高校編(1年目)

第17話 リスタート

 事件を起こした4人は、クラブを去った。監督責任を問われたUTは、数ヶ月の間、公式大会への参加禁止の謹慎処分が下された。


 俺たち一家には、クラブから、謝罪と進学先を紹介させて欲しいとの申し出があったが、謝罪だけ受け入れ、高校の紹介は断った。


 そこまでお世話になるつもりはないし、高校側もUTの選手だから受け入れているのであって、何も貢献できない俺が入るのは約束事が違う。


 紹介された高校が、君つばの舞台となる学校だったってのもある。もう、原作からは離れたんだし、それに縛られる必要はないだろう。


 それに、翔太から誘いがあったんだ。同じ高校に行かないかって。


「俺さ、ユースに上がれなかったんだ。それで、高校は明王に行こうと思ってる」


「明王って、あの明王か?去年の選手権、準優勝の私立明王学園」


「その明王。実は、推薦もらったんだよ。だから、一緒に行こうぜ!」


「無茶言うなよ。あそこ、一般だと偏差値70あんだぜ?それに、入れたとしてもこの脚じゃあ、戦力にならない」


「それでも、サッカー自体を諦めた訳じゃないんだろ?だったら、来いよ。また、一緒にサッカーしようぜ。テルは頭良かったんだし、明王入れるだろ。俺は無理だけど」


「自分にできない事、他人にやらせるなよ。まったく。しょうがねーから、その話乗ってやる。その代わり、落ちたら責任取れよ」


「大丈夫、大丈夫!テルなら受かるから。そんでもって、俺たちで明王を日本一にさせようぜ!」


「その自信、どっから出てくるんだよ、分けて欲しいわ。けど、なんか元気でた、ありがとな。頑張って明王入るから、そん時は頼むぜ親友」


 こうして、俺は必死に勉強する羽目になった。まー、過去問が難しいの何のって。高校入試の筈なのに、大学入試レベルの難問が出題されたりで、かなり苦しんだ。


 この辺になってくると、もう前世の知識はほとんど通用しない。一から勉強する事も多かった。だけど、その甲斐あって、なんとか明王に合格。晴れて、春から明王生になったのである。







 4月

入学式当日


 俺は、翔太と待ち合わせて学校に行くことにした。両親は後から、入学式に来る予定だ。兄貴も来たがってだけど、シーズン中だし、パニックも起こりそうだったので、遠慮してもらった。


 兄貴は昨年、U-23代表選手としてオリンピックに参加し、日本に銅メダルをもたらす立役者となった。加えて、そのルックスも相まって、尋常じゃない数の女性ファンを獲得した。


 この間のバレンタイン・イベントでは、兄貴宛のチョコだけで、クラブハウスの一室が埋まったとか…


 うん。騒ぎになる予感しかしないね。やはり、来てもらわなくて正解だった。


 それにしても、明王学園か。なんか、聞き覚えあるんだよな…


 元から、学業やスポーツだけでなく、芸術や芸能など多方面で優秀な生徒を輩出する学校として有名ではあるから、覚えがあるのも当たり前ではあるんだけど。


 なんだろう、記憶を取り戻した時や、初めて葵に出会った時のような違和感。こんだけ有名な学校なら、君つばに出てきても可笑しくないのに、そっち方面では記憶にないんだよなー。


 俺がそんな事を考えていると、翔太との待ち合わせ場所に辿り着く。そこには、翔太の他に別の人物が俺を待っていた。


「おっ、やっときたかテル!遅いぞ」


「はいはい、すいませんね。でも、待ち合わせ時間ピッタシなんだから別にいいだろ?」


「いーや、遅いね。俺は15分前からここにいる!」


「早いとも、遅いとも言えない微妙な時間。せめて、30分前に来てから偉そうにしろよ… そう思わない?綾瀬川くん」


「このちょっと、ズレてるところが、翔太の面白い所だからね。俺は寧ろ良いと思うよ。それから、英介でいーよ。俺も、照人って呼んでいい?」


「もちろん。改めてよろしく、英介」


「こちらこそ」


 そう、あのクラブ選手権・決勝で俺たちを苦しめた、曲者サイドバックこと、綾瀬川英介が翔太と一緒にいたのだ。


「それにしても、意外だったよ。てっきり、英介はユースに上がるもんだと思ってた」


「俺も、初めて聞いた時は驚いた。上は何考えてんのかって」


「まーね、俺ってばそこそこ優秀だったし。実を言うとさ、俺、そんなにプロに興味ないんだよね。ヴェルーナ入ったのも、なんとなく面白そうだなって思ったからだったし」


「へー、そうだったのか」


「うん、上にも言われたよ。お前に、もう少しやる気があれば、ユースに上げたのにって」


「何じゃそりゃ。勿体ねー」


「お前… 怪我で上がれなかったテルと、ユースじゃ通用しないって、はっきり言われた俺の前でよく言えるな、そんなこと」


「あはは。ごめん、ごめん。でもさ、俺は明王来て良かったって思ってるよ。だって、可愛い娘ばっかりじゃん?彼女作って、青春を遊び尽くそうぜ!」


「俺は、今のところ日本一になる事しか頭にない。日本一になって、通用しないって言ってた、上の連中、全員見返してやるんだ!」


「うへー、相変わらず燃えてるねー、翔太は。照人くんはどうなん?そこんところ」


「んー、俺も翔太よりかな。まずは、インハイ予選までに、脚の状態を間に合わせたい」


「俺の周り、真面目ちゃんばっかりかよ!青春は一度きりなんだよ?もっと楽しもうよー」


「言っとくけど、お前もこっち側だからな。何があっても、練習には参加させる」


「うげっ。え、遠慮しまーす」


「逃さねーからな?」


 ガシッと、英介の左肩を掴む翔太。


「手伝うぜ、翔太」


 俺も、反対側の肩を抑える。


「ヒェぇー、俺の味方はどこぉー⁈」


 楽しい高校生活になりそうだ。

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