第34話
借り物競争が終わった後。
俺たちは体育館裏に向かった。
人気のない場所で話したいと言われたのだ。
「それで、話って?」
『えっと、その、半年以上前のことですけれど……』
「半年以上前?」
随分、遡るな。
……俺が留学している時のことか。
まさか。
『あ、あの……お、お別れの時のことです』
「あぁ……」
その話か……。
お互い気まずくなるだけだし、個人的に触れたくなかったのだが。
また、責められるのかな。
『お見送りしなくて、すみません』
リリィはそう言って、頭を下げた。
……少し驚いた。
『返信しなくて、すみません。連絡取らなくて、すみません』
「う、うん。気にしてないから」
『酷いことを言って、すみません』
「分かった。その、頭を上げて……」
『……絶交って言って、嫌いって言って、すみません。あれは、嘘です。嫌いじゃないです』
リリィはそう言ってから、頭を上げた。
そしてこちらをじっと、見つめた。
「すきです」
そう言ってから、もう一度頭を深く下げた。
『連絡せず、押しかけてすみませんでした。……元の関係に戻りたいです。お願いします』
元の関係、か……。
「リリィ」
「はい」
俺も頭を下げた。
『言葉足らずだった。すまない。伝わっているつもりだと、思っていた。俺からも……頼みたい。元の関係に戻してくれないか?』
英語でリリィにそう伝えた。
そして顔を上げる。
リリィは……。
「しかたがありません。ゆるしてあげます。かわりに、ゆるしてくださいね?」
目元に浮かんだ涙を指で拭いながら、微笑んだ。
こうして俺たちは親友に戻った。
俺たちは二人でクラスの応援席に戻った。
そこには美聡と母、そして父が待っていた。
丁度いい。
「あ、いた! 二人で何してたの? 逢引き?」
「そんなもんだ」
俺は美聡の揶揄いを適当に流しながら、父に向き直った。
「久しぶり、父さん」
「おお、久しぶり、聡太。で、その子が……“一番可愛いと思う女の子”か?」
父はニヤっと笑みを浮かべながらそう言った。
美聡にそっくりの、笑い方だ。
「そうだ。……リリィ、紹介するよ。このおっさんが、俺の父親だ」
『河西聡司です、ミス・スタッフォード。息子と娘がお世話になっています。……アメリアさんと、お呼びしても?』
父はギザったらしい態度で、片膝をつき、リリィにそう言った。
母はボソっと「いい年して、カッコつけちゃって」とぼやく。
「はい、こちらこそ。アメリア・リリィ・スタッフォードです……おとうさま。リリィと、およびください」
リリィは優雅に一礼した。
……父にもリリィ呼びを許すのか?
初対面なのに?
俺は半年掛ったんだが!?
「お父様? いいね! 娘が二人になるなんて、最高だ!」
「……ふたり?」
リリィはきょとんと首を傾げた。
そして辺りを見渡す。
「もうひとり、いらっしゃるので?」
「ここにいるわよ」
ニヤっと、美聡は笑みを浮かべた。
リリィは不思議そうに首を傾げる。
……何か、不思議なこと、あるか?
「早く食事にしましょう? 時間も押してるし」
「ああ、そうだな。聡太、美聡、どこかいい場所を教えてくれ」
「……みさと、も? どうして?」
「リリィちゃんも一緒よ? 言ったでしょ? 五人でお弁当、食べるって。家族団欒するって……あれ? 言ってなかったっけ?」
『……五人? ミサトも? 家族?』
リリィは立ち止まった。
そしてポツリと、呟く。
『カサイ・ミサト。カサイ・ソージ。……クドー・ソータ。んん? どういう、ことですか?』
「……何が?」
『どうしてミサトと、ソータのお父様の苗字が一緒なんですか? ソータと苗字が違うのは?』
「父さんと母さんが離婚したから。俺は母さんの方に変えた。違うと突っ込まれて、面倒くさいからな」
『ミサトは……?』
「父さんについて行ったから、そのままだけど?」
『……ついて行った? ……え?』
リリィはぽかんと口を開けた。
『姉弟、ですか? 実の?』
「そうだけど?」
『……年が一緒なのは?』
「双子だから。あと、俺が兄な」
二卵性だ。
……あれ?
「言ってなかったっけ?」
『言ってないです!!』
リリィの怒鳴り声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます