちにロンデールの町に到着した。
町に入るには検問を通る必要があったが、ハロルドさんと一緒だったことと商人ギルドに登録して身分証を作ることを条件に町に入ることは許可された。ただ・・・
「入町税は20リムだ」
「あ~っと・・・これでよいでしょうか?」
「ん?あぁ、いいだろう」
よ、よかった。リブネントで仕入れた農作物で問題なく支払えた。
スキルのおかげで違和感は持たれていないようだが、この後渡した農作物はどう処理されるんだろう?
気にはなったが変に突っついて怪しまれては困るので忘れることにした。
町には活気が溢れていた。人通りも多い。道は中央までまっすぐ伸びており、その先は広場になっているようだった。
その後はハロルドさんの案内で商人ギルドまで問題なく着くことができた。
「ハロルドさん、ミルドさん、エリネアさん、急な依頼にも拘らずここまで同行させていただき本当にありがとうございました」
「気にしないでください。道中色々お話しできて楽しかったですよ。また何かあればご連絡ください。店の者には話を通しておきますので」
「私達も今はこの町を拠点に活動しているからまた会う機会もあるだろう。何かあれば冒険者ギルドに言付けしてくれ」
「はい。また機会があればぜひ」
そうして3人と別れ商人ギルドに向かった。
「いらっしゃいませ。初めての方でしょうか?」
「はい。ギルドへの登録をお願いしたいのですが」
「承知いたしました。先に確認しますが、ギルドに加入するには年会費と毎年活動実績の確認が必要になります。活動実績が認められないまたは犯罪歴などがあると除名処分となります。問題ないでしょうか?」
「はい」
「では、こちらの申請書にご記入をお願いいたします」
そう言って一枚の用紙を渡される。
申請書には氏名、主な活動地域、過去の活動実績、出身地、他ギルドへの登録有無などの項目があった。
「あの、これらはすべて記入が必要なのでしょうか?」
「あぁ、いえ氏名以外は可能な範囲で構いませんよ。記載頂ければ何かあった時にご家族に連絡したり、他ギルドとの情報共有してサポートがしやすくなったりできるという程度のものですので」
「なるほど。分かりました」
残念ながら俺にはこの世界での実績も家族も居ない。最低限必要な個所だけを記載して年会費相当になるような宝石と一緒に提出する。
「これでお願いします」
「はい、承りました。それでは手続きして参りますので、少々お待ちください。」
宝石については問題なく受理された。商人ギルドであれば扱い様もあるだろうと思ったが予想通りだったようだ。
そうしてしばらくすると1枚のプレートの様なものを持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが商人ギルドの身分証になります。再発行には手数料がかかりますので、無くさないようご注意ください」
その後、いくつかギルド員としての諸注意などの説明を受けて手続きは完了した。
「お疲れさまでした。あちらに商人ギルドで扱っている商品もありますので、よろしければご覧ください。ギルド員であれば多少の割引もしておりますよ」
「ありがとうございました」
せっかくなのでどんなものがあるのか見に行ってみるか。
受付とは離れた場所にある販売エリアには他の地域で生産されたであろう道具や長期保存が可能な食糧、香辛料、そのほか生活物資や嗜好品など様々なものを扱っていた。
恐らくはここで仕入れた商品を各村へ売りに行く商人もいるのだろう。
値段も手頃なものだったので、嵩張らないようなものをいくつか仕入れることにした。
ここでも取引はこちらにかなり有利なレートで取引できた。スキルの恩恵はかなり大きい気がする。
(これからもずっとこんな感じだと商人としての感覚が狂いそうだな・・・)
初対面の人間でさえこれなのだから、好感度の高い人物との取引だとどうなるのだろうか?ハロルドさんで試せれば良かったのだが、商人に理由もなく商品取引を持ち掛けるというのもな・・・。他に親しい人も居ないし、こちらの確認はしばらく先になりそうだ。
一先ずの目的は達成できた。時間も夕方に差し掛かってきたのでまずは今日の宿を探すべきか。
「あの、この辺で良い宿屋はありませんか?」
「そうですね。それならここを出て左にしばらく行った先に『夜の調べ』という宿屋がありますよ。値段も手頃ですし評判も良いようです」
「ありがとうございます。行ってみます」
教えてくれた売り子さんに礼を告げて、商人ギルドを出た。
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