互いの歩調を再認識して。

心から湧き上がる感情やその場の空気感というものは、実際、手に取って眺められるものではないですが、この作品を読んでいると、感情の色彩が見えますし、固かったり柔らかかったりする心の感触を、触って確かめているような感覚になります。

氷の冷たい音、コーヒーの苦味、広すぎるスタジオ、夜道に光るスマホ、歌詞を書いたルーズリーフ、掻き鳴らすギターの音……書き始めればキリがありませんが、そうした物的な感触が心情描写として転写され、しみじみと読む人の胸に響いてきます。
当世、このように丹念に心情の描かれた作品を、このような場所でお読みできるのは貴重なことと思います。
読後、何だか私の心も柔らかく豊かになったような気がします。

ダイチ君のように、音楽のみならず生きること全般に勘のいい人が相方だと、どうしても越えられない壁を感じてしまって、焦燥感や孤独感がうまれるものですよね。
私達はなぜか将来を悲観して、『この人はそう遠くない未来に自分の元から離れていくのかもしれない……』と、つい思いがちですが、今回の他バンドからの誘いの件を経て、お互いの歩調を改めて確かめ合い、『やっぱりこの人じゃないと駄目なんだ』という結論に至るストーリー展開には、清々しい感動を覚えました。

ああ、本当に読んでよかったな、と心から思える作品だと思いました。

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アイラブユー