二一話 しっかりしっかり、洗われて
と、もここ、もっちりした奇妙な、生まれてはじめての感触に驚いた。危うく
「はい、動かないの」
「え、う、え」
「いいから。これでも足りないのよ?」
それは湖で助けたことについてか? 気にしなくていいのにというかどうか気にしないでほしい、が本音。だって、こんな
こういうのを
私なんかにこんな綺麗なひとが触れている。あの
で、終わったかと思ったら髪を纏めていた手拭いを取られてそこに湯をかけられ、
恥ずかしい。気持ちいいけど恥ずかしい。私は無意識から面を押さえてぎゅっと目を
で、最後にもう一度湯をかけられておしまい。終わった終わって乗り越えた、私。
これで今後の風呂はひとりで入れるし、作法も覚えたから大丈夫だと思うので桜綾様に言って離れてもらい面を一瞬だけ外して目を瞑ったまま
手拭いで顔をこしこし拭いて面をつけた。面そのものはまた
……。一着しかないんでないと困るんだがと思っていると
「こちらでいかがでしょう?」
「ええ。とっても似合うと思うわ。
「は?」
「あなたの服はお洗濯にだしておいたから私のお古で悪いのだけどこれを着ていてちょうだい。仕立てるにもあなたの体をはからないとわからないし、間にあわせ、だけど」
私の中で桜綾様の印象がガラッと変わった瞬間だった。こ、このひといつの間にそんな手配したんだっ!? 全然気づかなかったというより、気づけるひといなかったな?
なので、私はちと観念が入っていたし諦め多分で桜綾様が覗き見た籠の中身を見てサアアー、と青ざめたのがわかった。風呂で温まった筈なのにどうしてか血の気が引く。
体を隠す手拭いがふるふる震えるのがわかる。これ、どう考えても高級品、では?
籠にしまってあったのは桜綾様たちが纏うべき薄墨色ではなく、
これ着るの、私? こんな見事な刺繍とところどころ
それを
うわあ、思わずうっとりするくらい肌触り最高。これを着て私が元々着ていた服、着られるかな。そんなどうでもいいことを心配する程度、とんでもなく高級なお衣装様。
服は桜綾様のお古で間にあわせだと言っていたが、古着に特有のにおいもなくて。きちんと手入れされていたのだとわかる。なぜ、黒に属しない色の服があるかは謎だが。
まあ、いっか。
月に一応、礼を言って面の紐をきっちり結い直した私は桜綾様たちに続いて応接間にある椅子をすすめられたので腰かけた。ら、即行侍女たちが私の髪に
私はどうしたらいいかわからなくて硬直してしまうが対面の長椅子に腰をおろした桜綾様と
「? ほほう、静よ。研くものぢゃな」
「あ?」
「絡み気味だった髪がまるで
「みどり?」
「美しい黒髪のことをそう言うのぢゃよ」
「……髪がどうだろうが
月の茶化しているのか、率直な褒め言葉なのか。軽く言われすぎて判断に迷う言葉に私は自身と相手にも向く皮肉を述べておく。私の面は、
見ていないのに、でたらめを言っている自覚はある。だが、少なくとも美しくはない筈だ。私は鬼に
勘違いしてはいけない。この時間も有限であり、私には予期せぬ事態なのだから。
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