第10話 兄は魔王様でした…
非常にまずい事になった。
このまま、他の2年連中が暴走して夏目に何かあったら、俺が責任取らさられる羽目になる。これが、原作の修正力ってやつなのか…
早急になんとかせねば。
とはいえ、何をどうすれば良いのやら…
チームがギクシャクしてる一番の要因は、夏目と俺たちの間にある実力差。
こればっかりは、一朝一夕でどうにかなる様なものじゃない。地道に積み重ねて行くことでしか、解決しない。
話をややこしくてるのは、夏目の言動だよな。こっちは、まだ何とかなりそうだ。だけど、懸念点が無いわけではない。
そもそも、夏目は他人の言う事を聞くタイプなのかというのが一つ。
原作の夏目は、人からの忠告を受け入れ、自らのを改める姿勢が見受けられた。
でも、それは中学で痛い目をみたからこそ、人の言うことに耳を傾けようという教訓が、身に刻まれたからだと思う。
今の段階で助言をしたところで、効果があるのかどうかは疑問が残る。
2つ目は誰に言われるかだ。これは誰しも共感できることだと思う。
親や学校の先生といった身近な人よりも、著名人など自分が何かしら一目おく人物から言われる方が、同じ内容の言葉でも、受け止め方が異なる。尊敬する人からの言葉の方が、耳に入ってきやすいのだ。
今回の場合、俺たちは実力的に夏目に劣る。そんな相手から、何を言われようが聞く耳持たないのが普通の反応だろう。
監督やコーチから話してもらうってのは、無しだな。効果はあるかもしれないが、こんな事も直接言えない情け無い連中、と夏目が捉える可能性もある。そうなれば、話が余計こじれそうだ。
だいたい、レベルの低い俺たちにも気を遣えなんて、他人に言ってもらうのは格好悪すぎる。俺もチームメイトも、そんなこと望んじゃいない。
さて、ざっと問題点を挙げてみたわけだが…
うん、詰んでるなこれ。
諦めて寝よう。
………
いや、ふざけてる場合じゃないな。
下手したら、俺の人生掛かってるんだから、もっと真剣に考えないと。
こういう時は、やっぱ誰かに相談した方が良いのか?だけど、一番頼りになりそうな兄貴が今はいないしなぁ。
(この春から、正式にプロ契約を結んだ海斗は、現在、天内家を離れ、ユナイテッドの宿舎で生活している。海斗は、そのルックスとサッカーセンスの高さから、メディアに取り上げられることが多々あった。しかし、これからはプロ選手。これまで以上に、マスコミが彼を追いかけ回すのは間違いない。そうした配慮から、海斗は親元を離れる事を決断したのである。)
あー、もっと兄貴にチームメイトの接し方とか聞いとくんだった!
俺がそう嘆いていると、スマホの着信音が鳴り響く。受信先は、ちょうど思い浮かべていた兄貴だった。
こわっ! タイミング良すぎだろ!俺は恐る恐る、電話に出る。
「もしもし、兄貴…」
「おー、テル、久しぶり!なんか、声元気ないけど大丈夫?」
「いや、まぁ。ちょっと、悩んでることはあるけど、元気は元気。それで、何か用?」
「んー、用は特にないんだけど。テルが、俺のこと考えてそうだなぁって」
「………」
こっっっわ!まじで怖!ガチのエスパーかよ!
「嘘、嘘。冗談だから。ちゃんと、用はあるよ。ほら、ジュニアユースに凄い子入ったんだって?もしかしたら、数年後にはトップで一緒にやるかもしないし、今のうちに聞いておきたくて」
本当に心読んでない? 話題がドンピシャすぎるんだけど。
「まさに今、そいつのことで頭悩ませてるんだけど」
「どうした、どうした。兄ちゃんに、言ってみな? 力になるよ」
「実はさ、そいつがとんでもない奴なんだよ。バルサのカンテラ出身で、ドリブルはエグいわ、点も取りまくるわ、正直なんて言ったらいいいのか分からん。兄貴に匹敵する才能の持ち主、俺初めてみたんだよ」
「へ〜。それは会うのが楽しみなったよ」
「うん。それで、問題はこっからなんだけど。そいつが、まぁ、はっきり物を言うタイプでさ、3年の先輩相手にも、物怖じせずに言うんだよ。それ自体は、悪い事ではないと思うんだけど、言い方が悪かったりして、結構反感を抱いてる奴が多いんだだけど、そいつが一番上手いから、誰も何も言えなくて… 不満だけが溜まってる状態で、チームの雰囲気がマジで最悪」
「なるほどね。チーム内の実力差による、不和ってところかな」
「そうなんだよ。兄貴の場合はどうしてた?嫉妬とか嫌味言ってくる奴への対処」
「ん〜、俺は基本その場では何も言い返さずに、適当に流して、後でプレーで黙らせるって感じだったなぁ」
「へー、意外。兄貴って、行動で語るタイプだったんだ」
「うん。それでも、何か言ってくる人には、傍目には分からない様に少し回転かけたりして、わざと取りにくいボールを出したり、相手が失敗するのが分かってて、パス出して、ちょっとした仕返ししてたかな。あ、もちろん、紅白戦とか練習試合でだよ?
公式戦に、私怨持ち込むほど子どもじゃないからね。元々、スタメンに選ばれる様な実力のある人達じゃないから、関係無いんだけどね。そういう事繰り返してたら、いつの間にか文句を言う人は、いなくなってたかな? 皆、良い人達だよね〜」
「そ、そうですね…」
そりゃ、言える訳ないやん!そんな恐怖体制敷いてる、魔王様に文句言うなんて、よっぽどの馬鹿か勇者だけだろ。
本当、顔に似合わずたまに怖い事言うからなー。
まじで、怒らせないように気をつけとかねぇと。
「ん? 何で敬語?」
「何でも、ナイヨ。あはは…それで、チーム状況改善するにはどうしたら良いと思う?」
「それなら、テルがチームで一番上手くなれば良いよ!」
「え? 話聞いてた? そいつ、兄貴と同じくらい上手いんだって」
「うん。その子もさ、本当の意味で対等に言い合える仲間がいないんでしょ? だったら、テルがそうなってあげれば良いんだよ、最初の仲間にね」
「だから、俺も居るぞってことをアピールする為に、チーム内で一番になれってこと?」
「そう。できないとは言わせないよ。だって、俺の自慢の弟だもん」
やっぱり、兄貴は変わらないな。昔の優しい、兄ちゃんのままだった。
「おう! やってみせる!」
「それじゃ、テルが今何するべきか教えるから、明日から、チームの練習とは別で自主練でやってね。
まずは、ランニング20km、リフティング左右の足で500回ずつ、それから、…………………………」
訂正、秒で訂正。
この人やっぱり、魔王様です。
地獄の様な練習メニューを聞きながら、俺の意識は遠のいていく。
さようなら、俺の平穏な日々よ…
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