第35話 主の苦悩の日々を救う者

「あーあ、またバカンスに沢山行っちゃったよー僕のアシスタント君たちが」


そう呟きながら上を向けば無限に広がるキャンバスのような白い雲のような景色、下を向けばすべてを見渡せるほどの透き通った世界が映る場所に居る彼は疲れていた。


「まぁ、沢山手伝ってくれたからバカンス休暇は大事だけどねぇ、僕にはそんなものは滅多にないから羨ましいや」そう言うとピョンピョンと浮いた雲のようなフワフワな場所に丸くなった。


「まだあたしたち(ぼくたち)が、いるじゃないですか~」そうキラキラ輝く光たちが慰めていた。


「そうだよね、本当にいつもありがとうね~でも、君たちも好きな時にバカンス行ってもいいんだからね~」と眠そうな声で彼は返事をする。


思い返せば最初の数億年はトライ&エラーの繰り返しで、なかなか前世のように筆が進まなかったなぁとフワフワな場所でゴロンゴロンしながら下を見つめた。


「よくここまで頑張ったなぁ僕。ちょっと疲れちゃったよ」


そんな時ふと目にした一人の人間が気になった。


「なんだ?この人間どんなマホウを授かってるんだ?」


御付きおつきが与えたマホウは「寿命を分け与えるマホウ」と「好奇心旺盛であるマホウ」しかないのに、なんでこんな進化してるんだろう?とその人間の今までの人生の記録を上に表示した。


燕桃堅イェンタオチェン28年生きているんだね。これは親が与えたマホウの影響がかなり強いなぁ、御付きやバカンス中の子たちにもなかなか出来ないよこれは、大事だよね、親から貰う最初のプレゼントって」


その人間の寿命の設定は長くしてあったようだったけど、疲れた彼は託された作業をしながらも、ちょくちょく彼の人生記録を繰り返し見ていた。


「人間にしては、滅多にあり得ない事してるんだなぁ」とか


「人間らしい欲もちゃんとあるんだなぁ」とか


ドラマを一本観るかのようにその人間に見惚れて行った彼は、


「うん、あの人間僕欲しいなぁ」と呟くと輝く光たちが慌てだした。


「わぁ、珍しい!ここに人間を呼ぶんですか~?」とざわざわとし始めた。


「だってさぁ、産まれてから一度もあの人間嘘をついてないんだよ?すごくない?」と彼が言うと、輝く光たちも驚いていた。


人間は自分を守るための嘘や、無駄に誰かを傷つける嘘、誰かを守るための嘘、自分の利益のための嘘など多くの嘘をつく事で自分を守るように作ったはずなのだ。


「ある程度大きくなってからの嘘ならつかない人間も一定数いるんだけど、燕桃堅イェンタオチェンは本来幼少期に見栄を張るような時に使ったり怒られないように使ったりする嘘すらないんだよね。親が与えたマホウが関係しているのかな?それで周りに慕われ続けたから嘘をつく必要がなかったみたいだね。面白いな」そう呟きながら、日頃の作業も手を抜かずに頑張っていた彼は、


あと2年あの人間が嘘をつかなかったらここに呼びたくなってきていた。


2年なんて月日は彼にとってほんの数日のようなものだった。


なんせ彼はこの地球アースという星で45億年もの間あらゆる生き物を創造し、設定することを託された云わば、創造主なのだから。


「この惑星の前世の奴本当に性格悪くって今でも、『あ~またやられた!』って事多いもんなぁ。最初はマグマだらけで怒りの塊みたいだったし」


まぁ、惑星にさせられる奴なんかプライドばっかり高くて大量に命の犠牲を出したような悪中の悪しかいないから、来世でまさかポツンと宇宙に独りぼっちにさせられるとは思わなかったんだろうから、怒りたくもなるだろうけどね。


僕が生きていたテイアがまさかこんな惑星に激突するとは思わなかったしなぁ。


過去を懐かしんでいる間に燕桃堅イェンタオチェンが30歳を迎え今まで沢山の彼女に囲まれていたのに、たった一人と人生を共にすることを決め結婚をしようとしていた。


「今がこの人間にとって一番幸せな時期だろうな、お相手には寂しいかもしれないけどここがチャンスだよね。ちょっとアシスタント君たち今だけちょっと出かけて来ていい?」と聞くと輝く光たちは任せてくれと言わんばかりに彼を送り出した。


