第10話
「ずるいよ。そんなの、今更言うなんて」
その目には薄い水の膜が張っていた。
「今までだってずっと思ってたんだ、一緒にいたいって。でも恥ずかしがっていて言えてなかったんだ。ごめん。思ったこと、口にすべきだった」
美咲は涙をこらえきれなくなったようで、うつむいた。
その姿が、いつもの彼女からは想像できないぐらいか細く見えて、僕は言いようのない罪悪感を感じた。
「さっき美咲が本気で別れる気がなかったって知った時は確かにびっくりした。でもそれって美咲が悪いんじゃない、不安にさせた僕のせいでもあるだろ。僕は美咲に何回騙されたって傷つけられたっていいよ。美咲と離れることの方がそれよりもずっと悲しいことだって、離れて実感したんだ」
美咲はもう何も言わなかった。うつむいたまま、肩を震わせている。
僕は自分がそうしたいだけなのではないかと少し迷ったけれど、美咲を包み込むようにぎゅっと抱き寄せた。
もうどうしても、そうしてあげたくなってしまったのだ。
美咲はそれを拒否することはなく、僕の腕の中で小さくしゃくりあげて泣いていた。
僕は美咲の背中を優しく叩き続けた。
「……やっぱり、占い当たってた」
腕の中から聞こえた美咲の声は涙声だったけれど、さっきまでとは少し違ってどこか温かな印象の声色だった。
僕は「どういうこと?」と聞き返す。
「女難の相が出てたでしょ。こんなめんどくさい女に好かれちゃうなんて、やっぱり、大凶だよ」
しゃっくりをしながら、美咲はそう言った。
「そうなのかな。でもそれでもいいよ、美咲がそばにいてくれるのなら。それでいい」
僕は一層美咲を強く抱きしめた。
「僕ともう1度、付き合ってほしい。側にいてほしいんだ」
美咲は僕の腕の中でゆっくりと頷いた。
しばらくして、どちらともなく僕らが離れると、急に少し気恥ずかしくなって、僕は「そうだ、あの割り箸占いの方法、教えてよ。すごく気になってたんだ」と頼んだ。
美咲は「えー、それ今? まぁいいけどさ」と苦笑いして、歩き始めた。
「あれはね、割り箸にできたささくれの位置から占うんだけどさ、実は割り箸って綺麗に割るコツがあってね……」
僕も隣を一緒に歩きながら、話を聞いていく。美咲は目を赤くしながらも、それでも楽しげな顔をしていた。
そっと彼女の手を握ると、話を続けながら自然と握り返してくれる。
今度は、この手を離さないようにしよう。
割り箸の占いも、今度は僕がやってあげよう。チョリソーマンだって一緒に見よう。ことあるごとに「愛してる」と伝えよう。
今度は彼女を大切にしよう。
ラーメン屋に一緒に入ってくれる彼女は大事にしろ 園長 @entyo
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