87 立場があるって大変だね
今、私は王宮の庭園で、二人の麗しき淑女に見つめられながらお茶とお菓子を囲んでいます。
どうしてこうなった!?
「まぁまぁまぁまぁ、よくいらっしゃいましたわね! カミーユから話に聞いていた以上にかわいらしいお嬢様だわ!」
「ふふ、そうでしょう? レティならそう言うと思っていましたわ」
ママが王族相手でも発言権を持っている理由がよーくわかりました。
レティと呼ばれた黒髪の淑女は、なんとこの国の王妃であるレティシア様。ママとは幼い頃からの親友なのだとか。
二人がどんな関係で、どういった立ち位置なのかは会話を聞いているだけで理解できた。
主に夫(国王とベル先生)への愚痴という名の惚気話で。
ベル先生がママにベタ惚れなのは知っていたけど、まさか国王夫妻までそんな感じだったとは。
仲がよろしくて何よりだよ。国王夫妻が仲良しなのは国のためにも良きこと……。
ただ、どちらも妻のほうが精神的に強いという。
夫たちは愛する妻に嫌われたくないので、基本的になんでも言うことを聞いてしまうというわけだ。
私のループ話を親友であるレティシア様がなんの疑いもなく信じたのだから王様も信じるよね、なるほど。
でも……レティシア様はどうしてそんなにすぐに信じてくれたんだろう。私がヴィヴァンハウス出身だってことも知っているだろうに。
ただの孤児がループに巻き込まれているだなんて話、普通は聞いてくれないよね。
「あら? 熱い視線ね。どうしたのかしら、ルージュ」
「はっ、ご、ごめんなさい、ジッと見てしまって」
「いいのよ、いいのよ。緊張してしまうわよねぇ? 王妃とお茶なんて。知り合いのおばさんだと思って気軽に接してちょうだい」
それはさすがに無理です!!
というか、おばさんだなんてとても思えないくらい若々しいしお美しいんだからっ!!
私がはわわ、と返答に困っていると、ママが助け舟を出してくれた。
「レティったら、意地悪ね? ルージュがそんなことできないってわかっているのでしょう?」
「バレてしまった? ふふ、ごめんなさいね、ルージュ。ただ私もかわいい女の子と仲良くしたかっただけなの」
ふー、助かった。でも王妃様にそんな風に言われちゃったら変にかしこまるのもよくない気がするよね。
王妃様のふわりとした微笑みは、温かな陽だまりの中にいるみたいな感覚になった。
「よかったら、レティと呼んでくださる?」
「はい、喜んで。よろしくお願いします、レティ様」
「ええ、よろしくね。ルージュ」
本当に嬉しそうに笑ってくれるので、心がぽかぽかだ。
この国って、王族までいい人だなんて知らなかったな。私はとてもいい国に生まれていたんだ。
ループ人生を送っていなかったら気づかなかったことだ。
だからこそ、魔王の脅威があるのが悔しくてたまらない。このまま何もしなかったら、人類は必死の抵抗も虚しく滅びてしまう可能性が高いなんて。
いやいや、そうならないためにがんばるんだから。悲観的になっちゃダメだね。
「あとで陛下にも顔を見せてもらいたいの。威厳は引っ込めておくように言ってあるから、気軽にね」
威厳を引っ込めるって。レティ様なりの気遣いなのだろうけど、斜め上すぎる。
王様に会うなんて吐きそうなくらい緊張していたけど、うっかり笑っちゃった。レティ様の手腕、お見事。
それよりも、結局どうしてここに来ることになったのかわかっていないんだよね。
どうして私が王様に会う流れに? 私のループ事情だって全部報告済みなら私が会う必要なんてないよね?
「あのぉ、どうして私はここにいるんでしょうか……? 王様にも会わなきゃだめ、ですか?」
「会いたくなかった? それはそうよねぇ。着替えとか準備とか色々と面倒だし、緊張もするでしょうし……」
「い、いやっ、そうではなく! ただ、理由がわからなくて」
どちらかというと王様のほうが私みたいな不審な子どもには会いたくないんじゃないかと思うんだけど。……面倒なのは、まぁ、否定はしないけれども。
レティ様は冗談よ、とコロコロ笑うと、今度は穏やかに笑みを浮かべてから静かに語り始めた。
「一国の王が国の、いえ。世界の運命が決まる戦いに巻き込まれてしまった貴女に会ったことがないだなんて、おかしな話でしょう」
え、あ。私って、そういう扱いになるんだ?
客観的に自分がどう見えているのかなんて考えたこともなかったけど……そっか。
普通に考えて、これから起こる厄災を知っている存在なんていない。それも、阻止しようと動いているんだもん。ある意味で救世主と言えなくもない。
いくら魔力が多くて魔法が器用に使えると言っても、私の力はちっぽけなものだ。それだけで魔王の復活を止めることはできないし、ましてや倒すことなんて無理。
ただ、魔王討伐を成功させる策を持っているだけ。でもそれがとても大事で、重要なんだ。
「運命か偶然かはわからないけれど、ルージュは巻き込まれてしまった。その上でループを繰り返し、世界のために動こうとしてくれている……そんな貴女の努力や覚悟に、私たちは報いなければならないのよ」
「報いるって……どういうこと?」
「そうね……ルージュの後ろ盾となるだとか、爵位を与えるとか」
「わ、私、まだ子どもなのですが!」
「そうなのよ〜。残念よね。エルファレス家というこれ以上ない後ろ盾もすでにあるし。先を越された気分よ。けれど、討伐が成されたら貴女個人に土地の一つや二つは与えられると思うわ。あとは爵位かしらねぇ」
むしろ、何か与えないと王の立つ瀬がない、みたいな感じか。
うへぇ、平民にはよくわからないシステムだ。土地も爵位もいらないんだけど、そういうわけにもいかないのかなぁ。
「王族って、大変なんだね……」
うっかりぽつりと零してしまった言葉を聞いて、レティ様は声を上げて笑い出した。
あっ、咳き込んでる。そんなに!?
「うふふっ、本当に面白い子ね。そうなの。大変なのよ」
「ご、ごめんなさい。変な言い方しちゃったみたいで……」
「いいのよ。貴女にはそのままでいてほしいわ。何度も辛い思いをしてきたでしょうに……飾らず、素直で……ぐすっ」
「レティ様!?」
「ごめんなさいね。私、弱いのよ~。子どもが辛い目に遭うとかそういうの~」
笑ったり泣いたり忙しい人だ。感受性が豊かなのかも。
ママも困った子ね、と言いながら笑っているし、いつのもことなのだろうな。
ああ、私レティ様のことも好きになっちゃったな。この調子で王様のことも好きになれるといいんだけど。ふぅ、緊張どっかいけー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます