第5話 野営

村の入り口に着くとエリネアさんが一人で待っていた。


(う~ん。口数も少ないし3人の中で一番話し掛け辛いんだよな。)


とはいえ無視するわけにもいかない。

「お待たせしてすみません。他のお二人は?」

「・・・いえ、二人はまだ支度中です。もうそろそろ来ると思います」

「そうでしたか。そういえばミルドさんとエリネアさんはチームで活動されてるんですか?」

「・・・えぇ」


一応答えてはくれるが、目はそらされているし避けられている気がする。呼び方などからそうかなと思ったが、やはり二人はチームで活動しているようだ。

そして会話が途切れる。


(エリネアさんも話し掛けられたくないみたいだしおとなしく待つか)


少しするとハロルドさんとミルドさんが戻ってきた。


「いや~すみません。ついいつもの調子で話していたら遅くなってしまいました」

「いえいえ、お気になさらず」


そうして、4人でロンデールに向けて出発したのだった。

出発してしばらくは平和そのもので特に何かに出会うこともなく順調に進んでいた。


「リブネントに来るときもこの街道を通られたんですよね?危険な動物に遭遇したりはしましたか?」

「いえ、この辺では滅多に会うことはありませんよ。森の奥に行けば話は別でしょうが、街道にでて何かすれば狩られることは向こうも理解しているんでしょうね」

「そうですか。安心しました」

「ははっ。仮に出てきてもミルドさんとエリネアさんなら問題なく対処してくれます。お二人とも優秀な冒険者ですから」

「あまり煽てないでくれ。俺たちはまだCランクだ。」

「いえいえ、その歳でCランクは十分優秀ですよ。本来ならこんな危険の少ない街道の護衛を依頼するべきではないのでしょうが・・・」

「前にも言ったが気にしないでくれ。あなたは命の恩人だ。護衛料も十分な額を貰えているし問題はない」

「と、こんな感じでしてね。私としても信頼のおける人間に護衛して貰いたいというのもあってついつい甘えてしまっているんですよ」


なるほど。これまでのやり取りでこの3人には何か連帯感の様なものを感じていたが、そういう理由があったのか。

ミルドさんが言ったCランクというのは冒険者ギルドのランクのことだろう。A~FランクまでありAが一番高いらしい。Cランクということは中堅の上の方くらいになるのだろうか。


「命の恩人ですか。ちなみに何があったのかお聞きしても?」


ハロルドさんがちらっと二人の方を見るとミルドさんが答えた。


「ある地域で盗賊に襲われたことがあってな。盗賊自体は返り討ちにできたのだが、俺達も重傷を受けて危険な状態だったんだ。

そこにちょうど通りかかったのがこの人で、馬車が汚れるのも構わずに俺達を町の医者の所まで連れて行ってくれたんだ。おかげで後遺症もなく冒険者を続けられている」

「いやいや、あの状況で見捨てる人なんてそうそう居ないでしょう」

「そんなことはない。自分の利益にならなければ見なかった振りをする人間はいくらでもいる」

「そうですかねぇ」


ハロルドさんはそう言って首を捻っている。商人であれば悪徳な輩と関わる機会もありそうだが、周囲の人間関係に恵まれたのだろう。

俺はどちらかと言えばミルドさんの意見に賛成だった。

その後も雑談をしながら街道を進む。そして日が傾き始めた頃、道の先が2つに分かれていた。確かロンデールはここを東だったか。

東に折れて少ししてからミルドさんが口を開いた。


「この先に少し広場になっているところがある。今夜はそこで野営にしよう」

「分かりました。」


反対する理由もないので同意する。

しばらく歩くと言っていた通り広場のような場所が見えた。

焚火の跡があるので行きもここで野営したのだろう。


広場に着くと3人は早速野営の準備を始めた。

各自の役割を決めているのだろう。その動きには無駄がなかった。

ミルドさんはテントの設営や焚火周りの片づけ、ハロルドさんは馬車に戻って、食料などを取ってきている。エリネアさんは一人で森へ入っていった。


(早々と動かれてしまったので特に手伝えることもなさそうだな。エリネアさんは薪を拾いに行ったのかな?一応聞いてみて、何もなければ俺もそうするか。多くて困ることもないだろうし)


「ミルドさん、何か手伝えることはありますか?なさそうなら薪でも拾ってこようかと思いますが」

「あぁ、こっちは大丈夫だ。薪の方を頼めるか。エリネアが行っているので危険はないと思うが、一応気を付けてくれ」

「分かりました」


そう返して森の中に入っていく。

流石にまた急に襲われるのは勘弁なので、なるべく周囲に気を付けながら薪になりそうな気の枝などを集めていく。

そうしているとふと先の方から動物の声の様なものが聞こえた。

見つかる前に戻るべきかと思ったが、この先にはエリネアさんが向かっていたはずだ。問題ないとは思うが、万が一怪我などしたところを見つかったらまずいかもしれないと考え慎重に様子を見に行くことにする。

近づくうちにその声は悲鳴のようなものだと分かったが、それもすぐ聞こえなくなった。漸く着いた先で見たのは倒れた動物とそれを解体しているエリネアさんだった。

どうやらエリネアさんは食料調達もしていたらしい。

近くには集められた薪も置いてあった。

っと、こちらに気づいたエリネアさんと目が合った。


「・・・アキツグさん?・・・薪を拾われていたのですか。この辺は少々危険なので早く戻られたほうが良いです」

「えぇ、動物の声が聞こえたので念のため様子を見に。要らぬ心配でしたね」

「私の心配を?ありがとうございます。でも、大丈夫です。慣れていますから」


一瞬驚いたようにこちらを見たが、またすぐに目をそらしてそう返される。


(余計な事を言ったかな・・・)


よく考えれば素人に心配されるなんてプライドを傷つける行為だろう。怒らせてしまったかもしれない。


「そうですよね。すみません。あ、その薪も一緒に持っていきますね」

「あ・・・はい。ありがとうございます」


これ以上機嫌を損ねるのは良くないだろうと思い、彼女が集めた薪を持って早々に戻ることにした。


夕食はエリネアさんが仕留めたヒールボアの肉とハロルドさんが用意したスープで野外にしては豪勢な食事になった。

ヒールボアは鼻が一部の貴族が好むヒールと呼ばれる靴のような形状をしている。鼻は頑丈で突進して体当たりで獲物を仕留める動物だ。

肉は身が引き締まってて歯ごたえがあり、美味しかった。


「この辺でヒールボアに会えたのは運が良かったな。普段は山菜か一角ウサギくらいなんだが」

「そうですな。エリネアさんの下処理も良かったんでしょう。雑味もありませんし、本当に美味しいですね」

「・・・いえ、そんな。ハロルドさんに頂いたスープもとても美味しいです」

「それは良かった」

「そういえば、アキツグさんは森の中でエリネアに会ったそうですね。心配して様子を見に来てくれたと嬉しそうにしてましたよ」

「え?」

「あっ、ちょっ、ち、違います!護衛対象を危険なところまで近づけてしまったので今後注意するように報告しただけです」


初めてエリネアさんがすごく慌てた感じで、訂正するようにミルドさんの言葉を否定した。


「あぁ、そういえば。実はエリネアは人見知りで、人と話すのが苦手なんですよ。もし態度で気を悪くされていたら申し訳ない」

「あ、あぁいえ。そんなことはありません。質問した時も丁寧に答えて頂きましたし」


エリネアさんはちらっとこちらを見ると、少しほっとしたような感じで食事に戻った。


(なるほど。嫌われていたわけではなかったのか。)


理由が分かってこちらもほっとした気分だった。

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