第426話 戴冠式

 戴冠式直前。

 僕、そしてフェリシアーナ様、フローレンスさん、エリザリーナ様、レザミリアーナ様、バイオレットさんは、王城内のとある一室の中に居た。


「いよいよだね」

「あぁ。この後で行われる戴冠式を終えれば、ロッドエルは正式に王となり、私たちは王妃となる」

「王妃様、ですか……少し前まで自分がそのような立場になると考えたことは一度もありませんでしたが、人生というのは何が起きるかわからないものですね────もっとも、王妃様という立場自体では無く、ルクス様と結ばれたのだということがこの上無い幸せなのですが」

「そうですね」


 バイオレットさんが、フローレンスさんの言葉に頷いて言うと。

 次に、フェリシアーナ様が僕に話しかけてきた。


「ルクスくん。戴冠式という場は、王の中でも指折りで大きな催し事だけれど、緊張とかは大丈夫かしら?」

「緊張、は……していないと言ったら嘘になります。ですけど、戴冠式に────いえ。これからの未来に、不安は何もありません。もちろん、色々と難しいことはたくさんあると思いますけど……皆さんとなら、この国を幸せな国に導けるという確信があるんです」

「っ……!ルクスくん……」

「ルクス様……」

「ルクス……」

「ロッドエル……」

「ロッドエル様……」


 皆さんが、同時に僕の名前を呟いた後。

 フェリシアーナ様が、僕に優しく微笑みかけてくださりながら言った。


「えぇ、私も……ルクスくんとなら、そうできるという確信があるわ。そしてその確信を現実のものにするためにも、私はこれからもルクスくんのことを傍で支え、それとは別にも、これからはたくさん愛していくわね」

「フェリシアーナ様……ありがとうございます!僕も、フェリシアーナ様のことを愛していきます!」


 それから。

 僕は、フェリシアーナ様に続いて僕への愛を伝えてくださる皆さんと、愛を伝え合って過ごすと。

 いよいよ戴冠式の時間になったため、玉座の間の扉前まで向かった。

 そして、兵士の人たちが扉を開いてくださると。

 僕は、その手に王冠を持っているフェリシアーナ様のことを含めた皆さんのことを後ろに連れて、玉座の間の中へと入る。


 そのままレッドカーペットの上を歩き、玉座の前まで来ると。

 僕は反転して、玉座の間に居る人たちと向かい合う。

 レッドカーペットを挟んで左側には貴族の方たちが、右側には平民の方が居た。

 昨日も仰られていたことだけど、エリザリーナ様たちは僕の要望通りにしてくださったみたいだ。

 僕はそのことに改めて感謝の念を抱くも、だからこそ応えないといけないため。

 皆さんが僕の後ろに控えるように立った直後、早速口を開いて言った。


「皆さん。今日は、この場に集まってくださりありがとうございます……僕が、今後ろに居る方々と結ばれ、この国の新たな王様になるルクス・ロッドエルです」

「……」


 疑念や期待。

 様々な視線が、僕に向けられている。


「僕はこの国を、この国に住まう全員が幸せになれる国にしたいと思っています。ここで言う全員というのは、貴族、平民といった地位の分けへだてが無い、本当に全員のことです」


 今まで、この玉座の間で行われる戴冠式の場に、平民の方が呼ばれたことは無かったそうだけど。

 僕が平民の方も招くようお願いしたのは、この考えがあるからだ。


「そんなことは不可能だと思う方も居ると思いますし、僕一人では到底そんなことは実現できません」


 ですけど、と続けて。

 僕は手を広げると、後ろに居る皆さんの方に向けて。


「僕一人だけで無く、僕を愛し支えてくださろうとしている皆さんとなら────そして、ここに居る貴族の方や平民の方を含めた、この国に住まう人たち全員でそんな国を目指せば、実現できると信じています!」


 人々の視線にあった疑念や怪訝といった感情が、少しずつ無くなっていき。

 その目には、期待と希望といった感情が宿っていく。


「なのでどうか、そんな国の実現のために皆さんの力を、そしてどうかこれから幸せになってください!この国に住まう人たちお一人お一人が幸せになってくだされば、今話した僕の願う国の実現が少しでも近付きます!僕はこれからこの国の王様として、皆さんに幸せになっていただくことが自分の仕事だという信念のもと、全力で皆さんの幸せを支えさせていただきます!一緒に、幸せな国を創っていきましょう」


 僕が王様になる上での、全ての気持ちを伝え終えると────この場に居る貴族、平民の方問わず、全員がその目に希望を宿して僕に拍手を送ってくださった。

 すると、後ろから王冠を手に持ったフェリシアーナ様が僕の隣まで歩いてくる。

 僕は、そのフェリシアーナ様と向かい合うと────。


 拍手に包まれながら頭に王冠を乗せてもらい、戴冠式は終了した。

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