第11話 約束

 魔王様、もとい兄貴の提案した練習メニューは、そのままでは通常のチームでの練習に支障をきたすので、現実的に可能なものに改良してもらった。


 それでも、限界ギリギリまで筋トレで追い込んだ後に、山登りさせられるかの様な、鬼畜なメニューとなった。


 兄よ、人の心とかないんか?


 兄貴お手製の自主練を1ヶ月弱、何とか続けてこれてはいるが、今のところ上達してる実感はない。


 そりゃあ、ゲームじゃないんだから、自分のパラメータを見て成長度合いを確認する、なんてことできないのは分かってる。


 だけど、そろそろ続けるのがしんどい時期に入ってきた。ここいらで、何か手応えを感じることができると良いんだけど…


 いくら漫画の世界とはいえ、所詮俺は端役にすぎない。そんな都合の良い展開は、主人公の特権だ。

今は継続することが大事だと、俺は意識を切り替えた。

 しかし、そんな俺の予想とは裏腹に、早くもその成果を発揮する場がやってくるのであった。







 8月某日

北海道帯広市 帯広の森陸上競技場

日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会 決勝


 決勝戦の組み合わせは、奇しくも同地区のライバル対決となった。


 ユナイテッド・オブ・東京vs東京ヴェルーナ


 我らがユナイテッド、実はまだこの大会のタイトルを獲得した事がない。さらに相手は永遠のライバル、東京ヴェルーナ。チームのボルテージは、今まさに最高潮だ!


 ただ、1人を除いて…


 夏目は、日本一を決める舞台だと言うのに、特に緊張している訳でも、気負っている訳でもない。

いつも通り、淡々とアップをこなしている。 


 夏目は国内、況してやアンダーカテゴリにおけるタイトルなんて、眼中に無いのかもしれない。

夏目にとって、ここは通過点でしか無いのだろう。


 だけど、俺は知っている。あいつは、いつだって目の前の勝利には全力だって事を。


 時に、勝負に夢中になるあまり、周りが見えていないこともある。だが、それは誰よりも純粋に勝利を追い求めている証拠だ。その姿勢は、原作のと何一つ変わらない姿だった。


 そして、個人的にも負けられない理由がある。


「よう、テル! ようやく、戦えるな!」


 そう話しかけてきたのは、ファルコンズ時代のチームメイトにして、俺の親友「雨宮翔太」だった。


「おう、久しぶりだな翔太。去年はお互い、主力とは言えなかったからな」


 小学校の時、交わした約束は未だ果たせないままだった。だけど遂に、それが叶う時が来た。


「今年も何度かチャンスあったけど、俺の怪我も重なったりして、直接は戦えなかったし」


「よりによって、初対戦がこんな大舞台になるとは思わなかったけど」


「何言ってんだよ。むしろ、燃えるってもんだろ!」


「その暑苦しいくらい前向きなところ、変わってなくて安心したよ」


「へへっ、まぁな。 今日はお互い、全力でぶつかりあおうぜ!」


「おう、望むところだ!」


 そう言って、俺たちは軽く拳を突き合わせ、それぞれのチームメイトの元に戻っていく。


 今まさに、決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

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