二四話 なんで、こんなことになっている?
「醜いもので、目を
「は?」
「その、忘れるの難しいくらい汚いものだったのは詫びる。すまな、い。だが、てめえがいきなり振り向かせるから悪いんだ!
「……本気で、そう、思うのか?」
叫んで、ほとんど絶叫になった言葉で私に
――本気でそう思うのか? ってどういう意味で言っているんだ。だっててめえが見たのは私の醜い素顔。
それともてめえが悪い、というなすりつけた部分に対してかかった言葉だったんだろうか。その方がいくらも納得できる。こいつは悪くない。私を見つけて、声をかけて、不審に思って振り向かせて、これまた偶然、面がずってしまって私がさらしてしまった。
そう、か。私が悪いんだ。
逆に雨が降らないことが続いても私は容赦ってなんだっけ? といったふう殴られ蹴られて罵られて
そう、中にいる
「なにが、だよ」
「本気で俺の目を汚した。そう思うのか?」
「? なに、言って」
「お前、鏡を見ないのか?」
「見ない。醜い顔が見つめ返すのに……」
「……バカ、な。俺は、俺はお前ほど美しく綺麗で神々しい者を見たことがない!」
なに、言っているんだ、こいつは。いつの間にかどこかで頭を打ったのだろうか。美しい、綺麗、神々し、い? なにを見て、そんな言葉を吐いているんだ気色悪ぃなッ!
だというのに、だ。相手の言葉で怖気が走り、鳥肌が立つというのに動けない、私いったいどうした? さっさといつもの調子で
なのに、動けないのはどうして? 動揺しているのか、もしくは驚いているのか?
心臓が爆発しそうな音を立てているのも訳がわからない。なんで、こんな、うるさく鼓動を打ち鳴らすんだよ。おかしいだろ。この汚い、醜い顔を見られたってのに、さ。
それとも、見られたから、だろうか。きっと、そうだ。でも、最初で最後になるであろうはじめて
そう決め込んでとっとと立ち去ろうとした私の手首を掴む大きな温かいよりもむしろ熱いくらい温度の高い手。あの男が私の腕をしっかり掴んできっちりと捕まえていた。
「な、なにちょ、放し」
「その衣、
「違、は、放せっ」
「どこの者か、教えてくれ」
こいつ、変態? 教えて、と言われても私は正式に
つまり、そう言われても言えない。でも、言わないと手を放してもらえそうにないというこの状況は気まずいどころではない。顔を見られただけでも最悪だっていうのに。
「なにをしておるか、わっぱ!」
「!」
すると、突然鋭い声がして赤い炎が
同時に私自身を水で覆う。この声。けど、どうして……てめえ酒をやりたいって。
自分で言ったのにその
「
「
私は私を守ってくれる水の中から月の姿を確認してつい、ほっとしてしまう。で、なぜだかわからないが、そちらを見た。あの変な男がいる方を。彼は月の炎に驚いた様子だったが、つい、と私に視線を移した。強い、瞳。強固な意志を持った瞳にあるナニカ。
彼はよろ、と立ちあがって炎に飛び込んで私の前に立ってくれた月を見て一言「あやかしか」とだけ言った。その目に異端の者を見る色は、ない。……おかしくはないか?
世間一般にあやかしとは穢れ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます