第3話

 浮気調査を受けたはいいが、ジンジャーの勧めで俺達は武具店に寄ることにした。


 その理由は俺とリサは丸腰だからだ。


 リサの父親から貰った謝礼はたんまり貰ったからそれなりに質のいい装備を整えられるはずだ。


 武具店には剣、斧、槌、槍、棍棒、ナイフと多彩な武器が置いてある。


 当然、刀のような大層なものはない。


刀と言っても、新刀ではなく古刀の方だ。


 そりゃそうだ。


 異世界に刀がある方が不自然だ。


 俺には錬成やら生成、投影なんてものは使えない。


 魔法だって適性があるかさえ分からないのだから。


  「うーん、ここは無難に剣にするか……」


「おや、その剣にするのかい?」


赤い髪で短めの女性店主が声をかける。


「この剣はミスリル製で鍔には魔石を埋め込んでいる。ミスリルはそもそも魔力伝導率が高いが魔石も加わるから使用者によっては性能が大きく変わるんだ。まぁ、魔法が使えなくともそれなりに扱える剣てことさ」


この店主の話によると、どうやらこの世界の住人は魔法が使えなくても魔力は持っているようだな。


「んじゃあ、これをお願いします」


「ミスリル製の剣だから10万と言いたいところだけど、今回は1万パウンドに負けてあげるよ」


しまった、俺はこの世界の言語を理解できても通貨の価値までは把握してなかった。


「2本購入しますので2万パウンドでよろしいでしょうか?」


リサは袋から金貨を取り出し店主に渡す。


「いいよ、それにしても兄ちゃん、妹さんと彼女連れで冒険でもするのかい?」


「いや、成り行きではあるがリサは一応婚約者です……。それにあっちの筋肉女はさっき知り合った仲間です」


「そうかそうか、んじゃあなおのこと気を引き締めないとね」


店主は俺の背中を軽く叩く。


武具店を出た後、俺は剣を腰に差す。


あまり武器を使うのは得意ではないがないよりマシだ。


「ジョセフとリサっちも武器は買ったことだしそろそろ依頼主のところに行こう」


5分程歩くとそこには和風の建物が一軒あった。


店の名前は才谷屋と書いてある。


扉を開けてみるとボサボサ頭の白人がカウンターに肘をつきながら欠伸をしていた。


「いらっしゃいませ〜」


どこか気怠そうだ。


「あの、買い物に来たわけではなく依頼の件で来たのですが……」


ジンジャーがそう言うと「あぁ、そうだった」とボサボサ頭の男は席を立つ。


「僕はアーサー・サカモト。まぁ金貸しをしたり色んな国の商品を売ったりしている」


浮気調査とは言ったが、こんないかにも覇気のなさそうで詐欺に合いそうな男と結婚したがる女がいるのか疑問だが、浮気された原因がなんとなく分かった気がした。


「それで、浮気調査についてなんだけど」


「あー、そうだったね。なら僕も一緒に着いてきてもいいかな?僕がいた方が妻が誰か分かるだろうから」


「確かにそうだな。俺は別に構わないけど、足手まといにならないようにだけしてくれるか?」


「別に調査だから戦うことはないと思うよ、ジョセフ」


戦うこと前提でツッコミを入れられたが、もしもだ。


もし、その浮気相手が凶悪犯だったら戦闘は避けられないだろう。


何せ、文明レベルが中世止まりの世界だ。


そのくらいは想定しておいた方がいいだろう。


アーサーは「ここで妻が浮気したのを目撃した人がいる!」と指を差す。


張り込もうにも隠れる場所がない。


周りは露店だらけだ。


骸骨を売りつけたり、水晶を持った怪しい占い師がニヒルな笑みを浮かべたりと不気味だ。


俺達が来たところはいかにも犯罪者の巣窟のような無法地帯感半端ない。


ホームレスにボロ雑巾のように扱われる奴隷がうろついている事も考えると悪臭も日本にいた頃よりも酷い。


悪臭でムセ混みそうだ。


「ジョセフが考えてることはなんとなく分かるよ。でも、この国はそれでもまだまともな方よ」


「まとも?」


別に、俺がいた日本でもこんな感じの無法地帯はいくらでもある。


ジンジャーは勘がいいのか的外れなことを言うのかよく分からないが俺に指摘してくる。


正直癪に触るところはあるが情報を得るには都合がいい。


「この国は他国から来た冒険者や自国民に重税を課すことがないのよ。自国民に関しては通貨を月一に配布してるみたいよ」


「それはお父様が以前、幼少期の頃に出会った勇者に教えてもらった仕組みみたいです。ですので、この国は王国制度はあっても、基本的には民主主義なんです」


「リサ、そうだったのか?」


「はい、国民の意思を尊重することで国益を上げることができるからと今に至るみたいですよ」


旧大日本帝国、簡単にいうなら明治時代頃に取り入れた制度に近いってことか。


リサは日本で言うとこの天皇家か、それともイギリスの王族ポジションてとこだろうな。


「そして、ジョセフ様が誤解しないでいいように説明しますけど、この国は絶対君主制ではなくて、立憲君主制であると言うことです。王族、貴族の上流階級、そして貴族、王族御用の商人や町民は中流階級、最後に農民等は労働者階級と区分されてます。労働者階級は稀に中流階級に上がることができますが、貴族に上がることは殆どありません」


「冒険者はどの部類に入るんだ?」


「王族、貴族、商人に町民も冒険者になる例もありますので、その辺りが曖昧となっています。それに、労働者階級が一攫千金を狙って冒険者稼業で生計を立てることが殆どです」


リサの発言からして、王族、貴族、商人の場合は名を上げ、支持率を得るためって理由もあるだろう。


「そういえばこの国は重婚はできるの?浮気がなんたら〜て言ってるからダメなんだろうとは思うけど」


「お父様が国王になる前は可能でした。しかし、お父様はお母様を一途に愛する性格であるが故に重婚制度を廃止しています。ですので、複数の女性とは表向き重婚はできません。しかし、内縁の妻とか愛人を裏で使っている人が多くいるのもまた事実です」


はっきり言って、俺はあまり勉強ができる方ではないからよく分からんがまぁそんな感じなんだろう。


「えっ!それは意外だったな」


と適当に驚き、頷いてみる。


「あのぉ〜、私の妻が現れましたので一度隠れて貰えますか?」


「隠れるっつったって隠れる場所がねぇがどうするんだ?」


「こんなこともあろうかと思い、色々魔法は習得しておきました。闇よ、我らを光からお守りくださいませ、"潜伏"!」


アーサーは急に詠唱を始め、俺達の肉体は透明になっていた。


「これで、私達は他人に見えなくなったはずです。しかし、私は本職が魔法使いではございませんので持続時間は短いかと思います……」


初めてこの世界で魔法を見てみたが感動しそうだ。


魔法とはこんなにも神秘的なんだなと。


それなのに、何気に俺でも真似出来そうな自信はあった。


その根拠がどこから湧き上がるのかは分からないが、本能的にそう感じる。


動画投稿サイトで真似した格闘技を一目見ただけで使いこなせるようにもなったから何か関係があるのだろう。

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