第14話 それもすでに習得してる
ティラが去ってから数日後、早速、新しい魔法の家庭教師がやってきた。
「殿下は素晴らしい魔法の才能をお持ちだと伺っております。念のため現時点でどれほどの実力がおありなのか、確認させていただいても?」
「全系統、第四階級まで使えるよ」
「は?」
「第三階級なら五つまで魔法の同時発動ができる。第四階級だとまだ二つまで」
「……は?」
「魔力量には自信があって、第四階級なら三百発くらい発動できる」
「…………は???」
彼女よりも優れた家庭教師という触れ込みだったにもかかわらず、正直言って話にならなかった。
なにせ教われるようなものが何もないのである。
「発動した魔法を、操作するやり方は……」
「それは得意だよ」
「で、では……少し離れた位置に魔法陣を描く方法は……」
「それもすでに習得してる」
一応は第五階級魔法使いらしいが、完全な知識偏重というか、魔法戦闘の経験がほとんどない人だった。
そのためティラのように実践訓練を行うこともできない。
どう考えてもティラの方が優秀なのだが……。
そもそも知識だけなら、王宮の図書室にあった膨大な魔法書を読めば事足りるし。
ちなみにこの新しい家庭教師、魔法学校を首席で卒業した経歴を持つ貴族らしい。
きっと魔法のことをよく知らない人間が、同じ第五階級であれば、家柄や血統、それに経歴が確かな方が優れているに違いないと判断したのだろう。
なんというか、ありがちな間違いである。
「高学歴エリートよりも現場からの叩き上げの方が優秀なパターン、あるあるだけど……」
結局この新しい家庭教師は一か月ほどで心が折れ、辞めてしまったのだった。
そんなこともあって、僕の本当の魔法の才能がアーベル家に知られてしまったのだが、お陰で街の外に出ての訓練が許されるようにもなった。
どうやら辞めた家庭教師が、余計な制限のせいで才能を潰してはならないと訴えてくれたらしい。
残念ながら僕の家庭教師としてはマッチングミスだったが、普通に良い人だったみたいだ。
第四階級以上の魔法となると、王宮の庭程度ではロクに練習もできないから助かった。
護衛の騎士が二人、同行することになったのと、さすがに森での魔物討伐はできそうにないけれど。
さらに王宮内にも噂が広がっているようで、
「セリウス、お前には魔法の才能があるらしいな」
「フリード兄様」
あるとき声をかけてきたのは、僕の腹違いの兄で、第三王子のフリード=シュレガー=ロデスだった。
僕より十個年上の十七歳で、かつて図書室に入れずに困っていた僕の代わりに、ドアを開けてくれた人物だ。
背の高いイケメンで剣の才能に秀で、現在は王宮騎士団に所属し、鍛錬を積んでいるという。
現在この国の王子は僕を含めて五人いる。
しかし血の繋がった兄弟でありながら、日常における接点はほぼないといっても過言ではない。
なにせ、お互い王位継承権を争う敵同士。
背後には各王子の派閥に属する貴族たちがいて、激しい勢力争いを繰り広げているのだ。
僕も他の兄たちから話しかけられることなどまずなかった。
ただ、この第三王子だけは例外だった。
「才能があるかどうかは分かりませんが、魔法は好きです」
「好きかどうかは重要だ。なんでも好きなものほど上達が早い。俺も幼い頃から剣術が好きだった。……ところで、魔道具のクラフトにも熱中していると聞いたが?」
「そ、そうですね。アイデアを形にしていくのが好きなので」
「ふむ。よかったら幾つか見せてもらえないか?」
「構わないですが……」
一体どこから聞きつけたのか、魔道具のことも知っているらしい。
「色々な魔道具がありますが、どれがいいですか?」
「衣服を自動で洗ってくれるものや、ごみや埃を吸い取ってくれるものがあるだろう?」
「【洗濯ボックス】に【掃除ボックス】ですね……?」
「ああ。それがあれば、侍女たちの仕事も楽になるだろうと思ってな」
王宮内でもこの第三王子の人気は高い。
それはこんなふうに配下のことまで考えられる人物だからだろう。
ところで、僕が王子として生まれたロデス王国は、長い歴史を誇る伝統国らしい。
かつては広大な地域を支配し、他大陸にまで勢力を伸ばしたこともあるのだとか。
だが近年は国力の低下が著しく、衰退の一途を辿っている状況だという。
最大の原因は、貴族の腐敗を主因とした国の無策。
もはやこの国には未来がないと国民に見放され、人材の流出が加速していた。
そんな厳しい国の現状にありながら、現国王、つまり僕の父親は、政策の大半を配下に任せきり、自身は遊興に耽るばかりの無能な王だった。
まだ四十かそこらだが、早く王の座を次世代に譲り、自分は隠居してのんびり暮らすことばかり考えているらしい。
生憎、少しでも長く権力の座に居座りたい周りの大臣たちがそれを許さず、まだあと数年は先だろうと言われているが。
それでも一体誰が次期国王の座に就くのか、近頃の王宮内はその話題で持ちきりだった。
二十五歳の第一王子は病弱で、国王の器ではないと言われている。
王位継承権としては第一位なのだが、本人もあまり乗り気ではないことから、可能性は低いとされていた。
第二王子は二十歳で、もっとも次期国王として可能性のある人物だ。
しかし数多くの家庭教師をつけられ、幼い頃から英才教育を受けてきたにもかかわらず、とても王政を担えるとは思えない愚鈍な人間らしい。
部下へのパワハラは当たり前、あちこちの女に手を出し、浪費癖も酷いという。
そのうえ自尊心も強く、玉座への執着は兄弟たちの中で断トツだった。
第三王子は前述の通り十七歳。
第一王子と同じ母から生まれているにもかかわらず剣の腕に優れ、人望も厚い。
王位継承において、第二王子の最大のライバルと目されていた。
というか、この第二王子と第三王子の二人に絞られているといっても過言ではないだろう。
僕と違って二人は母方の家柄もよく、背後にいる勢力も圧倒的だ。
「僕はバックも激弱な第五王子だからね。最初から戦力外だし、いわゆる骨肉の争いというやつに巻き込まれそうになくてよかったよ」
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