ーーーーーー


本来は御付きの者たちに任せてる転生の説明の前にその人間に会いたかったんだ。


もちろん、御付きにすら会う事なんか滅多にないから、僕の造形してきた中で最高の姿で迎えにいったら、御付きの者たちに


「なに?浮遊中のお守おもり?」と勘違いされてちょっと苦戦した。


ちゃんと説明したけど、あんまり信じてもらえないから御付きの者たちには何かそれらしい姿になって納得してもらった。


でも、この姿って僕の造形じゃないんだよね~人間がデザインしたものだから借りちゃって悪いなぁとは思ったけど、神々しい感じが元人間の彼らには効果覿面なんだよね。


デザインしてくれた人間たちありがとう。


燕桃堅イェンタオチェンの身体機能停止を確認して声をかけた。


「あ、ごめんねー君の事、僕欲しくなっちゃってさ人生辞めて貰っちゃった」


燕桃堅は僕の最高傑作でもあるこの姿に見惚れているようだった。


「あ、死ぬとネコに会うのか。花畑とかじゃないんだな」


本当に心に思った事しか口にしない人間で面白い。


「人生辞めさせられたって事は俺はこの先どうなるんだ?無に帰すのか?」ともう一人の燕桃堅が言うと二つの命が同時にびっくりしていた。


「ああ、この星でね人生を生きるのにはどうしても2つ以上の命がないと産まれることすら出来なくってさぁ、これ発見するのには結構長い時間かかったんだよねぇ。君たちは二つの命で一人の人生を歩んできたんだけど、本来ならどちらかが悪い事したりとかどちらかがいい事したりとか葛藤みたいな事が起きるはずなんだけど、


君たちは一度きりの人生でどっちも嘘をつかなかったんだよ~」と説明すると


「嘘ついたことないんだっけ?」と顔を見合わせながらも、


「まぁ、俺が在日中国人の二世だったこととか隠さなかったのは親も特に隠してなかったからかもしれないから、親のおかげかもしれない」


「彼女たちにも特に他の彼女たちが居ても怒られるとかなかったから隠す必要もなかったしなぁ、恵まれてたよ」とそれぞれ人生の走馬灯を思い出していた。


肝心な僕の最初の一言には気づいてもらえていなくて、二つの命同士で盛り上がってきてしまったから、仕方ないもう一度やるかぁ・・・ごめんよまた借りるね。と思いながら神々しいそれらしい姿に変わった僕を見ると、


「あ、ネコって神様て本当だったのか」と特に驚く様子もなかった。


本当に面白い人間だな。


「僕はこの星の生き物すべての創造と設定を任されただけで神様なんてものじゃないよ。神様ってのは人間がデザイン設定したものだろうけど、僕よりも更に上には居るのかもしれないね、会ったことないけど」と答えると、そうかと納得してくれたようだった。


「それで何で俺らは人生辞めさせられたんだっけ?その前に何て呼べばいいの?神様じゃないなら」と聞かれた。


「僕は前世の名前はこの星で発音できないから気楽に好きな呼び方してくれていいよ、色んな姿にはなれるけど基本的にはネコの造形美が自画自賛ながら好きだからネコの姿で居る事が多いけどね」と姿をネコに戻した。


「俺は生きている間動物と触れ合う時間が少なかったから改めて見るとネコって可愛い存在なんだなぁ他国を行き来しててペットを飼うような環境に居なかったから何か初めてペットを飼うみたいで嬉しいかもしれない」


「俺らの子結局出来なかったしな」と言う。


「おお!それは僥倖だよ、君たちの事欲しかったのはさ、僕45億年もこの星で沢山のデザインと設定とかしてて疲れ切っちゃっててさ、君特殊な進化遂げちゃったでしょ?もう撫でるだけで癒せちゃうようになっちゃったじゃない?だから僕のところに居てほしいんだよね」と伝えると


「それってもう生まれ変われないって事だよな?残した妻たちの事とか心配だけど、俺は家族の事信じてるからきっと大丈夫だとは思うけど気にはなる」


「幽霊とかってやっぱり居ないもんなんだな?」とそれぞれの見解を話す。


「僕のところは全世界が見れるから、退屈もしないし、残した家族たちの事も見る事は出来るよ。アシスタントと違って君たちは一度きりの人生終わったから人間にはもう成れないけど、まぁ、その辺の話し始めたら長くなるからこんな半端な場所じゃなくて僕のところにおいでよ」と誘うと、二つの命は快くついてきてくれることを決めてくれた。


そして、この日から僕は彼らを「タオ」と「チェン」と呼んでフワフワな雲のような場所に座って貰ったり寝転んでもらいながら撫でてもらって疲れを癒しては日々の労務を続けている。


タオもチェンも時々下を見つめては親しくしていた人たちを愛おしそうに眺めていた。


さてさて、僕も託された作業頑張らなきゃな。

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