第4話

魔王その2「いくぞ、俺のターン、カードを…」

女神「ちょっと待ちなさいよ!しれっと先攻しようとしてんじゃないわよ!」

魔王その2「チッ。ならばコイントスで先攻後攻を決めようではないか。」

魔王その2がコインをポケットから出す。

女神「待ちなさい。イカサマしてないでしょうね?両方おもてのコインとか」

魔王その2がコインの表裏を交互に見せながら言う。

魔王その2「仮にも魔王だぞ、そんな事はしないが…気になるというのならばヌシのコインを使うがよい」

女神が財布を取り出して中をのぞき込む。


魔王その2のコインを使う事となり、コイントスの結果、魔王その2が先攻となった。


魔王その2「改めて、俺のターン、カードをドロー」

カードケースから引き抜いたカードを見て、ほくそ笑みながら魔王が言う

魔王その2「ふふふ、先日カードデッキに追加したばかりの最新のカードだ。側近の一人がハマっていて、ガンガン課金購入した結果のダブりを譲り受けたのだ」

そう言って魔王その2はカードを前に出してセットし、宣言した。

魔王その2「“取って付けたような悪役令嬢(スーパーレア)”のカードを攻撃表示でセット!相手プレイヤーにダイレクト攻撃だ!」


悪役令嬢が出現し、魔王その2に向かって声を張り上げて言った。

悪役令嬢「ちょっとアンタ!バカじゃないの?何で悪役令嬢がダイレクト攻撃するのよ!」

魔王その2「え?」

悪役令嬢「悪役令嬢ってのは後の展開を知ったうえで上手うまい事立ち回るのが醍醐味なのよ!読んだこと無いの?読書しないの?悪役令嬢にダイレクト攻撃させるなんてほんとバカ!」

魔王その2「バカバカ言うな!大体貴様は“取って付けたような”悪役令嬢なんだから、細かい事気にするな!ダイレクト攻撃しろ!」


悪役令嬢がこめかみに青筋を立てながら、魔王その2にダイレクトびんたをかました。

崩れ落ちながら魔王その2が言う

魔王その2「…できるじゃん、ダイレクト攻撃…」

その一撃で魔王その2の体力ゲージはゼロになった。

こうして短きにわたる青年と魔王その2とのバトルに決着がついたのだった。


-


魔王その1の時と同様のやり取りが行われ、魔王その2はカードケースを運営に返却した。


去り際に魔王その2が言う

魔王その2「冥土めいどの土産に教えてやろう。魔王その3の弱点、それは…算数が苦手だ、数字に弱い」

女神(“冥土めいどの土産”の使い方…違うわよ。ほんと読書しないのね。この魔王その2は…)

去り行く魔王その2の背中を見ながら、そう思う女神だった。


-


気が付けば空が夜へと向かうべく、朱色に染まっていた。

女神「今日の所は一旦いったん町に引き上げて、宿に泊まりましょう」

そう言いながら金色のゲートトンネルを作る女神。

女神「”女神の加護の術”で、仮眠だけでも充分回復できるし、食事をしなくても大丈夫なようには出来るんだけど、折角なので、首都にあるリーグア-ロイヤリティー-ハイアッター-ホテルに泊まりましょう。」

青年「俺は野宿でもかまわんぞ。野球の訓練の一環としてサバイバル野宿をした事があるからな」

女神「いいの、いいの、ホテルのディナーは何が出るかな?♪」

鼻歌を歌い、ニコニコしながらゲートトンネルをくぐろうとする女神。


青年「本当に良いのか?ガチャの時に金貨1枚を使ったし、コイントスの時も渋い顔をしていたが」


森の中で野宿する事となった。


-


焚火をおこし、その前に座る女神。

青年は「日課のトレーニングを行う」と言い、オーバースローでボールを投げる動作、所謂いわゆる 野球のピッチャーの動作を反復しはじめた。

その手には、あの重いカードケースが握られている。

女神「そんな事をして、肩は大丈夫なの?」

青年「負荷になって、良いトレーニングになっている」

女神「凄いわね。それだけの事が出来るんだから、野球でも一流のプレイヤーだったんじゃないの?」

青年「いや、一流になれないとさとってプロ野球選手は諦めた。」

女神が驚愕する。

女神「うそでしょ!?」

青年「いや、…あれは俺がまだ少年だった頃の話なんだが」


青年「夏の暑い日だったな。夏休みに俺は爺さんの家に遊びに行っていたんだ。風鈴の鳴る縁側で、庭のヒマワリを見ながらアイスバーを食べたりして過ごしていた」

女神「あら良いわね。“日本の夏”って感じで」

青年「いや、爺さんの家はアメリカのシアトルの田舎の方にあるんだ」

女神「…」

青年「ある日、爺さんは俺を行きつけの店に連れて行ってくれた。“ジェシーのロードサイドバー”と呼ばれているその店で、チープなホットドックをハイボールで流し込む…」

女神「ちょ、少年!未成年!」

青年「ハイボールで流し込む爺さんの隣で、俺はホットドックをコーラで流し込んでいた」

女神「そ、それならセーフ」

胸を撫で下ろす女神。

青年「ジェシーの店は地域の荒くれものが集まる店だった。店内はあちこちで小競り合いが起こっていて、騒々しいのが常だった」


「コカ・コーラがスタンダードなのは疑いようが無いだろうが」

「ペプシの美味さが解らないヤツがまだこの世にいるとは驚きだぜ」


「世の中には”逆張り”という事をするガキがいる。キノコが好きだなんて言うやつの事だな」

「おうおう、タケノコ派は口だけは達者だね」


「こしあんの高貴なる口当たりを解らぬとは、嘆かわしい事だな」

「つぶあんの力強さが解らない事の方が、人生で損しているぜ」


青年「一触即発、普段の店内にはそんな空気が流れていたのだが、“とある日”だけは静寂が訪れるんだ」

青年が一呼吸おいて言う。

青年「ベースボールの試合がある日だ。その日だけは皆、ラジオを静かに聞くんだ」

女神「ラジオ?テレビじゃなくて?」

青年「店主であるジェシーさんのこだわりらしい。『テレビジョンってやつは風情がねえ。やっぱりバーで野球中継を楽しむのはradioレイディオでないとな!ハッハッハッ。決して金が無いわけじゃないんだ』と言っていた」

そう言いながらノートパソコンを覗き込み、『よし、1000株ほど売りだ』と言ってインターネット株取引に勤しむ店主ジェシー。


青年「試合は後半になり、贔屓ひいきの地元チームが1点リードしていたんだが、3塁に相手チームのランナーが居て、外野フライを打たれると相手チームに得点が入ってしまう。そんな状況でラジオから聞こえてきたのは…」


アナウンサー「ファ〇クな相手チームが外野フライを打ちやがった!」


青年「店内には溜息と『Oh…』とか『No…』とかいった声があふれた」


青年「走り出す3塁ランナー。そして…その数秒後にアナウンサーは確かにこう言った」


『イチローがレーザービームを撃った』


女神「…えーと、それって…」


青年「ああ、確実に言った。『イチローがレーザービームを撃った』と、そして続けてこうも言った『ランナーを殺した』と…。俺は知った、どうやら一流のベースボールプレイヤーはレーザービームが撃てるらしい。」


女神「それって比喩ひゆ…」


青年「店内は狂喜乱舞の大騒ぎになったさ。その日以降、俺は血のにじむようなトレーニングを行ってきたんだが…。レーザービームを撃てるようにはならなかったんだ。まあ仮にレーザービームを撃てるようになったとしても、俺には相手ランナーを殺すような事は出来ないだろうなと思い、野球選手は向いていないと思い至ったわけだ。」

遠い目をしながらそう言う青年。


作り笑いを浮かべつつ、一筋の汗をかきながら女神はこう思っていた

女神(レーザービームとかは絶対に比喩ひゆだわ)


そんな時、突如声が聞こえた。

「レーザービームは撃てないんだな?」


いつの間にか焚火を囲む者が一人増えていた。その正体を女神が驚愕しながら叫ぶ。

女神「ま、魔王その3!!いつのまに?」


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