第8話 入学試験

例の買い物の日から一ヶ月後の十二月十五日。



今日は、待ちに待った入学試験の日だ。


皆が学園の構堂に集まりひしめき合っている中、やけに煌びやかな、およそ貴族の子供だろうって人や、いかにも魔法が得意そうな出立ちの人、隅で本を読みふけっている人、皆が杖を片手に立っている状況。


今にも戦闘が始まりそうな雰囲気が漂っている。


、、そして僕は今、非常に感動している!


、、なんてったってこの沢山の杖!全部がかっこいい!


、、僕から右の人の杖は見ただけで目が焼けそうなほど盛んな炎の杖、貴族の人はどの杖を見ても魔力量が多い人の為の杖、目の前の人の杖なんて、見たこともない生物の肝を捩れた金属で串刺しにしているような杖だ!ある人の杖は何故か三本にブレて見えるし、その隣の人は杖がバラバラになって浮遊してるし。



「こんな強そうな人達と僕は競うのか、、、」



今年の入学志願者は五千人弱、そのうち入学できるのはたったの百人。

そしてこの五十分の一を選び取る唯一のルールは、強く在ること。

方法は、魔法生物の棲家の森で百人になるまで残ること。ただし、人間の殺害は禁止。


つまりは、バトルロワイヤルである。




「皆よ、静粛に!」


辺りが一瞬で静まり返る程の大音声。



「わしはこの学園の学長、イカルザ・スカラーである。わしから見て左に補助官としてルイス・シモンズ先生、そして同じく右にエリス・フィストル先生じゃ。」


「「皆さんよろしくお願い致します」」



「本日よりの入学試験はわしを含めた三人にて行う。入学試験中には補助官二人が監督役として皆を評価、監視することを留意して頂きたい。」



「質問は、、、ないようじゃな?ではこれより皆を試験会場へ転送し、、試験、開始とする。」



気付くと補助官の二人がいなくなっていた。次々に志願者も消えていく。そして僕も、、、



一瞬視界が上下に引き伸ばされた後、目の前の景色が切り替わった。




、、周りに他の人はいなさそうだ。


しかし鬱蒼とした樹々の音が、どうにも敵を見つけにくくしている。


他の志願者が近くにいるかもしれない不安に駆られ、懐から杖を取り出して一ヶ月間の訓練を思い出す。



、、僕はこの一ヶ月間、例の杖を使いこなせるようにトレーニングし続けたんだ。森ゴブリンの棲家でひたすらゴブリン相手に闘う毎日。あの辛さに比べればどうってことないだろう。




「よし、きっと大丈夫だ。」


そう心に決めてひたすら樹々の間に注意を向けるが、まだ他の人は見かけない。


ふと、風が強く吹き始め、樹々の間を素早く吹き抜けていく。


森の葉が一層ざわめく。



、、くっそ。風が強いな、、、。



キンッ


「っち、こいつも金属製の杖かよ」


一体全体何が起きたんだ。


「お前、今何が起きたか分かんなかっただろ。お前みたいな弱っちい奴はさっさと降参した方がいいと思うけどねぇ、俺は既に、二人の志願者を落としてる。勝負、するか?」


、、っち!どいつもこいつも金属製ばっかり使いやがって。だがこれで三人目だ。順調といえば順調だろ。


俺の高速移動に着いてこれる奴はそうそういねぇ。なんてったって俺は風の魔法使い、カザルア・ウィンドール、名門ウィンドール家の長男で将来有望、無言実行だ。




、、まさかあの一瞬で、、、僕の杖を攻撃していたのか?


僕には見えなかったが何が原因なんだ?


あいつの魔法はなんだ?



「僕の杖は折れない。良いのか?」


あえての挑発。


互いが正面に向かい合う。



、、よし。あいつの杖は見えた。あとはどう対応するかだ。


、、なんだあの赤い金属の棒は。火魔法か?そう考える他ないだろうな。



「ウィンドサーフ!」


、、これは俺が編み出した、風と同速で移動できる魔法。


俺が風を起こし、それに同化して移動できるのは、俺の魔力が極度の風寄りだからだ。


つまり、俺しか使えないし、何をしたかもわからねぇ。最強だ。



「音魔法、ソニックブーム!」


パァン!


パァン!


、、これが僕の習得した魔法その一、ソニックブーム。


やり方は単純。杖を持った腕をなるべく速く振る。のみ。僕の杖が教えてくれたのだ。




、、、

、、、は??




、、あいつあの赤い金属の棒を高速で振って音速を超えたのか?


鞭でも無いのに?いや俺も自分で言ってて意味わからんが?


魔法じゃないだろ。それは。それだけは。音魔法、、、とは?




、、対峙した瞬間、あの人の杖は風魔法だったはずだ。


僕があの人を見れなかったのは、あの人が風と同速で移動していたからで間違いないだろう。


人間の動体視力には限界があるからね。



パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!、、、、、、




、、っつ、、、どうしても俺の風がソニックブームの表面を滑ってあいつから逸れちまう。


一旦止まるしかないかッ、、




、、僕はあいつが止まった瞬間、杖を球体に戻して全力で投げる。


杖から教えてもらった魔法そのニ、


「音魔法、ソニックスロウ!」


これもやり方は単純。音がするように全力で投げる。




、、、、

、、、、は???


、、嘘だろ?




パァァン!!



、、くっそ。あいつどんな身体能力してんだよ、普通杖全力で振って音速越えるか?無理だろ。



ドスッ



彼のみぞおちに当たった赤い金属の球は、彼の骨を五本ほど粉々にした。



バタッ。


戦闘不能、再起不能である。



「うわっ、なんかくさぁ、、、」


「風の霊よ、風の流れを変えよ、、、」




ここでちゃんとした魔法を使うのが、プラムという男なのである。




この一部始終を見ていた志願者は、もれなく漏らして退散した。


全く以って正解と言えるだろう。

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