第22話 落ち着きましょう

「は?なんて?」


 俺は意味が分からず、聞き返す。


「だから!白崎さんにg&@♨️✨$☆あ!」


 うん。もう1回聞いても理解できない。いきなりこっちに来たと思ったら、胸倉掴まれて、これだ。何が何だか、さっぱり分からん。


 遅れて、後方から翔太がやって来た。


「落ち着け、英介。言葉になってないぞ」


 良かった。英介を宥めてくれている。


「けどよ、翔太!こいつ、あの白崎さんと親しげに喋ってたんだぞ?俺、代表挨拶見た時、すっげー可愛い娘いるなーっと思って、密かに狙ってたのに。抜け駆けしやがってー!許せるか?許せねーよな!」


 そこかー!そこに怒ってたのかー。


「それは俺も思った。今朝の段階では、俺と一緒でサッカー優先って言ってたのに、俺たちとほったらかして、女子と楽しくお喋りとは。良いご身分なことで」


「あ!ごめん、完全に二人のこと忘れてた」


 本当すんません。美鈴との昔話に夢中になる余り、すっかり待ち合わせのことが、頭から抜け落ちてた。


「「はーー?」」


 と呆れ果てる、翔太と英介。


「よし!英介、って良いぞ!」


「イェッサー!」


「ちょっ、待て、待て!」


「問答無用!」


 そこで、助けに入ってくれたのは美鈴だった。


「ごめんなさい!私のせいなんです。私がずっとテルと話してたから…」


「いや、白崎さんのせいじゃないですよ。こいつ、少しでも俺たちを待たせてること言ってました?」


「え〜と、それは…そのー…」


 負けるな美鈴!もっとフォローしてくれー!


「というか、天内!そもそも、お前と白崎さんどういう関係なんだ⁈返答次第では、生かしてはおけない!」


「どういう関係って、聞かれても…。久しぶりに会った幼馴染としか言えない」


「そうです!幼馴染兼、未来のお嫁さんです!」


「「「お嫁さん⁈」」」


 ちょっと待って、俺そんな話聞いてないよ!そりゃあ、将来的にそういう関係になるのも、全然やぶさかでは無いよ?


 だけど物事には、順序ってもんがあってだね。いろいろ、すっ飛ばし過ぎと言いますか。何と言いますか…


「ん?何で、テルまで驚いてんだ?」


 と翔太が尋ねてきた。


「だって、俺知らないし!」


 俺がそう返答すると、


「ひどい……」


 そう言って、美鈴が目をウルウルとさせて泣き出してしまう。


 いや、違うな。俺にだけ分かるように、舌を出して、ウインクして来た。恐ろしい娘!


「うわ。最低だな、お前。白崎さん、泣いちゃったぞ」


 翔太は如何にも、引いていますという感じで俺を視てくる。


「よく見て!あれ、嘘泣きだから!」


「あれの何処が嘘泣きだ!そう思うお前の心が汚れてんだ!謝れ、白崎さんに謝るんだ!そして、俺にも詫びろ!○んで罪を償え!」


 英介はもはや、誰目線で怒ってるのか分からない。


「ねえ、待って!俺の話も聞いて⁈」


「聞く耳もたん!」 


 そうして、今にも英介が俺に殴り掛かろうとしたその時、


「って言うのは、全部冗談です!」


 美鈴があっけらかんとした顔で、そう告げる。


「「「へ?」」」


 俺たち三人はずっこけた。


「ふふ。ごめんなさい。あんまり仲が良さそうだったので、つい妬けちゃって。改めて、テルの幼馴染の白崎美鈴です!よろしくお願いします、雨宮さんに綾瀬川さん」


「ああ、ご丁寧にどうも。テルの親友の雨宮翔太です」


「綾瀬川英介っす!俺たちの名前、知ってるって事は、もしかしてファンだったり?」


「しません」


 美鈴は良い笑顔でバッサリ切り捨てる。


「そうですか…」


 がっくり肩を落とす英介。ドンマイ。


「美鈴は、ちょくちょく、俺の試合観に来てくれてたんだってさ。だから、二人のこと知っててもおかしくは無いよ」


「なるほどな。にしても、2人はどこで知り合ったんだ?俺とテルは小学校一緒だったけど、白崎なんて名前の子いなかったよな?」


 おっと。少しデリケートな質問が、翔太から飛んで来た。でも、これくらいなら大丈夫だろう。


「美鈴とは、10年前のファルコンズ対ユナイテッドの試合で、出会ったんだよ。美鈴のお兄さんも、その時、ユナイテッドの選手として試合に出てて、応援に来てたんだ」


「ああ、あの試合か!今でも鮮明に思い出せるよ。あの試合の海斗さんが凄かったよな〜。俺、あの試合観てファルコンズに入ろうって、決めたんだ!だけど、相手のGKも凄かったよな〜。ビッグセーブ連発で!」


「あ、それ私の兄です」


「え!確か、あの時のGKって、本郷正明さんだったよな⁈」


「まじか!この間のオリンピックで、日本代表の守護神張ってた、あの本郷正明⁈あれ?でも、名字違うよな…」


 ここで、英介が空気を読めない発言をしてしまう。とは言え、先に話題にしたのは俺の方なので、やっぱりそうなってしまったかと、後悔した。


 注意しようかと思ったが、美鈴に目線で大丈夫だと伝えられた。


「実は、両親が離婚したんです。兄は父に、私は母にそれぞれ引き取られて…」

 

「おい、英介。謝っといた方が良いんじゃないのか?」


 と翔太が英介に謝るよう促す。


「ゔっ、すいませんでした!」


「良いんです。もう大分前のことなので」


「でも…」


「ほんと、大丈夫ですから」ニコッ


 優しい笑顔で許す美鈴。


「白崎さん優しい…天使?」


 うん、それは同意する。


「そうだ!こんな事、してる場合じゃなかった。テル、お前の母ちゃん相当怒ってんぞ!」


「げっ!めっちゃ、通知来てる…」


「ははっ!ざまあねぇな、天内」


「五月蝿いぞ、英介。というか、お互い名前呼びするんじゃなかったのか」


「ふ〜んだっ!お前なんて、名字で十分だ!」


「何を〜!」


 低レベルな争いを繰り広げる、俺と英介。


 見兼ねた翔太が、間に割って入る。


「はいはい、そこまでにしとけ。とにかく、校門のところまで急ぐぞ!」


「「分かった」」


 俺と英介は渋々引き下がる。するとここで、美鈴からとある要望が入った。


「あっ。それ、私も付いていって良いかな?久しぶりに、おじ様とおば様にご挨拶したい」


「もちろん!というか、こっちから頼みたい。美鈴が一緒に来て、事情を話してくれれば、母さんの怒りも多少、和らぐ気がする」


「話纏ったか?じゃあ、走れ!」


「「おう!」」


「はい!」




 

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